攻撃力全振りしたスキルしかない紙防御ですが、今日も相方の補助魔法に助けられてます。
ろさこ
第1話:腹が減ったら戦もできないんです
赤く乾いた土の上を駆けながら、レンは鳥型のモンスター「極楽鳥」を追う。バサバサと羽ばたく姿に優雅さは無く、大ぶりな羽が雑な見た目の印象がある鳥だが、あいつの羽は工芸品用に高く売れる。ぜひとも仕留めなくてはならない。
とはいえ、地上からの攻撃では歩が悪いかもしれない。威力のある攻撃魔法を使うと、羽が売り物にならなくなる。現品確保が最優先だ。
地上戦に見切りをつけ、レンは加速魔法を使うために叫ぶ。
「バーストアップ!」
途端に足の捌きが軽やかになって、風に乗って進んでいける感覚になった。感覚が変わるのと同時に、極楽鳥との距離も詰まっていく。
「レン! 足場作るから使え!」
後方からライトの声がする。
薄紫の光を放つブロックが、進行方向に生成されていくのが見える。少しずつ上空へ、極楽鳥の高さを追うようにブロックが出現していく。
「サンキュー!」
レンは加速を維持したまま、ブロックに飛び乗った。
ライトの補助魔法は精度が高い。レンの速度と歩幅に合わせて、微調整を加えながら新たに生成されていく。この精度の高さに、レンは全幅の信頼を置いていた。置かなければ戦えないのだ。なぜなら……
極楽鳥と距離を縮めて、極楽鳥の首に何かが付いていることに気が付いた。あれは火炎のクリスタル--。
「わわわ! ヤバい! あいつ火炎のクリスタル持ちだ!!」
火炎のクリスタルは、身に付けていると炎を吹くことができるクリスタルである。ただし、有効範囲は至近距離のみ。でも今まさに、レンは極楽鳥の至近距離へと到達しようとしていた。
「ひぃぃぃー。アイスウェポン!」
ナイフを構えつつ武器に氷属性を付与しながらも、次に起こる火炎攻撃が容易に想像できてレンは涙目になった。
極楽鳥が反り返って、開いたくちばしに紅く禍々しい閃光を溜めている。これは火炎のクリスタルが使われること確定である。自ら炎の攻撃に突っ込むしかない状態のレン。極楽鳥が頭部を振りかぶって紅い閃光をレンに放つ。
「ウォーターバリア!」
後方でライトの声が聞こえたかと思うと、赤い閃光に包まれる寸前に、レンは水球に包まれた。閃光が和らいだ瞬間、
「もらった!」
閃光を抜けて距離を詰めたレンが、火炎のクリスタルを使ったばかりで隙だけの極楽鳥の喉元にナイフを宛がった。
土から照りつける暑さに辟易しながら、レンとライトは極楽鳥の羽を捥いでいた。喉元一発で仕留められたので、羽はすべて綺麗に採取することができた。
「今回もありがとう、ライト」
解体が一段落して、レンは改めてライトに礼を言う。
「ライトが居なかったら炎まるかぶりしてたと思うわ」
今までだんまりで作業していたライトは、収納魔法で極楽鳥の羽を異空間にしまい込んでから口を開く。
「もうさー、防御魔法覚えてよー、教えるからさー。気が気じゃなくって、こっちが泣きそうだよー」
戦闘中と打って変わってふわふわした印象のライトが、駄々っ子口調で文句を言う。ライトは戦闘中と素材採取、虫を殺すとき以外はだいたい、糸目でにこにこ笑っている。
「だってさ。教えてもらっても適正スキルじゃないんだもんよ」
「そうだけどさー、ちょっとは変わるかもしれないじゃーん??」
レンは、攻撃魔法は水・火・風と豊富な属性を持っていたが、防御魔法はからっきしであった。補助魔法は加速と属性付与といった攻撃関連のものばかりで、自力で防御力を補填できないという弱点があった。だからこそ、補助魔法・回復魔法に長けたライトと組んでいるのだ。
「金貯めてミスリルとか、軽くて硬い素材の防具買えたら、また変わると思うんだよな」
「高いじゃーん。いつまでかかるのー?」
ライトは盛大に嘆いた。
「報酬の高いクエスト受けるしかないよな」
「それって、けっこう危険じゃーん」
与太話に花を咲かせていると、
ぐううぅうぅぅぅ。
どちらともなく腹が鳴った。
「あはは!」
タイミングの良さに二人は笑った。
「報酬もなんだけど。でかいクエストのためにはしっかり食いたいよな」
「そうだね。素材収集もいいけど、肉が売れるクエストだとなお良いよー」
「極楽鳥の羽じゃ、魚しか買えないかな……。あと、野草のソテーか」
「いいじゃーん、お魚美味しいよー」
「暑いから肉をがっつり食いたいよ、久々に。肉とれるクエスト無いかなー。売れる肉取れたらさ、リュウジ兄ちゃんの食堂にも食べに行けるし!」
「あ、そうだね、久々に兄ちゃんのご飯食べたい!」
稼ぎはその日の食事に繋がる。強い敵に勝つためには身体が資本なのである。
肉を売れるクエストを願いながら、今日の二人は街へと帰る。
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