ママは能力者⑤ ~ある日チート能力を手にした主婦が天下無双する話
ゆうすけ
衝撃の発表
戦闘機のパイロットが操縦かんを倒すと、機体はがくんと頭を下げた。だが機上では逆に景色の方が傾いたように感じる。パイロットからヘルメットの無線を通じて音声が届いた。
「あと六分でランディングタッチ……着陸します」
その声に子供用のヘルメットをかぶったミサが反応する。
「ご苦労様なのです。さすが自衛隊なのです。ここまで一時間もかからないで飛んできたのです」
戦闘服を着たパイロットは操縦かんを握ったまま親指を立てて話を続ける。表情は分からないが敵意は感じられない。いや、むしろ要人を警護するような話しぶりだった。
「まあ、部隊の中でも次席はヤバいことやってるという噂が流れてましたからね。日ごろから班長を中心に、次席になにかあった時の対応を綿密にシミュレーションしていたんですよ」
「どうりで手際よく出発できたわけだ。もしかしてやたら突入が簡単だったのも……」
操縦席のすぐ後ろに座るレーが相槌を打つ。パイロットは慣れた手つきでコクピットのスィッチを操作して、言葉を続けた。
「まあ、次席を狙う刺客が基地に突入してくるというパターンも想定はしてました。イヤな奴ではありましたが、上官を護らないわけにはいきません。必然的に我々は抵抗はしたけど、力及ばずに突破された、ということにしておかないといけなかったんです。なかなか難しかったんですよ、味方に犠牲が出ないように抵抗しつつ、仕方なく突入を許すってのは。さあ、着陸態勢に入ります。ミサさん、レーさん。しっかりつかまっていてください」
夜空の中を一閃する翼はまっすぐと空港の着陸誘導等へ向かって降下していく。真冬の雪まじりの風の中、ジェットエンジンの咆哮が夜空に響きわたった。
◇
結局、ユウ、メグ、マークの三人は熱狂する観客の最前列にこっそりと陣取ってコンサートを見物していた。
「なんだかんだ言ってそこそこ楽しんでない? メグは」
「んー、まあ、わりとノレるからねー。楽しいじゃん」
「あんたがノルと目障りなもんが揺れるから、私の視界の中で飛び跳ねないで」
「まあまあ。そういうこと言わない。Bakichiー!!!」
メグは魔法ステッキをサイリウム代わりに振り回して、周囲の観客に混じって叫び声をあげていた。
「なんかメグちゃんって変わり身早いよね」
マークはあきれ顔だ。
ユウはピンクのレオタード、メグはうさ耳バニースタイル、マークは小学生ルックのくせに三つ揃いスーツと三人の服装は異様だ。しかし、会場でコンサートに熱狂するファンたちの異様さは、それをはるかに上回っている。
あるものは八十年代ヤンキースタイル、あるものはフランケンシュタイン、あるものは花魁姿、あるものは裸エプロン。
どう見てもコスプレ祭りだ。渋谷のハロウィンなんてかわいいもんだった。そういう狂った身なりの連中に囲まれていると、三人のスタイルはすっかり埋没している。
そんな熱狂した空気の中で前半のメドレーが終わった。
「YO! 今日はおまえたちに報告がある。今日は、Haveのバースデイだ! みんな、祝ってやってくれー!」
Bakichiがだみ声で絶叫すると会場内が「おめでとー!!」「Haveさーん、私にも緑のたぬきちょーだいー!」「ハゲかけてるのすてきー!!」と絶叫が響きわたる。
「そして、あさっては、この俺、Bakichiの四十六回目のバースディだ!」
Bakichiの声を聞いて会場内のボルテージがさらにアップする。
「Bakichiさーん!!」「私にもサーモンパスタ作ってー!!」「若作りしてるけどハゲかけー!!」「サングラスに見せかけた老眼鏡カッコいいー!!」
「YO! 今、この会場にいる、愛するみんなに報告がある。Haveが四十二、俺が四十六。二人合わせて八十八歳。このめでたいバースディで」
そこでいったんBakichiは言葉を切った。
「この宇宙一めでたいバースデイで、俺たちHave&Bakichiは、解散する」
会場内はしんと静まり返った。
「え? 解散しちゃうの? てゆーか、Bakichiってそんなに年だったの?」
メグは心底驚いた顔をユウとマークに向ける。BakichiのMCはさらに続いた。
「でも俺たちはいつも、おまえらのそばで歌っている。だから、俺たちの最後の歌を聞いてくれ!」
会場はまだ事態を把握しきれない空気が流れていた。
「死んでいったもう一人のメンバーに捧げる。俺たちのラストソング、『い・け・な・いベージュマジック』聞いてくれ!!」
……つづく(こりゃひでーわ。自己嫌悪)
ママは能力者⑤ ~ある日チート能力を手にした主婦が天下無双する話 ゆうすけ @Hasahina214
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます