88歳の野望
葵 悠静
本編
時はXXXX年。
人類はあらゆる科学技術を極めて、ほぼ不老不死の存在となっていた。
そんな時代でも歳という概念はまとわりついてくるもので、最高齢は888歳を迎える生きる伝説と言われている人間国宝。
しかしそんな彼にはよからぬ噂が絶えず付きまとっていた。
そんな生きる伝説である人間国宝に弟子入りすることになった88歳の若造。
生きる伝説から直接生々しいかこの歴史を聞き、過去の記憶を受け継いでいくものと選ばれた彼。
言うなれば次なる生きる伝説の候補である。
しかしそれはブラフ。
彼は生きる伝説人間国宝の闇を暴くために派遣された潜入捜査官だった。
齢88歳の若造はこの世の最高齢である生きる人間国宝888歳に立ち向かうことができるのか。
世界を巻き込んだ88歳VS888歳の影の戦いが今始まる!
「……というのはどうだろうか!」
「妄想は頭の中だけにしてわざわざ口にしないでください。それとさっさと洗い物片づけちゃってください」
「君はそうやってすぐに俺の妄想、ではなくストーリーを否定する! それにこうやって手を動かして、洗い物はちゃんとやっているだろう!」
「はいはい、えらいですね」
「まったく。今の話の何が不満だというのか」
「そもそも今でさえ長寿になっているのに、これ以上長生きしてどうするんですか。人間50年、かの信長もそういっています。それくらいがちょうどいいんですよ」
「君はやけに現実的だな。もっとこうこの世を謳歌しようと思わないのか。それにこれはフィクションであって」
「はいはい。そんなんだからさとる君にも嫌われるんですよ」
「今さとるの話は関係ないだろう! 君がそこまで言うなら妄想ではなく現実にして見せようではないか!」
「フィクションを? どうやって」
「それは俺がこの物語を完成させることで、現実になる!」
「本でも書くつもりですか」
「その通りだとも!」
「……あなた、今自分が何歳なのか自覚してます?」
「88歳だろ? 自分の歳を忘れるほど耄碌はしていないさ」
「その話が完成するか、私たちが先にこの世を去るか。どっちが早いですかね」
「何事においても始めることに遅いことなんてない!」
「そうかもしれませんけど、じゃあさっきのお話の結末はどうなるんですか?」
「それは……今話しても君に読んでもらった時に驚かせることができないだろう! だから内緒だ!」
「要するに何も考えていないんですね。……はあ」
「また君はそうやって呆れる! もっと俺に期待をもってだな!」
「私は今あなたが洗い物を早く終わらせてくれることを期待しています。水道代もただじゃないんですよ」
「それならもう終わった! どうだ。早速一つ君の期待に応えたぞ!」
「はいはい、よくできました」
「ぐぬぬ……。見てろよ! 絶対に君が驚くような話を完成させてやる!」
「……楽しみにしてますよ」
88歳の孫に嫌われた男が妻を驚かせるために紡がれるストーリー。
そんなラブコメが、今まさに小さな民家の中で始まろうとしていた(始まりません)。
88歳の野望 葵 悠静 @goryu36
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