第十四章 明かされた真実

「こっちだ勇者さん!」


嫌な予感はこのことだったのか。


ダリアが瀕死の重症だと?


また魔族に襲われたのか?


焦る気持ちを抑えつつ、ダリアの様子を見ると、お腹にぽっかりと穴が開いていた。


ダリアは安らかに眠っている。


――死んでいる?


「大丈夫。ギリギリだけど生きてるよ。」


医者のおじさんがそう言ってくれる。


とはいえまだ予断を許さないようだ。


「俺は、間違っていた…」


わなわなと震えながらワイは、パーティーのメンバーに言う。


「さっき、<ブルードラゴン>の子供を殺した時は、そこまでやらなくても。って正直思った。でも、もし今ダリアを襲ったのが魔族だったらって考えると、やっぱり魔族は根絶やしにしなければいけないんだって思う…」


「そうだな。しっかりと気持ちを整理して、次の討伐に参加しよう。」


ヤグルマソウが慰めてくれる。


ワイは1人部屋に戻る。


革袋にはドラゴンの子供がいるが、今は魔族は見たくもない。


そのまま部屋の隅に放置しておく。


ダリアは大丈夫なのだろうか?


この日の夕食は何にも喉に通らなかった。


数日後、チーゼル・ヤグルマソウ・モナルダ・オミナエシ・アザミの5人は<レモンバームの丘>のモンスター討伐に参加した。


この討伐チームの目的は、すもも村までの動線の確保だ。


グラジオラス・カルドン・ローゼル・ヒゴタイ・アヤメは魔法の習得を目指すため、りんご市に待機した。


ワイは、お見舞いをしつつアイテムを集める。


『スカーレット。俺は絶対に魔族を滅ぼしてみせるからな。』


スカーレットのお墓参りも終わり、ダリアが入院している病院へと足を運んだ。


コンコン。


どうせノックしても声は返って来ないんだがな。ここ数日、ダリアが目を覚ます気配はない。


「どうぞ。」


懐かしい声がする。


勢い良くドアを開けてしまった。


「タロー。ドアはそっと開けるものだぞ。」


弱々しくダリアが言う。


うるせい。心配かけやがって。


まだ起き上がれないらしい。


ん?いつもとダリアが様子が違う。弱っているからだけではない。辺りを気にしている気がする。


「どうした?」


ワイが聞くと、少し慌てたようなびっくりした表情をする。


「タロー。ダリアのことを気にかけてくれるのか?いつものタローなら絶対に気にかけないのだ。」


「あからさまに周りを気にしてたら何かあると思うだろ?」


「タローは1人で来たのか?」


少し考えてからダリアがそう言う。なんだ?何かあるのか?


ワイは黙って頷く。同時に部屋のドアを閉めた。


きっと聞かれたくない話があるのだろうと、直感した。


「実は話しておきたいことがあるのだ…」


そう前置きをしてダリアは、自分が襲われた状況を教えてくれた。



神の軍勢?神たちは魔族を滅ぼしたい?


「神が俺たちに魔族を滅ぼさせたいと思うなら、何で俺たちの仲間を殺したんだ?」


ワイの呟きにダリアは首を横に振った。


なんだ?もう何を信じていいのか分からなくなってきた…


魔族が悪という考えは、神たちによって植え付けられた印象操作ってことか?


でもそれなら、ワイ達に直接魔族を倒せと言えばいいのにそれをしない理由は?


