第12話 聖女エミール
おどおどして気弱なフローラが領地を継いで聖剣を継いだ。
その報告が聖女であるエミールのもとにきたのは昨日の夜のことだった。
聖剣を抜いて、領地をついだ。
少し文句をいっただけで委縮し、必要以上に謝る気弱なフローラ。
王子の婚約者で、エミールより地位の高いフローラ。
それなのに威厳も気品も何も持ち合わせてない哀れな令嬢。
そんなフローラを虐めるのが楽しみだったのに、まさか領地を継ぐなんて。
領地を継いだからなんて理由で私に逆らわないように、ちゃんと私が上ってことを今日は示さないと。
エミールはいつものように王城で仕事をしているフローラのもとに向かう。
聖王国から派遣された巫女。それがエミールだった。
もともと神殿ではそれほどの地位の巫女ではなかったのだが、この国にきてから「豊穣の聖女」の力が開花した。
それからはエミールは皆にちやほやされるようになったのだ。
この国で王妃になって神殿で私を馬鹿にしていた他の巫女を見返してやらないと。
もう少しでフローラを押しのけて第一王位継承者の王子と結婚できそうなのに。
フローラが領主になったからと王子と結婚することになったら困る。
いまのうち、どちらが上か知らしめる必要がある。
「聖女様、フローラ様がきました」
そう言って中庭の廊下を、護衛達と歩くフローラをバルコニーからエミールは見下ろした。
そこには颯爽と歩くフローラとそれに追随するかのようにきらびやかな衣装をきた短い髪で茶髪の美形の魔術師が付き従っている。
王子よりずっと美形で見目麗しい男性だ。
「……一緒にいるお方は?」
「黒の塔のセルク様です」
「黒の塔の七賢者ではありませんか!?」
侍女の答えにエミールは思わず聞き返した。
そうエミールの所属する神殿とまた対局に位置する魔術師集団その最高峰【黒の塔】。
いままでさんざん力のない聖女と馬鹿にされてきたけれど、この国で豊穣の聖女と祀られるようになった。
でもそれだけじゃ足りない。
神殿でさんざんエミールを馬鹿にしてきた巫女たちを見かえすにはもっと自慢できるものがほしい。
もし黒の塔の七賢者の一人と結ばれたら、力がないと馬鹿にしてきた神殿の連中を見返す事ができる。
こんな小国の王子よりあちらの方が上。
七賢者があのフローラと一緒だなんて、似合わないわ。
私のものにしてあげる。王子を奪い取ったように。
やり方は簡単。王子の時のようにフローラにいじめられたと吹き込めばいい。
そうすれば可愛くてか弱いエミールにみんな同情してくれて味方になってくれる。
おどおどして弱いフローラをみんなが責めてくれる。
「大魔導士セルク様」
フローラの執務室から出て、一人廊下を歩いていたセルクにエミールは側近を引き連れて話しかけた。
「これは豊穣の聖女様」
セルクがエミールの姿を確認すると、黒の塔特有の挨拶をする。
「お噂はかねがね。セルク様の武勇は神殿でももちきりですわ」
そう、黒の魔獣を倒す討伐部隊で氷の騎士アレスに次ぐ武勲の持ち主。
広範囲の魔法で魔物を倒し、魔獣討伐部隊を先導したと、神殿や王宮でも噂は広まっていた。
魔獣討伐部隊の英雄の一人でもある。
「それはどうも」
セルクがいかにも興味なさそうに答えた。
「是非お茶をご一緒にいかがですか?」
エミールがいままで何人もの男を落としてきた笑顔で微笑むが、セルクは目を細めただけだった。
「私はフローラ様の護衛がありますので」
「なぜあなたほどご高名な方がフローラ様の護衛を?」
「魔獣盗伐時、彼女の父親に助けられまして。その恩をかえしに」
セルクがお辞儀をしながら言うと、エミールがあからさまに視線をそらし悲しそうな顔になる。
「……そうですか」
「なにか?」
「……いえ、なんでもありません。ええ、なにも」
エミールは明らかに憂いをひめた暗い顔になる。
いかにも何か言いたいけれど言えないことがある、声をかけてくれと言わんばかりの態度にセルクは表情を変えない。
「私は大丈夫ですから」
「はぁ。そうですか。それでは」
そう言って歩き出そうとする。
(ちょ!?このまま何も聞かないで行くつもり!?)
いままでは大体こうやれば「何かありましたか?」と男性なら聞いてくるはずが、セルクは興味なさそうに歩きさってしまうのである。
(ちょっとそこは何かあったのですかと聞くところじゃないの!?
普通女の子が悲しそうな表情をしているのに何もしないでいってしまうとかある!?)
(なんなのよっ!!あの男っ!!!)
そんな事を思っていると
「セルクどうした?」
エミールの背後にあったフローラの執務室からフローラがドアをあけて姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。