第六章 レモンバームの丘での攻防
ワイ達へなちょこでヘンテコなパーティーは、レモンバームの丘に向かうことになった。
レモンバームの丘は、りんご市から東に向かうとある。
ここには、強力な<グラスランドタイガー>がいるらしい。
レモグラライオンと同じかそれ以上に強いらしいので、遭遇したくない。
従って、静かにモンスターに見つからないように行動することにした。
そういう約束だったはずなのだが…
「あんたねぇ!いい加減にしなさいよ?」
ローゼルがチーゼルに怒っている。
「なぁーによぉー!キスなんてねぇー!早い者勝ちなのよー!」
「マスター!マスター!大丈夫ですか?」
まぁ、このメンバーで静かに行動とか無理だったわけだけど。
道中で、チーゼルがカルドンに不意打ちのキスをしたのが発端。
これにグラジオラスとカルドンが悲鳴をあげ、カルドンは意識不明の重体に。
ダリアが昨日はワイにまでキスをしてきたと怒り、それを聞いたローゼルも怒ったわけだ。
「いつもこんなに賑やかなの?」
ワイの隣にタタッと走ってきてスカーレットが訊ねる。
「まぁ。だいたいこんな感じかな。」
ふふっ。と笑いながら、楽しくて何より。とスカーレットは言った。
「僕だってまだ太郎ちゃんとちゅーしてないのに!」
ヒゴタイが頬を膨らませるのを見つつ、まぁ辛気臭いよりはマシかと思った。
「あらぁ?あなたぁー。」
チーゼルが何か言おうとしたが背後からアヤメがポカリ。とチーゼルを叩いた。
「勇者さんはみんなのものです。」
相変わらず声が小さい。
「あなた可愛いわねー。」
可愛いか?ただのギャルだぞ。
チーゼルがにやりと笑ってアヤメのミニスカをめくった。
なんと!そんな攻撃があったとは!黒!やっぱエロいな。
「きゃっ!止めてください。」
スカートを抑えながら小さな声で抵抗するアヤメ。
相手が高校生の制服着たおっさんだからか、変態に襲われてるように見えるな。
「なんだよアヤメー。エロいの苦手とかいいながらちゃっかりウチが買ってあげた下着着てんじゃーん。」
ローゼルがからかう。お前か!あのパンツは!
「そういうことなら今度私も一緒に買い物に行きたいわ。勝負パンツが欲しいのよ。」
ローゼルの巨乳を揉みながらチーゼルが頼んでいる。
チーゼルが勝負する時ってなに?戦うの?
「いいわよ!ウチにかかればどんな男もイチコロよ!すっげーエロいの選んであげる!」
猫背の背筋を伸ばして自信満々に言うから怖い。性格ギャルだしこういうの得意そうだし。
「ダ!ダリアはいらないからな!そんなエッチなの。タローはあぁ見えて純粋そうなのが好みなのだ!」
何を言ってるの?とゆーか。ワイの何を知ってるの?
「勇者様もマスターも下着で女性は選びません。」
その通りだグラジオラス!
「なぁーに言ってるの?下着は女にとってはオシャレと戦いの両方の意味があるのよ?あなた達みたいに下着に拘らないでいると、男も逃げていくし、他の女に男を取られるわよ?」
だからチーゼル。お前が女を語るな。キモい!
「そういうものなんですか。勉強になります。」
ヒゴタイは妙に納得している。というより、かなりチーゼルから学ぼうとする姿勢が強いな。やめとけやめとけ。
「すまないグラジオラス。どうやら俺は魔物の亜種に悪魔のキスをされてしまったようだ。」
カルドンがグラジオラスの肩に捕まりながら言う。
この2人はなんかもうお似合いだな。
チーゼルは魔物の亜種扱いだし。まぁ2の世界だから放っておこう。
グラジオラスも、マスター!マスター!とか言ってるし。
「凄いね。あの2人。年齢も離れてるし性格とか全然違いそうなのに息もピッタリだしお似合いだよね。」
スカーレットもワイと同じことを思ったらしい。
「まぁあの2人は、波長が合うというか、カルドンの好みにグラジオラスが毒されてるというか。」
苦笑いしながらワイは答える。
「でも。ああいうのいいなぁ。」
微笑ましそうに羨ましそうにスカーレットが言う。
戦いに身を投じているが中身は女子高生。
恋したい年頃だしな。
ワイだって同じくらいの年だしその気持ちは分からなくはない。
「ねぇ。太郎は違う世界から来たって言ってたよね?その世界では女の子と男女の中になったりしたの?」
顔を覗き込みながら聞かれる。
ワイの前世は女っ気が全くない人生だった。
そういうのとは無縁の陰キャだったし、ややオタク気味だったし。
ワイが言いよどんでいると、スカーレットが更に言葉を続けた。
「ねぇ。今の外見と前世の外見って違うの?性格は?運動神経とか頭の良さとかは?」
そう言えば気にしたことがなかった。
「見た目はそうだなぁー。あんまり変わらないというよりも同じだと思う。髪の毛はもっと長くてローゼルみたいに目のあたりまであったかな?身長も同じだし性格も一緒…だと思う。最近は女子に少し慣れてきた感じ。」
ふーん。と言いながらワイの顔をまじまじと見る。
「いいと思う!私なら好きになってたかも!」
ニコッと微笑まれながら告白まがいのことを言われた。
「私はさ。チーゼルとずっと旅してるじゃない?そうするとたまに旅の途中とかで恋に悩む男女に出会うこともあるのよね。チーゼルはあんなだから、結構恋愛のイロハとか知っててさ、アドバイスとかして恋を助けちゃうこともあるのよ。」
今や下着の話からいかに男心を掴むのかという話をしているチーゼル達をちらりと見て、スカーレットが話し続ける。
そうか。チーゼルはあんなだけど。いや、あんなだからこそ、男心も女心も分かるのかもしれない。
それなりに恋愛の達人になっていても不思議じゃないな。
「そういうのを見るとさ、やっぱり羨ましいんだよねー。私もさ、こういう旅に出る冒険者の仕事をしてなければ、ああやって恋してドキドキしてとかやってたのかなーって。違う人生って言うの?そゆのをたまに想像するんだよね。」
違う人生か。
あの時ああしてたらどうだとかこうしてたらどうだっただろうとかか。
ワイがもしあの時死んでいなかったらどうなっていたのだろう?