ワイがダリアと仲良くしているから?いや、そうだとしても魔族を滅ぼすのが正しいと言う方法はいくらでもあるはずだ。


わざわざ他の人間を扇動する必要はないはず。


「何か他に大きな目的があって、この扇動を俺に知られたくなった。だからダリアを殺そうとしたってことか…」


「ダリアはずっとタローを守るのだ。だから傍にいたいのだ。」


何を言ってるんだよ。今はダリアの方が重症でワイに守られているじゃないか。


守ると言えば、そうだ。


「ダリア。これもみんなに秘密にして欲しいんだけど、実は<レッドドラゴン>の子供を1匹拾ったんだ。」


今度はワイが2匹のドラゴン討伐の様子を話して聞かせた。


まだ起き上がる力もないはずなのに、ダリアは拳をぎゅっと握った。


ただ、ワイ達はこのことをすぐにはみんなに話さなかった。


特に意味があったわけではないが、誰が怪しいか分からないというのも1つの理由だし、わざわざ言う必要がないというのもあった。



数日後、ダリアが退院しヤグルマソウ達が戻ってきた。


ダリアがパーティーに復帰したことを皆に伝え、ワイ達は次の遠征へ向かった。


目指すは<ラベンダー湿原>。


ワイとダリアは表面上、魔族の数を減らすことにしているが、その実神の軍勢とやらはワイに神の村まで来て欲しがっているはず。それならそこへ向かってしまおうというわけだ。


勇者であるワイを殺そうとはしないだろうから、何とか交渉ができるかもしれない。


それともう1つ目的があった。


それは、人類以外の種族を仲間に引き入れることだ。


《依頼内容》


・ラベンダー湿原のモンスターの討伐


《隠れたクエスト》


・ドラゴンの赤ちゃんを育てる


・神の村に行き、神の軍勢に会う


・他の種族を仲間に引き入れる



パチリ。


木がはぜる音が響く。


<ラベンダー湿原>でワイらは野営している。


見張りのメンバーは多めにしている。


ワイ・アヤメ・チーゼル・オミナエシ・アザミの5人だ。


いや。正確にはワイは見張りではない。単純に起きていただけ。


チーゼルと話したかったのだ。


みんなと少し離れた場所でワイはチーゼルに、まずはダリアの正体を話す。


更に、神の軍勢やワイが魔族を滅ぼしたくないということも。


チーゼルは黙って話を聞いてくれた。


「…そう。ダリアが魔王の娘…それに神の軍勢が魔族を滅ぼそうとしていると…なるほどね…あなた。このこと他の人には言わない方がいいわ。」


チーゼルは悲しそうな顔でワイを見る。


「あたなの意見。私は尊重するわ。神の村へ向かって、どういう意図なのかしっかりと聞きましょ?さ。もう遅いからあなたは寝なさい。」


そう促されてワイは寝袋にくるまった。



チーゼルは今までで一番頭を使っていた。


一人でぶつぶつと独り言を話していた。


「すると神の一族が魔族を滅ぼしたいがために私達をけしかけたってこと?何のために?自分達では魔族は滅ぼせないのかしら?それに太郎の言う通りスカーレットを殺したり街を破壊する意味もわからないわ」


はっ!とチーゼルは真相に気が付いてしまった。


周りも気にせず考え込んでしまっていた。背後に人が立っていることに気がつかなかった。


「気がついてしまったか…」


感情のこもっていない声がする。


「そのためにあなたたちが私達のパーティーに送り込まれたってわけ?」


チーゼルは、やられた。と悔しがる。


「その通り。神の村へ勇者に来てもらい、我々の目的を果たしてもらうためにな。」


「あなた達は人間じゃないの?人間なら目的は分かっているでしょ?勇者が現れたのよ?ずっと願ってた勇者が!」


「残念だよチーゼル…その言葉を聞いて確信した。人間は神の敵なんだな。」


チーゼルが心臓を剣で貫かれる。


同時に大きな警報が鳴って周りの仲間が目覚める。


「残念だったわね。スカーレットがやられてからずっと。勇者である太郎を取り巻く私達人間は絶対に神の軍勢に排除されると思っていたの。あなた達が捕まれば勇者は神の村へは行かないわ。あなた達の計画は失敗して、私達人間の計画が成功する。」


