第19話 嬉しい
(誉められました。優秀だなんて恐れ多い。
今までどんなに頑張っても不備の点ばかりを追求され誉められた事などなかったのに)
通信を終えて、ロイの部屋に戻り侍女たちに着替えさせられてベッドに戻るとフローラは顔を覆う。
嬉しくて顔がまだ赤いのがわかる。
(どうしよう、嬉しすぎて顔が熱すぎる)
なるべくレクシスや侍女たちと顔を合わせないようにフローラは顔を下に向けていたけれど見られたりしていないだろうか?
王子の体で顔を真っ赤にさせていたのでは不敬にあたってしまうかもしれない。
そんな事を考えているとレクシスがくすりと笑って、就寝の準備をはじめる。
「フローラ様そろそろ、おやすみなってください」
「あ、はい! ぐっすり休んで王子の健康を管理しなければいけませんものね」
頑張らないと。殿下の期待に応えるために。
そう思いながらフローラはそのままベッドにもぐりこんだ。
★★★
く。あいつ本気で通信をきりやがった。
先ほどからフローラを口説こうとなんども本国に通信を送っているがレクシスに一方的に切られたため全くつながらない。
「殿下の愛のささやきは聞くに堪えませんから」
セルクがコーヒーを飲みながら言う。
「なぜだ!?俺は本当の事しか言ってない!?」
「そうやって恥ずかしい愛の言葉をささやいて何人落としてきたのですかね」
がーっと叫ぶロイを横目にセルクはコーヒーに砂糖を大量に入れると優雅にかき混ぜた。
「何を言う優秀な人材は全部迎え入れる!
そして彼らの優秀さに見合うだけの地位と権力を手に入れて大陸制覇し、神殿も黒の塔も上回る帝国を築き上げて、その優秀な才能に見合った能力を発揮できる場所を提供してみせる!!
そして貧富の格差の少ないみな食うに困らない世界を作るんだ!
そのためにならどんな苦労も厭わない」
びしっと変なポーズをとりながら言うロイ。
「……だからそういうところです」
「だからどこがダメなんだ!?」
誰もが目指す理想の世界。
貧民もそれなりに最低限の生活が送れ、身分など関係なく優秀な能力があるものが評価されそれに見合うだけの職につけ、教育をうけられる世の中を作り上げる。
理想など所詮理想にすぎず、領地を広げればそれだけ行き届かなくなりどこかしら不正が生まれ、全国民に行き届くだけの職や富をいきわたらせるなど無理な話で、貧民が生まれるのは仕方のないことだ。
富を貴族が独占し、身分の差で職につけない。
これを撤廃してしまえば今度は貴族が黙っていないだろう。
彼らの優越感を奪う事になる。
どうしても優劣をつけたがる人間が相手である以上、貧富の差は必要悪であるとセルクは思う。
彼の語る物語は夢物語にすぎない。
それなのに、彼ならなぜかそれを可能にしてしまうのではないかと夢見てしまう。
そう夢を見させてしまう魅力を彼はもっている。
(……真っ先に口説き落とされた自分が言える立場ではないのですけどね)
セルクはコーヒーを飲みながら心の中でため息をつくのだった。
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