相変わらず同じ仲間と集まってアニメやアイドルの話で盛り上がっていたのかな?家に帰ったらゲームして、女の子とは一切話せないままだったのかな?
「でもね!」
先頭を歩きながらワイの方を振り向き、スカーレットは後ろ向きで歩き始めた。手を後ろに組みながら笑顔でワイに言う。
――今は太郎に会えて幸せ!
ワイの答えを待たずにくるりと前に向き直ってしまう。
こういう時に、女子に慣れていないと困る。どうしていいのか分からないのだ。
でもそんなことは考えなくても良くなった。
目の前にあの強敵、<笑う木>が現れたからだ。
●
ここにいる<笑う木>は、<ラベンダー山>の麓に居たのとは別個体。
つまり、<ジャイアントビー>や<グルッポフォルミーカ>の巣があるかは分からない。
確かなことは、<笑う実>とセットということ。
「カルドン!グラジオラスを連れて離れて待機!アヤメ!カルドン達とは違う場所でヒゴタイと待機!あなた達は盾になって守りなさい!」
チーゼルが手慣れたように指示を出す。いつもならカルドンの役だがカルドンよりも経験豊富なので、カルドンも何も文句を言わない。
「ダリア!あなたは私と本体に攻撃を仕掛けるわよ。ただし、実を降らせる攻撃には注意してちょうだい。それから、葉の中にはどんなモンスターがいるかも分からないから、基本はヒットアンドアウェイよ?」
「分かったのだ!」
返事をしつつダッシュで<笑う木>に向かう2人。
早い!
「後は任せたわ!」
スカーレットにそう言い残して、ダリアと共に打撃を入れていく。
スカーレットはワイとローゼルと共に<笑う木>から出てくるであろう他のモンスターの警戒をする。
「<笑う木>の厄介なところはね、他のモンスターと共生しているってところなのよ。噂ではカラードラゴンと共生している個体もあるそうよ。」
スカーレットが忠告する通り、<笑う木>には<ジャイアントビー>の巣があり、たくさんの蜂が飛んできた。
幸いにも、前回のような<グルッポフォルミーカ>は居なかったが、変わりに蜂の巣が大量にあるみたいだった。
「厄介な個体のようね。こういう個体を倒しておかないと、こういう街道の安全が守れないのよ。」
スカーレット達冒険者の仕事なんだと言う。
「この蜂!素早すぎてウチの弓矢じゃ当てらんないよ?」
ローゼルが歯噛みする。
「矢は使わないで!勿体ないから。2人とも待ってて。」
そう言い残してスカーレットは<笑う木>の葉が生い茂る中へと入り込んでいった。
「危険じゃないの?」
ローゼルが絶句しながらワイに言う。
前回のことが余程堪えたようだ。
そうしている間にも蜂の大軍がこちらへ向かってくる。
「ほい。」
ピョンッ。と木の枝からスカーレットが飛び降りてくる。
2本の枝を切り落としてきたらしい。
同時に複数の<ジャイアントビー>を倒していた。
「これで蜂を叩こう。」
自分自身はもう一度葉に潜り込むと言った。
「危ないんじゃないの??」
ローゼルが忠告すると、枝をひょいひょい登りながら返事が返ってきた。
「へーきへーき。私に攻撃対象が移ったら、ダリアとチーゼルが留め刺しちゃうし。私たちはあくまで他のモンスターを警戒してればいいの。それに、さっき蜂の巣があったからちょっと落としてくる。」
ちょっとそこまで買い物。
みたいな感じで言い残して、スカーレットは姿を消した。
ワイの印象では<笑う木>は弱くない。むしろ強い部類に入る。
でもしっかりと倒し方さえ分かっていれば、問題なく挑める敵らしい。
今回みたいに、カルドン・グラジオラス組とヒゴタイ・アヤメ組が遠くから別々の場所で<笑う木>を囲む。この2組は何かあれば回復したり攻撃したりしてくれる。
やや近場にはワイとローゼルが。木から出てくるモンスターを次々に討伐することで、数を増やさせない。
スカーレットはそのままモンスターの巣を急襲し、ダリアとチーゼルの破壊力あるパンチで木の本体を叩く。
