第238話 弾け、超圧爆縮弾
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「作戦は簡単です。私が
作戦概要をミユキはそう説明した。簡潔すぎる。たかだかこれだけのことに頭領が俺の力を借りるだろうか。不審に思う気持ちへ心が若干傾きかける。
「不思議そうな顔をしていますね」
「不思議というか不審ですよ。頭領が俺に頼むほどのことですか?」
「なるほど、不審ですか。……ずいぶんとご自分の固有忍術を過小評価しているんですね」
「なにっ?!」
自然と語気が強まる。その発言はたとえ頭領とはいえ聞き流せない。
『強弾術』のことを過小評価しているだって? そんなことは有り得ない。むしろ自分こそが『強弾術』の強さを正しく自覚しているのだ。ゴドーにはそれだけの自負があった。だからこそ頭領とはいえ、ぽっと出てきた忍者に何が分かるというのか、という反発心が生まれた。
「そう怖い顔をしないでください。むしろ、私はあなたの固有忍術を高く買ってます」
「話に聞いて来ただけで俺の固有忍術の何が分かる?」
ミユキはゴドーが防御無視攻撃をできると聞いて来ただけだ。それ以上のこと、ゴドーの固有忍術のことなんか大して知りもしないはず。
しかし、ミユキはすらすらと事も無げに『強弾術』について説明し始めた。
「あなたの戦いぶり、後ろから少し観察させてもらいました。物体を弾くことで対象物に特殊な効果を付与するものとお見受けします。使用している鉄球は特注でしょうか。しかし、おそらく弾ける物なら種類は問わないのでは?」
少し戦っている所を見られただけでここまで手の内がバレてしまうのか。ゴドーは戦慄とともに言葉を失った。
「特注の鉄球は少し小ぶりですね。重さも見た目通りの軽さ。となると筋力のステータスで弾ける物体の重量に制限が掛かっている、とか?」
「……っ」
何も言えなかった。ミユキの言葉はどれも当たっていたからだ。ゴドーの『強弾術』は筋力ステータスを上げるほどに弾ける物体の重量も制限解除されていく。しかし、同時に弾く際の命中率が技量ステータスに左右される。
ここにジレンマがあった。筋力を上げて威力アップを図るか、技量を上げて精確性アップを図るか。
そんな中、ゴドーが選んだのは、……技量重視であった。理由は単純明快で重い鉄球を買う方が高かったからだ。特注品の忍具は材料費がプレイヤー持ちになる。その時、鉄球を量産したい場合、重くするほど材料費がかさむのである。その点、技量を上げる分には金がかさまないし、無駄にもならない。良いことづくめだった。
「すみません、少し意地悪でしたね。自分の固有忍術のことを他人からペラペラと話されるのも良い気がしないでしょう」
「いや、いい。むしろ少し見ただけでここまで看破されるなんて思わなかっ……、思いませんでしたよ」
「そう言って頂けると幸いです。ふふっ、それと無理に敬語でなくとも結構ですよ。私は普段からの癖で敬語なだけですから」
「……あぁ、分かった」
「さて、協力して頂けるのなら私に付いて来てもらえますか。あなたに弾いてもらいたい弾丸は別の場所にあるので」
「よし、案内してくれ」
ミユキの後を追って第一部隊の戦列から外れ、第二部隊が戦闘を繰り広げている地点まで移動した。そして、ゴドーはすぐに気付いた。何か異様な物体が鎮座している、と。
それは黒々とした球体だった。大きさは直径10メートルくらいだろうか。不思議な存在感があり、その場にあるだけで変なプレッシャーのようなものを感じるくらいだ。
ミユキが球体の隣で足を止めたので、すぐ後ろでゴドーも足を止めた。近くで見るとさすがに大きい。見上げるほどの大きさだ。この球体の表面には不思議な紋様が刻まれており、地面からほんの少し浮いていた。何から何まで得体のしれない物体だ。
「なんだ、この球体は」
「これがあなたに弾いてもらう弾丸ですよ」
「こ、これが?」
「はい、超高圧による爆縮でこの大きさまで圧縮させた金属球です。元々は私の武器を作る過程で、素材として作成したのですが高密度、超重量にし過ぎた結果、加工する方法が無くなってしまいまして……」
ミユキは乾いた笑いを漏らしながら説明した。
さらっと説明されたがとんでもない代物だ。加工方法が存在しないほどに密度が高く、重くなってしまった? そんなこと果たして可能なのかと不思議に思うくらいだ。
しかし、そうと説明されれば得心がいく。異様な存在感、プレッシャーは金属球の密度の高さを感じ取って身体が自然と委縮してしまったのだ。つまり、ただの金属球にもかかわらず、物体としての脅威度が桁違いに高いのである。
「ところで、この紋様は?」
「これは金属球を浮遊させておくための結界術です。……その、地面に置いておくと自重で地中に沈み込んでいってしまうもので」
