#4-2「ズムズム血みどろ百花繚乱」
「あの人達は
「それを見極める為に、わざわざ試練を麻雀にしたのだ、透狐。生半な者に情報を渡せば……私達の事まで嗅ぎ付けられるからな」
ザイツェフはモニター越しに一馬と紫苑の姿を観ていた。透狐はその隣で、同じく画面を、どこかぼんやりとした様子で眺める。
「ヴェリタスで勝つ為に必要な要素は何だと思う?」
「……強い
「私は『広い視野』と『判断力』だと考える」
少し逡巡してから答えた透狐に、ザイツェフは被せ気味で正解を述べた。
「覚えておくと良い。強い
「……はい、師匠」
師から賜った痛烈な教訓を噛み締めて、透狐は自らの左腕を、右手の爪が食い込むほど強く握り締める。
まだザイツェフを支えるには、至らない事が多過ぎる。久方振りの敗北は、彼女の内に秘められた熱に、焦がれるほどの薪を焚べていた。
せめて、この人の視界に居続けたい。その切実な一心を募らせるばかりだ。
透狐が持つ
出会った事がある人物に対し「対象の、現在の思考と視界を読み取る」という有用無比な
ちなみに
「あたしの事は、もう忘れたみたい……いつも通りだけれど」
透狐が顔を上げ、再びモニターに視線をやった。その向こうに居る一馬たち4人の背を、銀色とも灰色とも付かぬ瞳で追い掛ける。
彼女の脳裏には、今もこうして一馬の思考が視界情報と共に流れ込んで来る。
早い話が、そば処・こやまの軒先から一歩出た瞬間に、一馬ら4人はザイツェフと共に居た女性の姿を思い出せなくなっていた。朧げに「ザイツェフの隣に誰か居た気がするけれど思い出せない」という違和感は覚えつつも、透狐の姿や人となりが像を結ばない。そして能動的に思い出そうとする程の興味関心も失せている。
情報屋としては、むしろ好ましいリスクである。言ってしまえば
けれど透狐は、それに慣れてはいたが、憔悴もしていた。
「親ですらあたしを忘れました。あたしを忘れないでくれるのは、おじいちゃんと、師匠だけですね」
透狐はコンソールの上で指を踊らせるザイツェフに、体重を預けている。
年季が入った木造りの椅子を、ザイツェフの隣まで持ってきて、まるで縋るように寄り掛かっていた。向かい合う相手の全てを見通す瞳は、灰色を帯びた銀と共に寂寞を湛えつつ、睫毛の奥で沈むように床を見つめている。
敢えてザイツェフは透狐の方に振り向かない。
「私の
ザイツェフは【グラウンド・ゼロ】という
自身に向けられた
先の勝負においては藤堂紫苑の【
「私は、私の師匠……キミのお祖父様から、キミを一人前の情報屋として育て上げる様に言い付けられている。それを果たすまでは、何があってもキミの事を忘れない。そして守るさ」
透狐の
だからザイツェフだけは透狐を忘れない。
けれど他の
ザイツェフが透狐を忘れずにいる限り、透狐の気持ちを受け止める事は出来ない。
顔色を少しも変えず振り向きすらしないザイツェフの肩で、透狐は少し間を置いてから、大いに落胆したような溜め息を長く吐く。
表情は擦り切れながらも青いままの、まるで慣れた失恋を繰り返す少女だった。
「師匠は相変わらず、ズルい逃げ方をしますね」
◆
さあさあ始まりましたあ、岩猿様と愉快なモブ3名による東京23区内ヴェリタス実施店珍道中。実況解説ナレーションは全部まとめて完璧超人岩猿様の独壇場だあ。
紫苑とか言うイカレポンチがね、ヴェリタスをやっている店であちこち片っ端から暴れ回れば、黒澤會のクソッタレ共がノコノコおいでなすって湧いて出て来るだろうって言うからね。
まずは近場のクソッタレ共を片っ端からノシ梅にしてやろうってな寸法だあ。
アイツは頭良いのかアホなのか分かんねえ。多分ただ暴れたいだけだろ。
そんなワケで本日はこちら、渋谷にあるクラブ『G.G.』からお届けするぜ。
1階フロアこそは普通のハコだが、馬鹿デカい地下は真ン中が開けたダンスホールみてえになっているんだ。
奥でDJがキレッキレのナンバーをスクラッチ、赤や紫や青だのディスコライトが乱れ舞うダンスホールでは、クソッタレ同士が血飛沫あげて殺し合う。
それを見下ろす観客席のアホンダラ達は、頭もげるんじゃねえかって位のヘドバンをかまし、月曜朝の常磐線かって程の猛烈なモッシュで押し合いへし合いする。勿論それで死人も出るぜ。
バチバチのバトルと分厚い音圧のコラボレーションは最高ってモンよ。
けれど今日の盛り上がりは一味も二味も七味も違う。
紫苑だあ。あの馬鹿がまァた札束をブチ撒けやがった。
今日も始まるぜ、誰も彼もお構いなくごった返して暴れ回る宴が。
ギラッギラのミラーボールにまで血飛沫が飛んで跳ね返る。
もうダンスホールは阿鼻叫喚血みどろ百花繚乱の仮面舞踏会だあ。
一馬と蛭は我先に突っ込んで行って他の連中と一緒に【
それじゃあそろそろ俺様も待望歓待のご降臨と行きますかね。
こんちわーッ、ご機嫌いかがですかーッ、本日はお日柄も良く死ね紫苑オラァ!
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