いくら複数のモンスターと共生していても、こうやって対処してしまえば比較的楽に倒せるのだ。勉強になる。
「全員退避!<デスストーカー>がいたわ!」
そう思っていた矢先、スカーレットの声が響く。
その警告と共に一定以上の距離を全員が開ける。
<デスストーカー>は蛇だった。
しかも巨大で猛毒を持っている。
更に厄介なことに、カメレオンのように擬態をしてくる。
「何匹いたの?」
鋭くチーゼルが訊ねる。
「私が確認したのは2匹だけど、この大きさに2匹ってことはないでしょ。」
<ジャイアントビー>の巣を片手に持ちながらスカーレットが言う。
中は煙の魔法で全滅いているらしい。このモンスターの巣からも蜂蜜が摂れるらしく、革袋にしまっていた。
「こいつはやり過ごしましょ。」
少し考えた後、チーゼルが提案した。
「そんなにヤバいのか?」
目の前の蛇を見ながらカルドンが訊ねる。
ワイはもう気絶しそう。
ローゼルもワイの腕にしがみついている。こんな時なのに胸の感触がたまらん!
「<デスストーカー>はその名前の通り、とてもしつこいの。しかも人間を死に至らしめる毒を保有しているわ。残念ながら血清も毒消しもまだないのよ。戦うには厄介この上ない敵ってわけ。」
1対1なら勝てるけど、今回は複数いるみたいだし。と付け加えた。
そうと決まれば話しは早い方がいい。迂回して先に進めばいいだけの話。
「こんな危険な個体をここに放置しておくのもなんだから、後で街に連絡を入れて討伐隊を――」
チーゼルの言葉がそこで止まった。
目の前にトラが現れたからだ。
「<グラスランドタイガー>…」
スカーレットが絶句する。
肉食動物が<笑う木>と共生していたのだ。
「私たちを逃がしてはくれないようね。背中を見せちゃダメよ!背後から襲われるわ!」
チーゼルが注意する。
「地面にも注意して!木が根っこで攻撃してくるから。この距離なら<笑う実>の攻撃は届かないし、<ジャイアントビー>は冷静に対処すれば大したことないわ!」
「つまりは、目の前のトラを倒すのが最優先ということだな?」
スカーレットの警告を聞いてカルドンがまとめた。
そういうことよ!と言いながらチーゼルが<グラスランドタイガー>に向かってパンチを繰り出す。
グラジオラスが<ファイア>を撃とうとすると、スカーレットが止めた。
「トラはチーゼルとダリアとローゼルに任せましょ。私たちは木に住んでいる蛇を倒すわよ。」
スカーレット・アヤメ・グラジオラス・カルドンで目の前にいる<デスストーカー>の相手をすることになった。
ワイはヒゴタイを守る護衛役だ。
蛇が嫌いだからとか、トラが怖いからとかじゃないよ?回復役を守るのは戦いの鉄則だし。
ていっ!ほらね?たまに蜂が飛んでくるから。
それにしても、スカーレットが言うように、<ジャイアントビー>は冷静に対処すれば大したことないようだ。
問題なのは、モンスター同士が連携してくるってところか。
ワイは時折飛んでくる蜂を叩き落としながらそれぞれの戦いを観察した。
●
<グラスランドタイガー>と戦っている、ダリア・ローゼル・チーゼル組は優勢だ。
トラに飛び道具がない上にチーゼルのパンチが非常に重いようだ。
更にローゼルの弓矢も数本に1発は当たっているのでこの上なく順調だった。
「あなた下手ねー。」
なんてチーゼルに言われているが、当の本人は気にしていない様子。数うちゃ当たる戦法のようだ。
「ローゼル!ダリアに矢が当たっているのだ!気をつけるのだ!」
「しょうがないだろ!そんなところにいるダリアが悪いんだ。」
ダリアとは仲がいいんだか悪いんだか、毎回ケンカしてる。
「ローゼル!矢を1本貸して!」
チーゼルがケンカする2人を止めもせずに言う。
ローゼルがチーゼルの元へ向かう。
入れ替わるようにダリアがトラの相手をした。
