第37話 告白

「フローラ……怖かったか?」


 ロイがフローラを引っ張り人通りのない路地の裏に入り開口一番に聞いた。

 ちなみにセルクはというと「あいつらの今後の動きを探ってきます」と、姿を消してしまった。

 落ち着いたところで、ロイはフローラに声をかけたのだ。


「え? あれ……」


 ロイに言われてはじめて気づいた。なぜかぽろぽろと涙があふれてる。

 ロイの身体でみっともなく泣いてしまったら怒られると、慌ててフローラはハンカチで涙をぬぐうけれどそれでもあふれる涙が止まらない。


「あー、ごめんちょっと調子にのりすぎた。

 フローラの体で好き勝手しすぎてそのごめんっ」


 ロイが慌てて、とりつくろうとする。


「ち、違います……」


「え?」


「そうじゃないんです。そうじゃない」


 初めて庇ってもらえたのが嬉しかった。

 どんな理不尽な攻めでも、いつも謝るしかなくて、おかしなことをいっているのに誰もかばってくれなかった。

 だから嬉しかった。間違っているのが自分じゃないと言ってもらえて。

 理不尽なのが王子だと叱ってもらえて。


 それだけで嬉しくてあふれる涙が止まらない。

 言葉がうまくでなくて、それを一つ一つロイに説明するけれど、嗚咽でうまくしゃべれない。

 

「いいかフローラは凄いんだ自信をもっていい」


 そう言って抱きしめてくれるロイは暖かくて、フローラもぎゅっと抱きしめる。


「フローラだから俺と一緒に、世界を変えよう!」


「……世界を?」


「そうだ。

 俺の夢は、貴族だけが富を独占するのではなく、皆が豊かに暮らしていける国を大陸全体に作ること。

 それにはどうしても優秀な人材がいる。君にぜひ手伝ってもらいたい」


「でも私にそんな力……」


「あるさ。

 龍脈をあてたように、君は広い視野ですべてを総合的に判断できる力をもっている。

 王族として一番大事な力だ。そして頭もいいし、なにより思慮深い」


 体がふわっと浮き上がる。

 一瞬冷気を感じたことからロイの魔法の効果なのだろう。


「フローラ、君の背にはとても美しい翼がある」


 ロイの言葉とともにフローラの背に綺麗な翼が現れる、ロイの氷魔法魔法でつくったものだ。


「飛ぶ羽を折られたらどんなに綺麗な鳥だって飛べない。

 約束する、俺はお前のその美しい羽根を大事にする。

 あんな自尊心と虚栄心まみれで翼を折って飛べなくして満足するようなやつらなんて空から見下してやろう。

 俺と一緒に行こう。絶対君を大空に自由に羽ばたかせてみせる」


「殿下」


「フローラ、どうか俺とともに歩んでほしい」


 そう言って、フローラの手の甲にロイは唇を落とした。

 その言葉に嬉しくてフローラは泣きながら頷いた。


「精いっぱいがんばります」


「じゃあ」


「はい、よろしくお願いします殿下」


「うっしゃー!!!!」


 言葉とともに、ロイはフローラを力いっぱい抱きしめるのだった。



★★★



(殿下に配下になってほしいと改めて言われてしまいました)


 デートの後セルクに城まで送ってもらったフローラは、魔法で着替えるとすぐさまベッドにもぐりこんだ。

 嬉しくて顔がほころんでしまう。

 空に浮かびながら言われた言葉にいまだときめいてしまう自分がいる。

 自分の身体のはずなのに、ロイの毅然としたフローラはかっこよくて、いまだに心臓のときめきが止まらない。


 ロイ殿下は本当に王子様みたい。


 物語の主人公のような愛の言葉をささやいて、いままでたくさんの人達を虜にしてきたのがわかる気がする。


 レクシス様、七賢者セルク様、六聖人エルティル様。


 皆がロイの元に集まり手助けを申し出る理由がわかる気がするのだ。


 父アレスと一緒に殿下に仕えれる。それだけで嬉しくて仕方がない。


(殿下の夢がかなえられるように、勉強して少しでも役にたてるようにならないと)


 ぎゅっと枕を抱きしめて、フローラはつい頬をほころばせた。

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