第7話 重度の人材オタク

「重度の人材オタク……ですか?」


「はい。ロイ王子は気に入った人材をどんな手を使ってでも手に入れる人材オタクでありまして……。

 フローラ様のお父様を部下にするためにフローラ様を助けると約束をいたしました。

 そしてフローラ様の様子を水晶で見たところ、毒薬を服用したところでして……私の制止もきかず体を交換する術、魂交換の秘術で入れ替えた次第です」


「父は生きているのですか!?」


「……生きているとも死んでいるともいえます」


「え?」


「毒の塗布された刃物で切られたため生死の境をさまよっている状態です。

 いま治療の間で治療中です。神官達が祈りを捧げています。

 意識を失う前、貴方のお父様がロイ王子に貴方を託されました」


「……なぜ父が……私を……」


 フローラの言葉に緑髪の青年レクシスはフローラに微笑みかける。


「部外者の私が無責任な事は言えませんが……自らの死より、あの人は貴方の事を心配し、王子に託していきました。

 愛がなければできない事だと思いませんか?」


 そう言って、フローラの手をとると、ベッドに横になるように促す。


「転魂で思っている以上に体の疲労が酷いはずです。

 今日はお休みになってください。詳しいお話はまた明日」




★★★



「で、何度も聞きますが、氷の騎士に頼まれたから、娘の死を防ぐために「転魂」の王家の秘術を使ったと?」


 フローラの自室におかれた簡素な椅子に座り、ベッドでだらしなく寝転がっているロイにセルクが足をとんとんとしながら尋ねる。


「そうだ!

 魔力のコントロールピカ一の俺様なら、サラスの薬の魔力暴走くらい制御余裕!」


「そういう問題ですか!?

 王家の秘術ですよ!? 使いますか普通!?」


「いいか、術は封印していたらだめだ、有効活用することに意義がある」


「秘術なんだから隠しておかなきゃだめでしょう!?」


「出し惜しみはよくないぞ。

 お前大事だからととっておいて結局使わないで終わるタイプだろ。

 高級ポーションとかもったいないと使わないで結局死ぬタイプだ。

 そういうのが一番よくないぞ。使うときは使う。それもまた英断だ」


「そう言う問題じゃないんですっ!!!」



「まぁまぁ、それより氷の騎士の娘は無事か?」


 ぐいっと身を乗り出して抗議してくるセルクにロイはあわてて手をパタパタさせた。


「陛下の身体ですから、レクシスが観ているから平気でしょう。

 それよりも話をそらさないでください、いくら氷の騎士を手に入れるためだからといってですね」


「大丈夫!俺は死なない!」


「だーかーらー何その無根拠な自信っ!」


「まぁ、心配してくれてありがとうなっ!」


「もう知りません、さっさと寝なさいっ!!」


 そう言うと、フローラの体のロイはよほど眠かったのか、「そうだな!明日からフローラを虐めた連中を裁かないとだしな!うっし寝る!」の一言ですぐ寝入ってしまう。


 本当にこの人は。


 昔からそうだ。欲しい人材のためならどんな無茶をもしてみせる。


 セルクもまた過去にロイに救われた一人だ。

 まだセルクもロイも小さいころ、ロイはセルクの前に現れた。


 魔力をもちすぎて魔力暴走を繰り返して家族に恐れられ地下牢に閉じ込められていたところを、「俺の部下になれ!」と異なる魔力をロイはロイの体に吸収するという荒業でセルクの魔力を安定させた。


 下手をしたらロイも死んでいたのに、彼はなんなくセルクの荒れ狂う魔力を吸収してみせたのだ。

 それ以後、セルクはロイの庇護下に入り、王家の援助の元、魔力制御のために魔術師になった。

 いまでは魔術師たちの独立機関、黒の塔の最高峰の魔術師七賢者の一人とまでなった。


 この大陸にはどの国にも縛られない独立機関がある。


 神官達が納める聖王国。

 魔術師たちが納めるのが黒の塔。


 どちらも大陸に多大な影響力をもち、大陸のどの国も彼らには一目を置いている。

 神殿は実りと回復と豊穣を。

 魔術師たちは魔道具の力と魔物から町を守る結界を管理しているためだ。


 聖王国と黒の塔が互いにけん制しあっているため、完全に支配下にあるわけではないが、どの国も彼らに一目置いている。

 黒の塔はある意味各国の貴族達などより権限が強い。

 その塔で七本の指にはいるほどの実力と権力をもてたのはロイのおかげである。


 彼がいなければむなしく地下牢で魔力暴走に耐えられず命が絶たれていただろう。


 セルクにとってはロイは命の恩人だ。

 ロイは惚れたと宣言した相手には惜しみなく命を差し出す。

 ロイ自身はどんなに危ない事をしても自分は死ぬことはないと思い込んでいるのがが恐ろしいところだが。


 ロイに救われ、ロイに忠誠を誓っているのはセルクも含め、一人や二人ではない。

 つまり助けてきた数だけ、ロイは無茶をしてきたわけで。


(いくらなんても転魂なんて……)


 氷の騎士を手に入れるためとは言え、シューゼルク王国の秘術をやすやすと使ってしまうその度胸にも魔術の才能にも驚かされる。

 ロイはどんな不可能も可能にしてしまう、そんな事を夢見てしまうくらい、無茶を可能にしてきた。

 それでも、いつかその過剰な自信故命を落とすのではないかと心配でもあった。

 それに……フローラの体でだらしない恰好で寝入るロイを見て思う。


 さすがに女性の身体でその寝相はどうなのかと。


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