最期の悪魔
あーく
最期の悪魔
ピッ――……ピッ――……
「お爺さん!しっかりしてください!お爺さん!」
「……タケシは?」
「ご家族の方はもうすぐ来られますよ!」
「……そうか」
「お爺さ……88号室の
「よう、じじい」
「誰じゃ?貴様は」
「俺は悪魔。ここはお前の精神世界だ」
「そうか、わしは死んだんじゃな」
「いや、お前はまだ生きている。まぁ、臨死体験というやつだな」
「閻魔様、わしは天国に行けますかのう?」
「誰が閻魔だ。俺は悪魔だ」
「ちょっと耳が遠くてのぉ」
「……精神世界って耳関係あったっけ?まぁいい。とにかくお前を助けにきた」
「お迎えかの?」
「今からお前の願いを3つ叶えてやろう。ただし、寿命と引き換えだ」
「……」
「どうした?驚いて声も出ないか?」
「わし、今日朝ごはん食べたかのう?」
「話聞けよ!」
「ああ、願いか」
「聞いてないようでちゃんと聞いてたようだな」
「寿命を引き換えって、わしはもう死ぬんじゃが」
「いや、だからそこは『不老不死にしてくれ』で解決すると思うんだが……」
「でも一人じゃ生きられんし……」
(くそ、なかなか頭の切れる爺さんだな。不老不死は人間が一番望む願いだが、実は地獄が待っている。死ねないということは永遠の苦しみを受け続けるということだからな)
「わしの病気を治してくれ」
「……あんた老衰だぞ?」
「治してくれんのか?」
「いや、病気もなにもあんたは病気にはなってないぞ?」
「わしの願いを叶えてくれるんじゃろ」
「……まぁ、他にないなら仕方ねえな。他は?」
「あとは、家族に会いたいのう」
「……他」
「婆さんに会いたいのう」
「もっとこう、夢のある願いはないのかよ。金とかさぁ」
「わしが金を持って何になるんじゃ!」
「だからそこは不老不死の願いでだな――」
「わしはもうすぐ死ぬんじゃよ!」
「……いや、だから不老不死で――もういい!お前の願い叶えるぞ!『病気』『家族』『妻』だな!これ以上相手にしていられん!」
「弥生さん!しっかりしてください!」
「……」
ガラガラ
「おじいちゃん、私だよ!」
「お義父さん!大丈夫ですか!」
「お父さん!しっかり!」
「……」
ツー……
「……弥生さんの心肺が停止しました。死亡の手続きをお願いします」
「弥生さんももういい歳だったからねえ。88か。医療技術が進歩したとはいえ、そこまで生きられる人は少ないのにねえ。それじゃあ、記録お願いね」
「はい。
「一人か。寂しかったろうな」
「そういえば妄想とか幻聴って認知症の症状にありましたっけ?家族と会いたがることがよくあって、亡くなる直前も『お婆さん、今そっちに行くよ』とかなんとか」
「まあ、本人にとっては幸せなんだと思うよ」
最期の悪魔 あーく @arcsin1203
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