第3話 反撃の兆し

 悲鳴が聞こえた。

 あの声はフローラだ。

 すぐ近くのフローラの部屋から聞こえてくる悲鳴に叔母のキャロルは微笑んだ。


(どうやらやっとサランの薬を飲んだようね――)


 あの忌まわしい兄アレスが魔獣討伐で死んでくれた。

 あとは聖剣を引き継ぐ可能性のある娘のフローラを殺せばファルバード家は叔母であるキャロルのもの。

 そのため王族に金を積み、貴族達にも使用人たちにも根回ししてさんざんいびり倒してやった。

 自ら死を選ぶように。

 あとは自殺した可哀想なフローラの葬式をあげ、魔獣退治で行方不明になった兄のあとをキャロル達が継げばいい。


 フローラは聖女様に無礼を働いて心を病んで自殺した。そう発表すればいいだろう。


 悲鳴が聞こえても近づかないように使用人たちにはいってある。

 もうしばらく放置したのち死んだのを確認すればいいだろう。

 あの薬はしばらくもがき苦しみ、魔力の制御に失敗すると死ぬ薬。

 下手に医者を呼んで魔力制御に成功して助かってしまえば元も子もない。

 フローラにはこっそりと魔力制御しにくい魔法をかけておいたから成功することはないだろうが医者が介入してしまえば助かってしまうかもしれない。


(今のうちでかけておきましょう、死んだとき屋敷にいたと思われては不利になるわ。あの薬には少し細工をしているから、一時間くらいもがき苦しむでしょうし)


 メイドの一人に、あと二時間もしたら死んだか確認しなさいと指示をだし、キャロルは屋敷をあとにした。


★★★


(なんで死体の確認なんて面倒な事をしないといけないのかしら)


 メイドのメロはため息をつきながら、一人愚痴る。


 フローラがそろそろ死んでいるころだろうから死体を確認してこいと執事に告げられたのだ。

 死体の確認なんて気持ち悪いとおもいつつも、執事に逆らう事もできず鎮まりかえったフローラの部屋の扉をあける。


「あら、ノックもなしに主の部屋を開けるなんて失礼じゃない?」


 扉を開けると、そこには劇薬の瓶が転がっており、窓辺では銀色の髪をなびかせ少女が外を眺めていた。


(まさか――生きていたの!?)


 薬を飲んだ形跡はあるのにフローラは窓辺でのんきに窓の外をみているのだ。


(魔力制御に成功した?

 ありえないそんな高度な事がろくに魔術の勉強もしていないフローラ様にできるわけがない)


 そう思い侍女がフローラに視線を移すと、フローラはあり得ないほど美しく微笑んだ。

 いつもの怯えた笑顔ではなく自信に満ち溢れ殺気を放つ笑顔にぞっとする。


「あら、何? まるで幽霊を見ているような眼で見て」


 フローラはひょいっと窓辺から降りると、机に置いてあった質素な食事をメロに指さした。


「食事を作り変えてくれないかしら、すっかり冷めてしまったの。おなかが空いたわ」


 そう言ってかがんで劇薬の瓶を拾おうとしていた侍女の頭にぼとぼと冷め切ったシチューをかける。


「ひっ!?」


「次は下剤の入ってないちゃんとした食事をもってきなさい」


「こ、こんなことをしてただで済むと思っているの!???」


 つい虐めていた時の調子で侍女が反論した。

 フローラは気の弱い令嬢だ。強く出るとすぐ謝り、びくびくする。

 今回だって怒鳴り返してやれば大人しくなるはず。

 そう思っていた。


「あら、どうなるのかしら?」


「キャロル様に言いつけてや……」


 そこまで言いかけて侍女は言葉を失った。

 フローラが今にも侍女を殺すのではないかというほど、狂気の笑みを浮かべていたから。


「なるほど。裏で手を引いているのは叔母のキャロルというわけ?

 それはたっぷりお礼をしてあげないとね?」


 侍女の頭を踏みつけフローラは微笑んだ。

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