第223話 PC>C:>NINJAになろうVR>データ>

▼セオリー



●神域忍具

 人の手によって造られ、天上に届き得る力を得たもの。ただし、その力の方向性はすべからく神を殺すこと、その一点のみに特化している。⇔天上忍具


・付加効果(全神域忍具共通)

 属性:神性に対する強力な特攻効果を持つ。ダメージ計算式に特攻ダメージ倍率を追加する。ダメージ倍率は神性の強さに比例する。

→ダメージ倍率

 神性(強):×N

 神性(中):×(N/2)

 神性(弱):×(N/4)

 ※Nは忍具強度に準ずる


・特攻対象

 神性(強):上位支配者、認定偽神、ワールドモンスター、ライブラリアン

 神性(中):光吏ひかり、影子、ユニークモンスター、仙人

 神性(弱):武士、忍者、偽神眷属



 エニシがテーブルに広げた電子巻物をざっと流し読みしたところ、だいたい以上のことが書かれていた。色々とツッコミ所がたくさんあるのは重々承知の上なんだけど、まず聞きたい。


「めっちゃ攻略情報感が強いな」


 それが真っ先に気になったことだ。ダメージ倍率だとか特攻対象だとか文面に踊る文字列はいずれも攻略本や攻略サイトに載っていそうな内容である。


「そうだろうよ。……しっかし、こんな風に書かれちまうとチープに思えちまうのは俺だけかねぇ」


「あぁ、それは分かるかも。最初のフレーバーを匂わせる文章まではまだ良いんだけど、詳細なデータが見え過ぎちゃうと未知の凄い忍具感が薄まるよな」


 お互いに思ったことを言い合い、それから俺とエニシは熱い握手を交わした。解釈の一致は友情を育むのである。それに実際問題として知らなくて良かったことも書かれていた。


「それと、咬牙の前にも存在したんだな」


 指摘しつつ電子巻物の後半部分、神域忍具の一覧という項目を指差した。どうやら神域忍具は雷霆咬牙が誕生する以前から世界に存在していたらしい。


「『黒注連縄くろしめなわ荒神鎮あらがみしずめ』と『倚天之槍いてんのやり蒼天喝破そうてんかっぱ』、少なくとも雷霆咬牙の前に二つは存在したらしい」


「ほぉ、蒼天喝破そうてんかっぱか。たしか千年以上前の記録書に載っていたはずだ。当時の悪神と呼ばれたユニークモンスターの存在を暴き刺し貫いた時、一緒に消滅したって話だ」


「現存してないのか」


「記録の通りならな。とはいえ、さすがに俺が生まれる前の忍具までは分からねぇ」


 結局、分からない事ばかりだ。せっかく調べたのにな。


「ちなみに、荒神鎮や蒼天喝破から派生してさらに調べたりもできるんだよな」


「できるだろうが、やらねぇぞ。過去にも神域忍具は存在した、それだけ分かりゃ十分だ」


 どうやらエニシのラインはここまでらしい。これ以上は藪を突いて蛇を出すかもしれない。エニシの言う「記録の通りなら」という言葉が物語っている。記録とは必ずしも真実が書かれているわけじゃない。記録を書いた人物や書かせた・・・・人物にとって都合の良い形で改変されるものだ。

 過ぎたる情報は自分の身を危険に晒す可能性がある。エニシの分水嶺はここまでなのだ。となると俺の知りたい上位支配者の項目を追加で調べてもらうのは無理だよな。


「無理を承知で聞くんだけど、上位支配者の項目を調べてくれたりはしないよな?」


 一応、ダメ元で聞いてみる。俺のお願いを聞いて、エニシは怪訝な表情を見せた。


「なんでお前が上位支配者に興味を示すんだ? ……まあ、いい。調べてやろうか」


 断られるだろうと思って聞いたのだけど、思いのほかエニシは協力的だった。特に考えることもなく、すぐに司書へ追加の検索依頼を出す。司書はほどなくして新たな電子巻物をこちらへ寄越してくれた。


