第239話 颯爽登場、忍者は雷鳴とともに
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ルシフォリオンがギラリとゴドーを睨み付ける。右後脚を抉り飛ばされたことへの怒りがありありと見て取れる。
すなわち、ワールドモンスターからのヘイトを買ったということ。それは今この瞬間ルシフォリオンへの総ダメージ数が最も多い忍者がゴドーになったことを意味していた。
「やりましたね、あなたの力ですよ!」
「それは良いんですけど、これヤバ……」
最後まで言い切れなかった。翼を羽ばたかせた瞬間に強力な突風が巻き起こり、周囲のプレイヤーごとすべてを吹き飛ばす。そして、突風を耐え抜いたプレイヤーにはフェザーショットのプレゼントだ。
散弾のごとく飛来する羽を前にしてゴドーは何もできなかった。突風に耐え、なんとか踏ん張ることしかできない。代わりに隣に立っていたミユキが羽を次々と叩き落とす。ゴドーはただミユキが近くにいたから生き残ることができただけだった。
いい気になっていた自分に反省した。自分がヘイトを買ってもまるで足手まといだ。頭領ですら防戦一方になる攻撃の雨あられ。不幸にもゴドーの周囲にいたプレイヤーはかなりの数やられてしまった。
ミユキが羽を叩き落すのを見て、ルシフォリオンは戦闘方法を変えた。飛びかかりからの踏みつけである。まるで空から高層ビルが降ってくるような感覚を覚える。ゴドーは今度こそ死を覚悟した。ミユキもさすがに手も足も出ないのか、立ち尽くして空を見ていた。
「あれは……?」
いや、ミユキは立ち尽くしている訳ではなかった。第一部隊の合った方角を向いていた。ゴドーも釣られてそちらへ目を向ける。光の残像のようなものが見えた。それは一直線に伸びてゴドーとミユキの下まで続いている。続けて遅れるようにゴロゴロと雷鳴のような音が聞こえていた。
次の瞬間、目の前に男が立っていた。一振りの曲刀を持った白髪の忍者は全身に雷光のようなオーラを纏っていた。
「『
ルシフォリオンへと相対した忍者は曲刀を構えると術を唱えた。
ゴドーの視界いっぱいに真っ白な世界が広がる。周囲から「なんだ?!」とか「目がぁ」とか声が聞こえてきたので聴力は無事らしい。
「一体、何なんだ」
「セオリーさんが助けに入ってくれたようですね」
ゴドーの呟きにミユキが返す。その声は少しばかり拗ねたような、子供っぽさを感じさせる声音だ。そして、どうやらミユキの言葉を信じるなら何者かが救援に来てくれたらしい。
……セオリー? どこかで聞いたような。
しばらくして目が慣れてきた。ジワジワと視力が回復する。特に周囲の変化は無かった。逆に言えばゴドーとミユキは無事だった。ルシフォリオンの攻撃が止んでいたのである。
当のルシフォリオンは頭を左右に振って闇雲に腕を振っていた。まだ目がくらんでいるのだろう。先ほどの忍術は閃光弾のような効果を持っているのだろう。振り返ってみれば、忍術の名前まんまの効果である。
「ふう、ミユキは無事か? 凄い威力だったな。一発でヘイトを奪われるなんて思ってなかったぞ」
セオリーと呼ばれた忍者はミユキへ語り掛ける。ミユキはふふんとドヤ顔で髪をなびかせた。
「ただ、ヘイトを奪うんならその後のフォローまでしっかり頼むぜ」
注意を受けて途端にしょぼくれるミユキ。さっきまでのドヤ顔はどこへやら。
「ところで、さっきの攻撃はまだできるのか? できるならそっちをメイン火力に据えて良いんじゃないかと思うけど」
「残念ですが、それは不可能です……」
ミユキは心底残念な顔をしてルシフォリオンの足元を指差した。そこには直径10メートル大の穴が空いていた。そこでゴドーも思い出した。あの弾は自重で地中に沈み込んでいくとミユキが説明していたではないか。
「重さが解放された超圧爆縮弾は地下へ沈み続けます。掘り出すには私の忍術の他、地形操作が得意な忍者数名が必要でしょう。どちらにせよ、ルシフォリオンの足元で掘り出し作業は難しいと思います」
「マジかよ。とんでもない一発ネタだったんだな」
セオリーは呆気に取られたような表情をした。
「なら、仕方ない。やっぱり俺がもう一回ヘイトを奪うしかないか。『雷霆術・稲妻』」
曲刀を横薙ぎに振ると同時に雷一閃。ルシフォリオンの身体を貫いた。それを続けざまに数回繰り返す。すると、ようやくルシフォリオンの視力も回復したようだ。ゴドーはビクリと身構える。しかし、矛先は違った。ルシフォリオンはギロリとセオリーを睨み付けたのだった。
「はぁ、まったく。結界から動かんでくださいと言ったでしょう」
「仕方ないだろ、ヘイトが移っちまったんだから!」
「でもでもー、それで構わず突っ走っちゃうところは可愛くて良いよね」
ヘイトが移ったところで新たに二人の忍者が現れた。セオリーを追って第一部隊の方面から走ってきたといったところだろう。続けて二人は結界を構築していく。その中に納まるのはセオリーだ。ルシフォリオンの攻撃が鉄壁の防御によって阻まれる。
「ゴドーさん、あなたは念のためしばらく攻撃に参加せず後方で待機していてください」
ミユキの指示で後方へと回されたゴドーは首を捻っていた。
……セオリー。やはりどこかで見たことがある。記憶の中を掘り返していく。見た目と名前両方に引っ掛かりを覚える。逆嶋で会ったのか?
そこまで記憶をさかのぼってハッと気付いた。
セオリー。たしか逆嶋でコタローとともに居た下忍のプレイヤーだ。黄龍会との組織抗争を目前にして、白蛇使いの頭領イリスを手引きしている裏切り者ではないかと勘ぐって、ゴドーが胸倉を掴んだ相手である。
しかし、どういうことか今のセオリーは頭領と肩を並べてワールドモンスターとの戦闘の最前線にいる。当時の時点では確実にまだ下忍だったはずだ。あれから相当早くランクを上げていたとしても中忍か中忍頭が関の山だろう。
アイツはいったい何者なんだ……?
格下と思っていた相手が気付けば頭領と並んでいる謎。そんな疑問符にゴドーの頭は埋め尽くされたのだった。
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