パンチにキックと相変わらずの格闘バカだが、チーゼルの攻撃のダメージが残っているのかかなり効いていそうだ。
「これで留めよ!」
ローゼルから預かった矢を槍のようにしてトラへ突き刺そうとする――
これでダリアたちの勝ちだろうと思い、グラジオラス・カルドン・アヤメ・スカーレットの戦いを見る。
ちょうど1匹の蛇がグラジオラスの<ファイア>で焼かれたところだった。
「アヤメ!」
短くスカーレットが指示をだすと、アヤメもはい。と返事をして大剣を叩き込む。
ところが、蛇を思いもよらない速さでアヤメの剣を避けた。
「とう!」
ナイフで威嚇をしつつ牽制しているのはカルドンだ。
ワイは今のうちにグラジオラスをヒゴタイの元へと引っ張ってくる。
魔力を無くしたグラジオラスは使い物にならないからね。
ふと、チーゼルが何か叫んでいるのが聞こえる。
「逃げて!」
<グラスランドタイガー>は倒せていなかった。
3匹いたのだ。
内1匹が留めをさそうとしたチーゼルを襲った。チーゼルは肩から大量の血を流している。執拗に追われてヒゴタイも回復魔法を発動できないでいるようだ。
もう1匹は、まさに今スカーレットが蛇に剣を叩き込もうとしていたその腕を噛みちぎった。
幸いにも腕をもがれずにすんだが、パーティー最強の2人を失ったワイらに勝ち目はない。
「撤退だ!」
カルドンが短く言う。
ワイはカルドンにグラジオラスを任せ、ダメージを負ったスカーレットを脇から支えた。
「走れるか?」
そう訊ねるワイにスカーレットは力なく答えた。
「トラに背中は向けちゃダメだ。」
そうだった!背後から襲われるんだった。
だからチーゼルはこっちを向いていたのか。
「大丈夫です。私が盾になります。魔法剣士さんをお願いします。」
アヤメに言われて、スカーレットに集中する。
血が止まらない。
「タロー!平気か?」
ダリアが隣まで来てくれた。
「血が止まらないんだ。」
「僕が魔法をかけるまで食い止められますか?」
ヒゴタイが駆けてくる。チーゼルも重傷だ。
トラは3匹。
迎え撃つのは、ダリア・ローゼル・カルドン・アヤメ・ワイの5人。
「少ししか時間は稼げないぞ。」
カルドンが背中ごしにヒゴタイに言う。
次の瞬間、ナイフでトラの爪攻撃を受けていた。間一髪というところだ。
「カルドンを離せ!」
組み伏せられたら人間に勝ち目はない。
ダリアがトラを蹴り飛ばして難を逃れる。
ローゼルは1匹に弓矢を放ちまくって牽制している。
アヤメも盾で攻撃を凌いでいる。
「治りました!」
後ろからヒゴタイの声が聞こえる。何とかなりそうだ。
「私たちが万全でもトラ3匹はキツいわ。ましてや病み上がり。失った血もすぐには戻らないし、とにかくりんご市まで戻りましょ。」
そうチーゼルが提案したが、今回の敵はそう簡単にワイらを見逃す気はないらしい。
「<笑う木>の中には動ける個体がいるのは知ってるけど、まさかこの個体が動ける個体なんて…」
スカーレットが絶句する。
そう。木だから動けない。動けないならある程度離れれば攻撃してこないと思っていたワイらは甘かったようだ。
この<笑う木>は、どうやら動けるようだ。
もちろん共生しているモンスターを引き連れて。
危険なのは、トラと蛇。木は地面から根っこで突き刺し攻撃をしてくるから、それだけ注意すればいい。
「ふん!」
チーゼルが地面を叩くと、土が針のようになって次々に木に向かって行った。
「チーゼル!あれを!」
スカーレットが何かやる気だ。
チーゼルから小さな包みを受け取ると、木に向かって投げつける。
同時に<ファイヤーウォール>という魔法を使って、火の壁を作り出した。
包みは炎で破られて、辺りに砂塵をまき散らした。
周囲一帯は、砂と炎と煙に包まれた。
ワイらは今のうちに何とかりんご市まで戻った。
●
「危なかったわね。」
チーゼルがベッドに横たわりながら言う。
必要ないと思うが、ブラを床に脱ぎ捨てているのは何なのだ?