きゃっ、言っちゃった、みたいな仕草をして、まるで自分の体重を公表したかのような恥じらいを見せるミユキに、ゴドーはどこからツッコめば良いのか分からなかった。だから、彼はそこで深く考えることを止めた。
ミユキは巨大な金属球をポンポンと叩くとゴドーへ声を掛けた。
「さて、このままでは弾くどころの話ではないですよね」
「あぁ、俺が弾けるのは最大でも5キログラム以内だ。加えて『強弾術』の効果を最大限に発揮するなら1キログラム以内がベストだな」
「分かりました、任せて下さい。『軽重術・超軽量化』」
ミユキが金属球に手を当て忍術を唱える。すると、心なしか金属球の存在感が薄れたような感覚があった。
「ジャスト1キログラムまで軽くしました」
そう言ってミユキは金属球を転がし始める。ルシフォリオンの近くまで転がして運ぶらしい。運ぶミユキの後ろを付いて行きながら、一つ思ったことを尋ねた。
「俺に協力を依頼したのは弾丸がこの金属球だったからか」
「えぇ、そうです。私の持ち得る中で最大の火力を生み出す弾丸、それに防御無視でも貫通効果でも何でもいいから効果を付与できる人を探していました。」
「なるほどな、ようやく俺が選ばれた理由が分かったよ」
この馬鹿デカい金属球と噛み合う固有忍術を探すというのは苦労するだろう。特殊な効果を付与するタイプの固有忍術は自身の持つ武器や得意な行動と関連深い場合が多い。
例えば刀剣に効果を付与するもの、忍者自身など人体に効果を及ぼすもの、殴る蹴る斬るなど行動に効果を付加させるものなど様々である。
ゴドーの場合は「弾く」という行動さえクリアできれば効果を付与できる。対象物の形状などはお構いなしだ。それがミユキのお眼鏡にかなった理由だろう。
ルシフォリオンの右後脚がよく見える位置まで到着した。ミユキが金属球を地面に置く。すでに重さという呪縛は取り払われている。あとはゴドーが弾くだけだ。
「そうでした。名前を付けていませんでしたね」
「名前?」
「この弾丸の名前です。そうですね……由来を元にするなら『超圧爆縮弾』といったところでしょうか」
「ちょ、ちょうあつ、ばくしゅくだん……」
「さあ、高らかに名乗りを上げましょう。私たちの力の結晶を、あの傲慢なモンスターにぶつけてやるのです!」
この時ゴドーは知る由もないが、アカバネの解析でルシフォリオンがダメージを受けている振りをしていたことにミユキは非常に腹を立てていた。それこそ一発ギャフンと言わせるまでは溜飲が下がらないレベルだった。
「角度よーし。超圧爆縮弾、発射準備オッケー!」
ミユキは高らかに宣言した。明らかに周囲から浮いている状況。周りのプレイヤーたちも何が始まるんだと攻撃の手もそこそこにゴドーとミユキに注目していた。
ぶっちゃけた話、ゴドーは少し恥ずかしくなっていた。ミユキのノリノリ具合もちょっと恥ずかしさを助長していた。しかし、彼も男である。ここまで頭領にお膳立てされたのだ。逃げるわけにはいかない。
「いつでもどうぞ、あなたの固有忍術の力を見せつけてやりましょう」
「あぁ、もうどうにでもなれ。……ルシフォリオン! 超圧爆縮弾を喰らいやがれ、『強弾術・
中指を曲げ、デコピンの要領で巨大金属球を弾く。その瞬間、直径10メートルを誇る弾丸が驚くべき速度で射出された。
「『軽重術・解』」
超圧爆縮弾がルシフォリオンの右後脚に直撃する瞬間、ミユキは忍術を唱えた。それは弾丸から取り払われていた本来の重さを戻す言葉。
直後、轟音が周囲に響いた。衝撃に大地が震える。続いて肉体の引き千切れる音、衝撃波、そして、ルシフォリオンの叫び。
威力は申し分なかった。驚きなのはルシフォリオンの足首が半分近く抉れたこと。完全に虚を突かれたようでルシフォリオンは驚愕の顔で叫び声をあげていた。その表情、声に演技は含まれていない。そう確信できるほどだった。
アカバネからの『念話術』で今の一撃がルシフォリオンに多大なダメージをもたらしたことが伝えられる。
ミユキは人知れずガッツポーズを掲げた。ここに密かなリベンジを成功させたのであった。
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セオリーからヘイト奪っちゃおうとか考えていたことからも分かる通り、ミユキは意外と負けず嫌いなところがあります。
そもそもシャドウハウンドみたいな警察機関で隊長まで登り詰めるからには、それに見合うだけのガツガツとした闘志が必要なんですね。
もしかしたら逆嶋のアヤメのこともライバル視してるかもしれません。アヤメVSミユキとか見てみたいですね。
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