第32話 帰還
『終焉に眠りし、時と空間の英霊よ。失いし主への道を示したまえ!!!!』
セルクの言葉とともに魔方陣が床に描かれ、ぱぁぁぁぁと光るが何もおこらず魔方陣が消滅する。
「くそっ!!!」
セルクは再びまた別の魔法でロイとの魂との道を作ろうと試みる。
呪具で呼ばれたのなら魂経由で道を作ればたどりつけるはず――
すでに複数の高度な魔法を試しているにも関わらずロイへのルートが開かない。
呪具で異空間に閉じ込められてしまったロイがどんな理不尽な要求をつきつけられているかわからない。
氷の騎士アレスが逆らえなかったように、この国の国王は何か操れる呪具をもっていてもおかしくないのだ。
ロイがアレスのような束縛を受ける事だけは絶対に避けないと。
『霊玄に飲まれし友の魂よ、われの声、われの――』
ごぼっ
呪文を唱えていたセルクの口から突然血があふれた。
短時間で高度な魔法を試しすぎたため、体が魔力の負荷に耐えられなかったのだ。
「なっ……」
そのまま体に力がはいらなくなり。セルクは床に倒れる。
違う。こんなことをやりたいわけじゃない。
ロイを助けないと。
「セルク様!!」
「邪魔をするな!!!!」
そばに控えていた執事がセルクに近寄るが払いのける。
あの糞王子はいつもそうだ。
好き勝手やりたいことをやって、自分を心配させて、それでも笑ってなんでもこなしてしまう。
いつもそれが当たり前で、そばにいるだけで心臓がいくつあってもたりなかった。
セルクがくじけてしまっても、ロイはいつもあきらめず勝手にダッシュで走って問題に殴り込み、勝手に問題を解決してしまう。
だからこそ、心配だった。
なんでも不可能を可能にできてしまったから、いつだって無謀で。
その無謀さで命を落としてしまうのか不安でしかたなかった。
そしていま、その不安が的中してしまったのではないかという焦りが、セルクを襲う。
呪具はまだ解明できてない謎が多い。
もし異空間に呼ばれたロイの身になにかあったら?
いくら魂が王子でも体はフローラだ。いつものようにうまくいくとは限らない。
物心ついたときからただ真っ暗な暗闇を一人で過ごして、夢を見ることも自由があることも知らなかった。
鎖を全身に巻かれ魔方陣が書いてある部屋に押し込めらえていた。
食べ物も与えられずそれでもなぜか死ぬこともおなかがすくこともなかった。
時折悪霊退治と神官達が自分を殺しにきたが自分を殺そうとする神官達はセルクが何もしないのに勝手に死んでいった。
(僕はなに?人間じゃないの?化け物なの?なんで生きているんだろう?)
光も見えず、ただただ暗闇の中で生きる日々に光を与えてくれたのはロイなのだ。
自分に生きる意味も道も見出してくれた。
彼のためならなんだってできると誓っていたのに、側にいたのにやすやすと連れ去られてしまった。
まだだ――あきらめない。
セルクは立ち上がり再び詠唱をはじめる。
『異界なるっ!!!!』
「すとーっぷ!!!!!」
魔法を放とうとしたセルクの身体のロイが後ろから抱き着いた。
その声にセルクが慌てて振り返る。
「セルク!? 血吐いてるじゃないか!?
何無茶しているんだ!?なんでお前が瀕死なんだよ!?」
「……ロ……イ様?」
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ。
そんなことよりはやく神官に回復してもらわないと!?」
言葉を言い終わるよりはやく、セルクがロイを抱きしめる。
その体は震えていて、ロイはセルクの背中をそっと抱きしめた。
「あー、心配かけてごめん」
ロイはロイとセルクの足元で「あひゃあひゃ」と言ってよだれをたらして横たわっているデデルを気にすることなく、子どもをあやすようにぽんっとセルクの背中を叩いた。
★★★
「フローラ話がある」
「で、殿下」
セルクが大けがを負って、エルティルに治してもらったという報告がきてから、五日ほどすぎたころ。
フローラはロイの業務をこなし夕食を終えて、いつものように就寝しようとしたところで、部屋に入ってきたのは……自分の体のロイだった。
「殿下!? ご無事でしたか!? セルク様が大けがをしたと聞いて心配しておりました」
レクシスから国王デデルに閉じ込められたとは聞いていたが詳細は教えてもらえず、心配するしかできなかったフローラは思わずロイに詰め寄った。
「あー、大丈夫大丈夫。セルクは心配しすぎなだけだったし。俺の方はぴんぴんしてる!」
力こぶを作るポーズでにししと笑う。
「よ、よかったです。それでセルク様は大丈夫なのですか?」
「うん。まぁ元気かな」
ロイは腕を組んで考え込む。
身体の方はエルティルの治療で完璧に治ったのだが、ロイを心配で慌ててしまったのがよほど恥ずかしかったらしい「放っておいてください!?」と塔にかえってしまった。
仕方なく今回はエルティルに頼んで転移の魔法でシューゼルク王国に送ってもらったのだ。
「よかったです!」
ほっと胸をなでおろすフローラ。
その安堵の顔がついカワイイと思う。
それでも体はロイの身体そのものなのだが、魂が違うとこうも仕草も表情もかわるものかとまじまじと見てしまう。
「え、えっと……こ、こうやって直にお会いするのははじめてですね」
フローラが照れたように視線をさまよわせながら言う。
「あ、そういえばそうだな。いつも通信していたからあまり気にならなかった。改めてよろしくなフローラ」
「よろしくお願いいたします。殿下」
ロイが手を差し出すと、フローラが一瞬まよったあと遠慮がちに手をにぎりかえした。
「ところで、殿下、今日はなぜもどってきたのですか?」
後ろに控えていたレクシスが問う。
「あ、うん。アレスがなんで目を覚まさないのか理由が分かった。
そしてアレスの目を覚ますことができるのは――たぶんフローラ君だけだ」
「え?」
「詳しくは私が説明いたしましょう。」
そう言って扉からひょっこりエルティルが現れるのだった。
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