「ほれ、見てみろ」


「ありがとな!」


「礼は中身を見てからにしな」


 エニシから渡された電子巻物を見つめる。そこには簡素な一文だけがあった。



『情報の閲覧に制限が掛けられています』



「ふっざけんな」


 電子巻物をくしゃっと丸めて床に叩きつける。ちくしょう、肝心な情報にはしっかり制限を掛けて見られないようにしてやがる。


「おうおう、荒ぶってんねぇ。誰かお目当てでもいたのか?」


「……すまん、ちょっと頭に血が上った。少し前に俺の身体を勝手に乗っ取ったヤツがいたんだけど、そいつが自分のことを上位支配者だって言ったんだ」


「上位支配者がプレイヤーにちょっかいを掛けるだと? そいつぁ珍しいな。んで、名前は分かってんのか?」


「名前はたしかヴェド=ミナースとか言ってたかな」


 その名を口にした途端、エニシの空気がガラリと変わった。さっきまでヘラヘラとした表情でいたのから一変して真剣な顔つきになっている。


「ヴェド=ミナースか。厄介なヤツに目を付けられたもんだ」


「エニシは知ってるのか?」


「忘れもしねぇよ。ヤツは若い頃の俺にも接触してきたんだからな」


「エニシも会ってるのか」


 エニシは頷き、口を開いた。かつてメキメキと忍具職人としての腕を上げていたエニシは長い苦労の末、『神縫い』を作り出した。そして、その直後にヴェド=ミナースは接触してきたのだという。

 ヤツは言った。世界に滅びが近付いている。しかし、それを解決する策は現時点で存在しない。だから、せめて時間を稼ぐために力を貸して欲しい、と。

 世界の滅びを食い止められるならお安い御用だ。そう考えてエニシは協力したという。当時の不死夜叉丸の愛刀・薄緑に『神縫い』を埋め込み、対抗できるだけの力を与えたのだ。


「そん時に色々と話を聞いたんだ。ヴェド=ミナースはそもそも日本を管理する上位支配者だったらしい。そんで宇宙そらから飛来した化け物によって地上の国々が蹂躙された後、結果的に日本だけ残った」


 不死夜叉丸を撃破した報酬に入ることが許された書物の積まれた小部屋。そこで発見された書物にも同じようなことが書かれていた。ルペルが仙人から聞いた話とも一致する。


「つまりだ、現状管理する国を持っている上位支配者はヴェド=ミナースただ一人。そんなわけだから上位支配者どもの中で主席の座に収まってやがるわけだ」


「上位支配者の主席か」


 一番、発言権の強い立場にあるわけだ。上位支配者のことすら閲覧制限が掛かっているんだ。それこそヴェド=ミナースのことを調べようものなら、より強固な制限が掛けられていることだろう。


「アイツのことを知るのが難しいってことは分かった」


「へっへ、そう落胆すんなよ。自分勝手なとこはあるが、日本を存続させるって意味では本気で考えてるヤツだ。少なくとも目前の脅威を取り去るまでは味方と思って良い」


「めちゃくちゃ不穏な物言いだな。まるで目前の脅威が取り除かれたら敵にでもなりそうな言い方だ」


「おっとこいつはいけねぇ、そんなつもりは無かったんだけどよ」


 エニシはうそぶくように笑う。取り繕い方が適当だ。非常に怪しい。他にも何か知っているのかもしれない。俺はさらに追及しようかと口を開こうとしたけれど、それに待ったをかけるように司書が口を開いた。


「楽しく談笑しているところ申し訳ありません。ですが、図書館ではどうかお静かに」


 鋭い眼光が俺とエニシへと向けられる。図書館内には他に俺たちしか居ない。だけど、だからと言って騒いでいいわけじゃない。ぺこりと頭を下げた。

 どうやら俺からの謝罪の意を受け取ってくれたらしく、司書は鋭い眼光を引っ込め、にこりと笑みを浮かべてくれた。


「誰が聞いてるとも分かりません。秘密の話は天から覗く目と耳が届かぬ場所が良いでしょう」


 司書はそれだけ言うと、俺たちに渡していた電子巻物を手元へ吸い寄せるように回収してしまった。


「あー、なんだ。とっとと帰るぞ」


「分かった」


 なにやら焦った様子のエニシに促され、俺とエイプリルは図書館を後にした。

 結局、得られた情報は『神域忍具は神性のある対象に特攻を持つ忍具』ってことくらいだ。とはいえ、過去にも類似の忍具は存在した。その点では未知の危うさみたいなものは薄れた。

 自分の扱う忍具だ。できる限り懸念材料は解消しておきたい。そういう意味では収穫はあったと言ってもいいだろう。


「つうか、俺めっちゃ恥ずかしいな」


「どうして?」


「いや、したり顔で雷霆咬牙のこと『この世界で初めて確認された神域忍具なんじゃないか』とかエニシに言っちゃったから……」


 実際には全然そんなことなかった。過去には普通に神域忍具があった。

 顔から火が出そうだ。両手で顔を覆う。なんかちょっと特別感に浸ってしまっていた。神域忍具というオンリーワンを思わせる名に酔ってしまっていた。


「まあ、神域忍具に関して言やぁ俺も知らなかったんだ。仕方ねぇさ」


「そうだよ、それに現存してるのは咬牙だけかもしれないじゃない?」


 エニシとエイプリルの慰めが身に沁みる。これからは酔って大口叩かないようにしよう。そう心に誓った。

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