第16話 ドクズ!
「あーなんで婚約者にこんな重要なをさせているんだこの国は!?
文官やら専門職のやる仕事まで混ざってるじゃないか!?」
山積みになった書類をペンを走らせ片付けながらロイが言う。
ロイが仕事をしているうちにセルクが魔法で城の様子を探索しているのだが、その間ロイは仕事をこなさなければいけないわけで、仕事の量に悲鳴をあげた。
「それあなたがいいますか。自分の仕事をフローラ様にやらせているでしょう」
「俺はいいんだ! 愛だから!」
「自分はよくて他人は駄目って一番駄目な返事だと思いますが……」
セルクが魔法を唱えながらうんざりした口調で答える。
「いいか、人間は大きく記憶型と思考型に分けられる。そして領主に求められるのは……」
「殿下、そのなんとなくかっこいい事を言って話をそらそうとする癖なんとかなりませんか」
ドヤ顔で何やら語りだすロイに、セルクは食い気味に突っ込んだ。
「くっ、バレたか。まぁいい。
とりあえずこの地域は極端に軍事に回している金額がすくないな。
作物の数値がうまく改ざんしているが、すべてのデータを照らし合わせると不正な横領がまるわかりだ。
ここなら脅して懐柔しておけばこの国を攻め落とす時役立ちそうだ。
念入りに資料を盗んでおかないと★」
「王子ってごく自然に屑ですよね」
「誉めても何もでなませんわ♪」
「いきなり女言葉はやめなさい」
「はいはい。にしてもよくこんなのでよく国がもっていたな」
いかにこの国が氷の騎士だよりだったのかがわかる。
軍事費などほぼファルバード家押し付けていた。
それができたのは交易の要であることと、アルスの並外れた魔力で領地が広範囲守れることにある。
領主の魔力はそのまま結界の強さにも反映される。
彼の力で魔物による農作物の被害がすくなく、鉱山などの資源開発もしやすかったからこその富。
「それなのに魔獣を倒したら、アレスを用なしと捨てるとかマジなに考えているんだ」
「それなのですが、どうやらアレスに刺客を差し向けたのは、王子とキャロルの独断で国王は知らなかった可能性があります」
「ほう?」
「国王はかなり必死にアレスの捜索隊を差し向けていたらしいです。
フローラ様が聖剣を持っていると知り、かなりふさぎ込んでしまったとか」
「なるほど。国王はちゃんとアレスの存在がいかに重要なのかわかっていたってことか。
それなのにアレスの娘やアレスにつらくあたっていたのは意味がわからないが」
各国がいままで争わず協力していたのは大陸の西に巣くう魔獣の存在があったからこそだ。
魔獣を倒した今、今度は人間の国同士の戦いがはじまる。
それなのにこの国は最大のカードである氷の騎士を失ったのは大きい。
そのうえ聖剣をもつフローラまで他国に裏切ればこんな弱小国すぐに他国に攻めこまれて終わりだろう。
そんな事を思いながら、ロイが書類を片付けていると
「フローラいるか!?」
デナウ王子が部屋に入ってくる。その後ろにはわざとらしく悲しいポーズをとる聖女エミールの姿もある。
「これは殿下。
ノックもなしにレディの部屋に押しかけてくるとはどういう事でしょう?」
「貴様、あれほど聖女様には手をだすなと」
「なんのお話かしら?」
書類に走らせるペンをとめることなく答えるロイ。
「聖女の侍女の事だ! 嫌がらせをしたらしいな」
部屋にずかずかと入ってきたデナウ王子が言う。
「私がいけないのです、仕事の邪魔をしたせいで」
いかにも物悲しそうにいうエミール。
「そんなことはない、お前は悪くない」
「殿下……」
手を取り合い見つめあう二人。
「その滑稽な芝居はいつまで続きます?
仕事中すごく迷惑なんですけど?
やるなら他所でやっていただけると」
「なんだと!貴様だれにむかって……」
「あら、殿下、貴方こそ誰に向かって口をきいているのかわかっていらっしゃいます?」
くすくす笑いながら茶化す口調で言うとフローラは魔法で聖剣をとりだす。
「部下か何かと勘違いしているなら甚だしい。
これ以上下らぬことで愚弄するというのなら、ファルバード家の名に懸けてお相手をいたしますがなにか?」
「きさまっ……」
「ああ、そうそう、本日をもって殿下個人へ援助はすべて打ち切らせていただきますね」
にっこり笑うロイ。
「なっ!?」
「好意の上に成り立っていたものに胡坐をかいてこちらを愚弄したのはそちらが先。
すでに正式に婚約解消の申請をしていますのでご心配なく。
お二人で仲睦まじく勝手に愛をはぐくんでください」
「き、貴様っ!! 自分が何をしているのかわかっているのか!?」
「貴方こそ先ほどから貴様しか言ってませんが語彙力大丈夫ですか?」
嘲笑したような口調でロイが言う。
そうするとデナウが怒鳴ろうとしていたのをやめ、急にきりっという顔になった。
「……は。俺の気を引こうとしているのかフローラ」
そして一歩一歩近づいてくる。
「……はぁ?」
「わかっているぞ、お前は俺の気をひきたくてそんなキャラを演じているだけだろう?
そんなに俺に抱かれたいのか」
「あぁん?」
つい素がでた状態でロイが聞き返す。
「いいだろう、そんなに望むなら一夜暗い相手に……」
言った途端、
しゅっ!!
ロイに近づこうとした王子の鼻先にセルクが持っていた杖をつきつけた。
「それ本気でおっしゃってます?」
にっこり笑いながら放つセルクの殺気にデナウがぞっとする。
「ファルバード家の後ろには我々がいることをお忘れか?
こちらが本気になればまだ即位前の王子ごとき潰すのも可能。
これ以上の護衛対象への愚弄は容赦しませんが?」
「そ、そんなつもりは」
「王子、貴方ご自分にそれほどの魅力があると思っているのか知りませんが……」
そう言ってロイは髪をかきあげて、
「超キモイ二度と近づくんじゃねぇ、このドクズ!!」
中指をたてて叫ぶのだった。
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