「砂塵の包みがなければ逃げれなかったかも…」
スカーレットも横たわっているが、こちらはパンツもブラも見えない。残念だ。
「とりあえず、私たちが回復するまで、あなた達には必要なアイテムを入手してもらうわ。あの木は危険すぎる。今倒しておかないとどんどん共生するモンスターを増やしてしまうわ。」
というスカーレットの言葉に従い、ワイらは言われたアイテムを購入した。
砂塵の包み、姿隠しの粉、音消し草、毒消し草、回復薬、精神薬、香草袋、煙玉だ。
まずは、音消し草を煎じて薬を作った。
他にも、ローゼルの弓と矢を補填した。
「ここなら珍しい物も売っているはずだし、ちょっと見て回ろう。あいつらを倒すアイディアが浮かぶかもしれないし。」
スカーレットに言われて、2人で買い出しに出た。
日持ちしそうな食糧や飲み物を買いながら、アイテムを見て回る。
「<グラスランドタイガー>は皮膚が硬いから、こういう撒菱は効かないんだよね。どう思う?念のために買っておく?」
スカーレットに聞かれるが、正直あまり散財はしたくない。
言われた物の購入でかなり財布が厳しい状況だ。
スカーレットやチーゼル達もそんなに持ち合わせがないと言っていたし、泊ってる宿代もかかる。
「ならさ、私たちで少し依頼こなしてお金稼ぎしようよ!」
デートしようよ!みたいな感覚で言われたことに違和感を感じたんだが、スカーレットはワイの腕に絡みついてきた。
ということで、チーゼルとスカーレットが回復してからというもの、りんご市を拠点に各自必要なものを揃えながら依頼をこなして小銭も稼いでいた。
あの<笑う木>を倒せるプランが出るまでは、エルフの森へ向かえない。
倒せるまでのアイテムなどを集めることが目的だ。
ワイはスカーレットと行動を共にすることとなった。
チーゼル・アヤメ・ヒゴタイ・ローゼル・ダリアの5人は女を磨くとか何とか言って、キャバクラみたいな店で働いているらしい。
グラジオラスとカルドンは互いのレベルアップを目的としていた。
というわけで、ワイとスカーレットがアイテムやら食糧やらを調達する係となっている。
「前にスカーレットが言ってたけどさ、撒菱はトラには効かないって話。全く効果がないの?」
市場を見て周りながらワイが訊ねる。
「そうね。全くではないけど、ダメージはほぼ0よ。私たちも、小石を踏んでも多少の違和感しかないでしょ?それと同じよ。」
なるほどね。
スカーレットと共に立てたプランとしては、煙玉で蜂や蟻は倒せる。もしくは牽制できる。
厄介な蛇は、蛇掴みという珍しいアイテムを見つけたことで何とかなりそうだった。
簡単に言えば長いトングで、巨体な蛇を掴んで動きを封じて、杭を打ち込んで地面から抜け出せないようにする作戦だ。
「蛇掴みで捕獲さえ出来れば、問題はないと思うの。ただ、問題は捉えることができるかどうかってことよね。」
確かにそうだ。カメレオンのように擬態して更に動きも早い<デスストーカー>を、果たして捕獲できるのかどうか。
木本体は、植物ということで火が弱点なので大した脅威ではない。
最悪火炎ハンマーを使うという作戦もある。
火炎ハンマーとは、そのまんまで叩いた箇所を燃やすことができるのだが、使用者にまで火傷を負わせるリスクもあった。出来れば、使いたくない代物だが、最悪の場合には使うだろうと購入してある。
トラには、刃物が有効ということくらいしか思いつかなかった。
もう1つ試してみようと思う作戦があった。
それが夜襲だ。
姿隠しの粉などを駆使して夜中に少しずつ、モンスターの数を減らそうというものだ。
こいつらの厄介な点は、モンスター同士の連携なので、その数が減れば比較的倒すのは楽になる。
「もし夜襲をかけるなら、狙うのはトラか蛇よね。蜂の巣を根こそぎ潰すのも悪くないけど。」
上手にトラか蛇単体を狙えれば、この作戦は大きな成果を生む。
「ただ、危険も付き物だし、少数精鋭で向かった方がいいかもね。」
そう言ってタタッとお店へ駆け出すスカーレット。
お、これ可愛いなんて言いながら髪飾りを見ている。
いつもお世話になっているしな。
「1つ買おうか?」
「いいの?」
物凄い笑顔だ。
「1つだけだよ?」
必至に選ぶ姿がまた可愛い。
「これにする!」
そう言って決めたのは、折り紙で折ったかのような金属製の鶴が付いた髪ゴムだった。
「へへー。人生初プレゼント貰っちゃった~。」
似合う?とポニーテールにしながら聞いてくる。
かなり可愛い。
「太郎はさ。ダリアとかヒゴタイとかローゼルから好かれてるの自覚してる?」
唐突に聞かれた。
そりゃ、あれだけ積極的だとね。
ハーレムルートだし。
「じゃあさ、アヤメとかチーゼルから好かれてるのは?グラジオラスはカルドンと太郎の間で揺れてるように見えるなー。」
気づいてる気づいてる。
「もちろん私だって同じだよ?でもなんかみんなより一歩先に行った感じ!プレゼント貰えたし。」
ニコニコしながらクルクルとその場で回る。
スカートがふわりと浮かぶ。
「恋愛経験はないけどさ、何となくだけどさ、それでも太郎はきっと誰も選ばないんだろうな。って思う。」
ピタリとワイの方を向いて止まってスカーレットが言う。
そう言えばそうだ。いずれは誰かを選ばなくちゃいけないんだ。
いつまでもずっとハーレムのままでいいわけないんだ。
考えてもいなかった。いや、考えようとしてなかっただけだ。
物語の主人公だと、ハーレムのまま終わったり、実はその中に正ヒロインがいたりするけど、実際にはそんなの分かるわけもないんだよね。
誰が正ヒロインで誰が准ヒロインかなんて。
いや、そんな順位付け本来あり得ないことか。
「みんなから一斉に告白されて、誰かを選ばないといけなくなった時、太郎は誰を選ぶのかな?私だったら嬉しいな!」
いつの間にか宿についていた。
そう言い残してスカーレットは部屋に去って行った。
誰かを選ばないといけなくなったら?