血を吐きながらチーゼルが自分を刺した男、ヤグルマソウを睨む。


警報を聞いて見張りをしていたアヤメ・オミナエシ・アザミの3人が飛んできた。


問答無用にオミナエシが刀でヤグルマソウに切りかかるのを、背後からモナルダが来て止める。


「あなたもだったのね…」


チーゼルが悔しがるが、アザミが召喚魔法を唱え始める。


召喚獣が出現すればチーゼル達の勝利だろう。


たとえここで全滅しても勇者にさえ、神の軍勢の目的が知れれば問題ないのだから。そうチーゼルが思っていたが、甘かったようだ。


「魔法なんて使わせないよ?」


暗闇の中からカリモーチョが現れて、強烈な光の光線でチーゼル・アヤメ・オミナエシ・アザミの4人と、仲間であるはずのヤグルマソウ・モナルダを殺した。


「カリ…モーチョ…様…」


モナルダが信じられないという目でカリモーチョを見た。


「人間なんて生き残らせるわけないでしょ?あ、君たちは人形か。」


そう言い残してその場から消えた。


その場には1枚の手紙を落としていた。



けたたましい音でワイは目覚めた。


さっき眠ったばかりな気がするのに。


なんだなんだ?とカルドンの慌てた声がする。


モンスターの襲撃だろうか?


その場に向かうと、6人が重症だった。


「チーゼル!アヤメ!」


嘘だ。スカーレットに続いて、他のメンバーがやられるなんて嘘だ。


「ごめんなさいね…太郎…ヒゴタイをよろしく頼むわ。あの子を不幸にしないでちょうだい。」


何を言ってるんだよ!今は自分の心配をしろよ!


「こんな私と少しでも一緒に居てくださってありがとうございました。」


背後から力なくアヤメが言う。


やめろよ。


今にも死にそうなことを言うなよ。


「本当に勇者さんのことが大好きでした。」


もう目の前で誰も死なないでくれよ!


「くそ。俺たちが捨て駒だったとは…」


隣で苦しそうにヤグルマソウが言う。


オミナエシとアザミは2人で最後の言葉を言い合っている。


「君と旅が出来てワシは幸せだったぞ。」


「アチもよ。」


2人はキスして息を引き取った。


アヤメもチーゼルも満足そうな顔をしていた。


ヤグルマソウとモナルダは悔しそうな顔だ。騙されていて敵だったとはいえ、やっぱり人が死ぬのは嫌だな。



ワイ達はりんご市に戻った。


チーゼル達のお墓はスカーレットの隣に作った。


メンバーは一気に減った。


ワイ・ダリア・グラジオラス・カルドン・ローゼル・ヒゴタイの6人だ。


「初期の頃のパーティーに戻った感じだな。」


みんなを元気づけようとしたワイの言葉も虚しく過ぎ去る。


再び、心に大きな穴が空いてしまった。


「話があるんだ。」


ワイが全員を読んだ。


「ダリアは魔王ブッドレアの娘だ。ダリアを襲ったのは神の軍勢と名乗る者達。どうやら俺に魔族を滅ぼさせるのが目的だったようなんだ。で、ヤグルマソウとモナルダは神の軍勢の仲間だったようで、チーゼル達は多分ヤグルマソウにやられた。」


ここでワイは一度言葉を切った。


湿原から街に戻るまでの間ずっと考えていたことだ。


いつまでも落ち込んでいても仕方ない。


神の軍勢がワイの仲間を殺すというのなら、ワイは神の軍勢の言う通りには絶対にならない。


「俺は、魔族が悪という考え方を改めたい。もちろん、街道で遭遇すれば魔族であるモンスターは襲ってくるだろうし、そうなれば戦闘になって戦うことになる。でも必要以上に戦うようなことはしたくない。あのドラゴン戦のようなことはしたくない。たとえどんな理由があろうと、自分達が魔族を倒すという行為を正当化するのは違うと思う。」


「そうだな。何でもかんでも殺すという行為は間違っているな。襲ってくるなら戦闘もありうるが、必要以上の戦闘は回避すべきだな。」


カルドンが同意してくれた。


「そうだね。正直ウチも、あのドラゴン戦はやりすぎだと思ってた。」


ローゼルも頷く。


「ダリアちゃんが魔王の娘だってのは驚いたけど、でも何か妙に納得かも。」


ヒゴタイも頷いた。


想像以上にみんなが同意してくれた。


「あの。それでは私たちはこれからどうするのでしょうか?」


グラジオラスが訊く。


これもワイには考えがあった。


「人族以外の別種族を仲間にしつつ、神の村へ行こうと思ってる。」


「ダリアはタローにずっとついて行くのだ。」


ドンッと背中をパンチされた。


痛いよ。


みんなのおかげでちょっと元気が出た。


痛みを抱えながらもワイ達は前へ進むのだった。

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