ダリアを選ばなければ間違いなく世界を滅ぼされてしまう。でもそれは最初だけの話で、こうして一緒に旅をしている内にその考えは変わっている気がする。お父さんもそれには気づいているはず。だからワイがこんなにハーレム状況でも怒らない。
チーゼルとグラジオラスはないな。チーゼルはまず女じゃないし。いや、心は女だろうけどね。
グラジオラスはカルドンがいるからな。あの2人、ほんとみんなが羨むくらいのお似合いなんだよな。息もピッタリだし。
アヤメはどうだろ?見た目がなー。やっぱギャルはちょっと。同じような理由でローゼルも却下。中身がギャルはもっと無理。
となるとやっぱ残るのは、ダリア・ヒゴタイ・スカーレットか。
最初の頃は、ヒゴタイかなと思ってたけど、最近はスカーレットと行動を共にすることが多いしな。
ダリアは幼いから、恋愛対象として見れないし。
「まだ起きてたの?」
背後から声をかけられて飛び上がる。
チーゼルだ。
さっきまで変なこと考えていたからちょっと気まずい。
「あなた最近スカーレットと仲いいみたいだけど、あなたに気持ちがあるなら、それなりの対応をしてあげなさい。私たちはこういう仕事柄、いつ死んでもおかしくないわ。今生きているこの瞬間を大切にしてあげなさい。」
いつになく真面目なトーンで諭される。
「それと。ヒゴタイはやめておきなさい。あなたの手に余るわ。」
「それってどういう意味?」
「太郎。あなたは偏見が強いタイプよ。私やこの街のギルドの受付だって同じ人間よ?人を好きになるし恋にも落ちる。でも自分たちが他の人と違うことは自分たちが一番よく分かっているわ。それを変な目で見られたら傷つくってものよ。」
そうか。ワイは知らず知らずのうちにチーゼルを傷つけていたんだ。
「それにね。そういう目って意外と気づかれるものよ。これからエルフの森やドワーフの洞窟に向かうなら、そういう偏見の目では絶対に見ないことね。」
他の種族にあらぬ誤解を抱かれないように。と念押しされた。
でもそれとヒゴタイにどんな関係が?
「あなたってほんと鈍感なのね。まぁいいわ。ヒゴタイよりも今はスカーレットでしょ。あなたの気持ちはスカーレットに向いているわ。それならその気持ちをそのまま真っ直ぐぶつけてあげなさい。」
「でも、そしたら他のみんなは?」
ワイのことを好いてくれているのはスカーレットだけじゃない。
ワイとスカーレットがくっついたら他のみんなは残念がるだろう。
何よりワイの最終目標はハーレムなんだから。
「あのね。恋は理屈じゃないの。誰かを好きになるのに理由なんていらないのよ。気がついたら気になって好きになっている。そういうものなの。」
ふむふむ。でもだからって他の人が納得するとは限らない。
「ふぅ。あなたってスカーレットと同じで恋愛経験ないのね。あのね。友達と同じ人を好きになったとして、その好きになった相手があなたの友達とくっついたら、あなたはその2人とはもう関わらないの?そんな薄っぺらい関係じゃないでしょ?恋人を奪ったわけじゃないんだから。」
あぁそうか。学校とかでたまに聞く、《好きな人が被る》というやつだ。
ワイのような陰キャには関係ないと思ってたけど、そうか。ハーレム状態なんだから関係あるのか。
つまり、ワイが誰かを選べばみんなはそれで納得するってことか。
本当なら、ワイはハーレムを目標にしたいんだけど、今のワイの気持ちはハーレムよりもスカーレットに向いている。それは理屈どうこうで動かせるものじゃなく、ワイの気持ちは1つに固まってるようなもの。
ってことか。
「チーゼル…さん。俺、スカーレットをもっとよく知りたい。」
にこりとチーゼルは微笑んだ。
あ。ワイはやっぱり偏見でチーゼルを見てたんだ。
チーゼルってこんな優しい顔するんだ。
「出来るだけ2人でいる時間を作りましょう。そしてそのためにもあの木を倒しましょ。」
ぎゅっとワイの手を握ってくれる。
それだけでワイは勇気を得た気がした。
絶対にあの木を倒してみせる!という今までにない決意が湧いてきた。
●
翌朝、朝食の時にワイは昨日話したスカーレットとの会話を話題にだした。
「あの木を倒す方法なんだけど、夜襲を仕掛けてみるのはどうかな?」
どれ程成果があるかは分からない。
だが、手をこまねいていても仕方ない。
作戦の詳細を説明すると、参謀的立場でもあるカルドンとチーゼルが賛成した。
「その少数のメンバーにもよるが、蛇もしくはトラを1匹でも倒せれば、こちらの勝率はぐんと上がるな。」
焼き魚を綺麗にほぐしながらカルドンが言う。
「メンバーはどういった感じになるのでしょうか?」
シリアルを食べながらアヤメが訊ねる。
「そうね。ヒゴタイとグラジオラスは不参加でいいでしょう。」
小指をピンと立てながらコーヒーを飲みつつ、チーゼルが言う。
確かに夜襲なら魔法の類よりもアイテム重視だしな。
「私とチーゼルとローゼルとダリアでどうかしら?」
スカーレットが提案する。昨晩の内に考えていたのだろう。
「アヤメとスカーレットを入れ替えましょ。私としては、グラジオラスとカルドンは今まで通り互いのレベルアップを計ってちょうだい。」
ずっと。コーヒーを飲んでチーゼルが一息入れる。
「ヒゴタイ。あなたにはサポート魔法を覚えて貰うわ。カルドン。グラジオラスだけじゃなくてヒゴタイの魔法も見れるかしら?」
「うむ。サポート魔法だな。任せろ。」
カルドンが頷いて応える。
「私が外される理由は?」
スカーレットがむくれる。
「あなたと太郎にはアイテムの購入を頼みたいのよ。アヤメでもいいけど、実践をつんでほしいってこともあるし理解してちょうだい。」
「分かったわ。くれぐれも無理しないでね?」
「私がいるんだから大丈夫よー。」
ドンッと厚い胸板を叩く。
「夜襲なら、逃げる算段として光系統のアイテムがあった方がいいんじゃないか?」
確かにカルドンの言う通りだ。そういったアイテムって売ってたっけ?
「分かったわ。それも探してみる。」
メンバーから外されたのが余程堪えたのか、朝食もそこそこにスカーレットが立ち上がった。
いくわよ。と目で訴えかけてくる。
「私たちは今夜の夜襲に備えて作戦会議よ。」
●
その夜、チーゼル率いる夜襲チームは宿を後にした。
<閃光花火>という、火を点けると光を発するアイテムがあったので、それを入手して渡しておいた。
「ここからは細心の注意を払ってちょうだい。計画通りにいくわよ?」
街の外でチーゼルが言う。
<笑う木>が居たのはあと少し先だ。
まずは全員が頭から<姿隠しの粉>をかけた。粉がかかった部分は光が奇妙に反射したり屈折したりして、その姿を映さなくする。
時間が経つと、粉が少しずつ体から落ちてしまうため、徐々に姿が現れてしまう。同様に激しい動きなどをして粉が落ちても姿が見えるようになる。
次に<音消し草>を煎じた薬液を飲む。一定時間、飲んだ者が発する一切の音を遮断してくれる便利な薬だ。
<香草袋>を開封したら準備完了だ。これによって人間の匂いを消してしまうわけだ。香草袋の匂いの効果が消えた後は、一般的なハーブとして調理に使えるので非常に便利なアイテムだった。
<姿隠しの粉>を使っているので、みんなも自身の姿が見えないので、その前段階で打ち合わせをしっかりとしておかないと、連携もなにも無くなってしまう。
動物が動く音などはするが、夜襲チームが発する音もしないから、尚更何をしているか分かりづらいのだ。
<笑う木>は眠っていた。
辺りを<グラスランドタイガー>1匹と<デスストーカー>1匹が警戒していた。
モンスターのくせにかなり知能がある個体のようだ。
まずは蛇を、予定通りチーゼルが<蛇掴み>で挟んで捕まえる。すかさずダリアの怪力で蛇を地面に杭で打ち付ける。
数か所打ち付けて蛇を動けないようにした。
留めは時間がある時に刺せばいい。
蛇に異変があったことでトラが警戒した。
ローゼルの弓矢は当たらないので禁止されている。
代わりに仕込みナイフを使うように指示がった。
ローゼルのナイフはリーチが短いがアヤメの大剣なら長くて、不意打ちならトラにも当たる。
そういう作戦だった。
案の定、アヤメの大剣がトラに当たりトラが暴れだす。
すかさずアヤメがその場を離れる。
トラが暴れた場合は撤退するという作戦だったので、全員が街へと避難し宿に戻った。
●
「危なかったわね。」
チーゼルが開口一番に言う。
あのままトラが暴れていたら誰かが傷を負ったかもしれないと。
「すぐに逃げて正解だったってことね。」
出番が無かったローゼルは消化不良といった感じだ。
「あのヘビはどうなるのでしょう?」
アヤメが訊いているのは、地面に突き刺された<デスストーカー>のことだ。
「あの杭を誰かが抜くことはないと思うわ。私たちが向かへばまだあそこに刺さったまんまでしょうね。」
ふーとスカートをうちわ代わりにして仰ぎながらチーゼルが応える。
お行儀悪いわよ。とスカーレットに注意されていた。
「明日もまた夜行くのか?」
ダリアの問にチーゼルが首を降った。
「夜襲はもう警戒されていると思うわ。とりあえず、昼にまた攻めてみましょ。ヘビが1匹減っただけでどれだけ楽になったのか検証できるし。」
「こちらはまだ進展がない。すまない。」
チーゼルがカルドンの方を向きながら言ったので、カルドンが頭を下げた。
グラジオラスもヒゴタイも新しい魔法の習得や魔力の増加はまだ出来ていないようだ。
「私たちは、もうアイテムの購入は終えてるわ。いつでもレモンバームの丘に再び行けるわ。」
スカーレットはやる気満々だ。
「いいわ。明日、みんなで再び<笑う木>と戦いましょう。倒せれば上々、トラかヘビの数を減らせれば可といったところね。アイテムは使いどころが肝心よ!無駄にしないようにね!」
明日また、あいつらと戦うのか。
以前のチーゼルの言葉が頭に浮かぶ――
――私たちはこういう仕事柄、いつ死んでもおかしくないわ。今生きているこの瞬間を大切にしてあげなさい――
「スカーレット。」
部屋に戻ろうとする彼女を呼び止める。
全員がこちらを見る。
「あっと…ちょっといいかな?」
みんなに注目されているとかなり気まずい。
こういう経験は初めてだ。
ダリアとローゼルとヒゴタイはむくれている。
なんだよー。とか、スカーレットが本命か。などと言い、ハイハイ。とチーゼルにあやされている。
アヤメは目をうるうるさせながら走って部屋を出ていった。
「行こうか?」
背後からカルドンの声がする。隣にはグラジオラスが居た。
なんと!手を繋いでいる!
その手腕。ぜひ手ほどき願いたいものだ!
通り過ぎ様にカルドンがウインクしてきた。
イケメンは何をしても似合うな。
全員がいなくなって静かになった、会議している部屋。
スカーレットがキョトンとした顔でこちらを見つめている。
どこか期待している表情もしている。
「えっとさ。その…なんて言うか…」
段々と声が小さくなるワイ。情けない。
心臓の鼓動がうるさい。もしかしたらスカーレットに聞かれてるんじゃないか?
喉がカラカラだ。
そんなワイの様子を見たスカーレットがクスリと笑う。
「とりあえず座ろっか?」
あ。確かに立ったまんまするような話じゃない。
はい。と冷たいお茶を出してくれる。
一気に飲み干すと少し落ち着いた。
心臓はさっきと同じくらいうるさいけど、もう気にならない。
「ありがとうね?」
ワイが何か言う前にスカーレットがお礼を言う。
「え?」
思わず声が零れた。
ふふっ。とまたスカーレットが笑う。
「みんなの前で私を呼び止めてくれたじゃない。太郎たちとの付き合いはそこまで長くないけどさ、濃い毎日を送ってるつもり。でさ、太郎がみんなの前で誰かを呼び止めるのって私が知る限り初めてなんだよね。」
気付かなかった。
「太郎は私を選んでくれたってことなのかな?」
テーブルの向こう側から身を乗り出して、下からワイを見上げてくる。
「え、選んだとかそういうのじゃなくて、えっと。」
自分で自分の思考が分からない。
スカーレットのことは好きだ。と思う。
好きとかよく分からないけど、嫌いじゃない。可愛いし優しいし一緒に居て楽しいし。
「俺は、その…付き合うとかそういうのがよく分かんなくて…えっと。つまりさ。スカーレットのことは嫌いじゃない。多分好き…だと思う…えっと…なんて言うか…」
ワイはスカーレットと付き合いのか?それとも気持ちを伝えたいだけなのか?
「今はその気持ちが聞けただけで嬉しいよ!私もさ、付き合うとかそういうのはよく分かんないし。とりあえず他の人よりは上だと思っていいよね?これからは、なるべく私と一緒にいてくれる?」
これはもしや、友達以上恋人未満ってやつか?
友達から始めましょう的な?
スカーレットの勢いに押されてワイは頷いてしまった。
「やったぁー!男女の関係ってのがよく分からないけど、デートとかしてみたいし色んなお話とかもしてみたい!それに接吻にも興味ある。」
頬を赤らめながらスカーレットが言う。
「これからが楽しみだね!私に生きる理由をくれてありがとう!」
そう言ってスカーレットは寝室へ戻って行った。
あれ?キスする流れじゃないの?
それにしても生きる理由か…何の目的もなく生きていたのかな?
そう考えてから、自分も目的がなく生きていることに気が付いた。
窓を開けると夜の澄んだ空気が鼻と部屋を満たした。
『まぁ今はこのままでいいや!』
そうワイは思った。
外から入ってきた夜の香りがワイを包み、それからそっと部屋を抜けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます