第205話 置いてけぼりの少女たち、救済
▼セオリー
不死夜叉丸を攻略して数日が経つ。結局、ワールドクエストのクリア条件である世界の
今朝のテレビ番組「VRゲームTV」ではワールドクエストの進捗状況が影子によって開示されていた。とうとう進捗において関西地方が関東地方を上回ったらしい。つまり、関西地方のプレイヤーたちは不死夜叉丸を攻略し、さらにその先にある世界の軛の
番組中では関西地方が追い上げに成功した理由としてNPCとの共闘の有無を挙げていた。
関東地方では不死夜叉丸攻略においてNPCは基本不参加とした。これは厳密にルール化したわけじゃないから必ずしも順守されている訳ではない。もしかしたら、小さなクランやパーティー単位ではNPCを加えて挑んだところもあったかもしれない。しかし、逆嶋バイオウェアやシャドウハウンドを始め名の通った大規模クランは軒並みNPCを参加させなかった。これが関西地方に進捗で追い抜かれた原因であるという。
たしかに忍者の総数を考えてみれば分かる。プレイヤーの数よりもNPCの方が圧倒的に多い。
頭領の人数だけで比べても、関東地方において頭領ランクのプレイヤーは現在8人しかいないけれどNPCの頭領はもっと多くいるという。プレイヤーと違ってNPCはランキングなどで視覚化されていないから正確な数字は分からないけれど、少なくともプレイヤーよりはずっと多いそうだ。
そう考えると、NPCたちと共闘した関西地方は攻略の糸口を見つけやすかったのだろう。その分のリスクもあるからどちらが良かったのかは分からないけれども……。
ワールドクエストの近況としてはそんなところだ。
不死夜叉丸を倒した後に見つかった書物からプレイヤーの考察班がかなり沸き立っているという情報も聞いてはいるけれど、その辺は考察が好きなプレイヤーたちに任せよう。
俺もアイテムの説明文やフレーバーテキストを読んだりするのは好きなんだけど、そこから考察へと発展させるのは門外漢だ。陳腐な想像しか思い浮かばない。というわけで堅苦しい考察なんぞさっさと放り投げたのであった。
不死夜叉丸が俺たちのパーティーに突破された後も、世界の軛ダンジョンはまだまだ盛況だった。今でも頻繁にプレイヤーが出入りしている。むしろ突破したパーティーが現れたことで、他のクランもより一層躍起になっている面もあるかもしれない。
珍しいことに不死夜叉丸はユニークモンスターであるにもかかわらず何度でも挑めるという特殊なモンスターだった。そのため、不死夜叉丸を倒したという実績を得るために日夜プレイヤーたちの
ちなみに俺も試しに二戦目へ挑んでみた。二戦目不死夜叉丸は使用する技がさらに増え、全体的なステータスも上がっていた。……そして、コテンパンにやられましたとさ。どうやら繰り返し不死夜叉丸を倒して経験値稼ぎや希少な素材を入手しまくるなんて狡い方法はできないようになっているらしかった。
そんな世界の軛ダンジョン、その入り口に俺は立っていた。今日は八百万カンパニーの頭領コヨミから呼び出しを受けていた。
昼頃、大学のサークル室で会うなり「今日の夜って淵見くん空いてる? もし暇なら『‐NINJA‐になろうVR』の中で待ち合わせしようよ」と誘いをかけられたのである。もちろん、断る理由もないので二つ返事でオーケーした。
「お待たせー!」
「あぁ、コヨミ」
「急いで来たんだけど、待った?」
「いや、そんなに待ってないよ。こっちもついさっき来たとこ」
「そう、良かったー」
タタタと駆け寄ってきたコヨミと挨拶を交わす。俺を長く待たせてないと知って一安心したようだ。続けてコヨミは俺の後ろに控えていたエイプリルへと視線を移した。
「……あら、エイプリルも一緒に来たんだね」
「当然でしょ、私はセオリーの腹心なんだから」
「ふーん、そっかー」
コヨミとエイプリルの視線が絡み合う。
この二人は不死夜叉丸攻略戦における置いてけぼり組でもある。コヨミは頭領、エイプリルはNPCという異なる理由で攻略パーティーに参加できなかった。
エイプリルからは代わりの埋め合わせをするよう圧を掛けられたし、コヨミからも「私も一緒に行きたかったなー寂しかったなー」とサークル室でそれとなく責められた。つまり、今回のパーティー編成は俺の
「それで今日呼び出した理由は何なんだ?」
「ここだと他のプレイヤーの耳があるかもしれないからね。ダンジョンの中で話そう」
コヨミはそう言うとダンジョンの入り口になっている大きな木の
というか、まさか不死夜叉丸へ挑みに行ったりしないよな? 脇目も振らずに進んでいくコヨミを見て一抹の不安を覚えた。
「えーっと、これってどこに向かってるんだ?」
俺の心配をよそにダンジョン内をずんずんと進んでいくコヨミに後ろから尋ねる。すると、コヨミは立ち止まって振り返り、ニヤリと笑った。
「うーん、もうちょっとだけ内緒。まさかボスのとこに行くと思ってる?」
「四割くらいはその可能性を捨て切れないでいる、かな」
「あっはっは、さすがにあたしもこの人数で挑みに行こうとは思わないよー」
「そ、そうだよな」
コヨミの返答に俺はホッと胸を撫で下ろした。
もし、万が一このまま不死夜叉丸の待つボス部屋へ突入しようものならエイプリルには帰ってもらわなければいけないところだった。しかし、そうなれば当然エイプリルの不機嫌ゲージがグンと上昇してしまい、次に埋め合わせする時のハードルがとんでもなく高くなってしまうだろう。それだけは避けなければならない。
「もう周囲に他のプレイヤーは居ないかな」
「そんなに他のプレイヤーを気にするってどこへ行く気なんだ」
「今から行くところはね、世界の
「ぅえっ、それ本気で言ってるのか?!」
「本気も本気よ。そのために色々と準備してきたんだからね!」
そう答えるコヨミは脇道から現れた
自身を最弱の頭領と称するコヨミであるが、ダンジョンを攻略して進軍していくスピードは流石の頭領ランクという手際の良さだ。俺とエイプリルは手出しの必要が全くないほどである。
「頭領ってすごいなぁ」
「むぅ……、悔しいけど確かに凄いね」
ぽつりと漏らした感想にエイプリルも不服そうに同意した。
俺は少し驚く。エイプリルが張り合うような態度を示すのは珍しいからだ。年の近い女子同士、少し思う所があるのかもしれない。
「はい、一丁上がり! ダンジョン攻略はサークルの先輩たちと結構周回したからね。モンスター相手の戦いは得意なんだ」
「頭領
「そうそう、経験値が美味しいダンジョンとか狙って何度も周回したなぁ」
懐かしそうに目を細めているけれど、その間にも再び出現してきた妖怪モンスターをフルボッコにして倒している。まるで流れ作業のようにモンスターが片付いていく。どうやらコヨミは素早くモンスターを倒してダンジョンを進むということにずいぶんと慣れているらしかった。
あと、単純にコヨミの結界が強い。タイドの『監獄術』の時も思ったのだけれど、相手の動きを制限できるのは非常に大きなアドバンテージだ。行動さえ縛ってしまえばあとは煮るなり焼くなりお好きなように。特に行動AIが貧弱なモンスター相手だとぶっ刺さりしている。
しばらく進み、袋小路に突き当たる。そこでコヨミは白い紙を取り出した。紙は人を模した形に切り抜かれている。いわゆる
コヨミはおもむろに形代を宙に放り投げると、掌から気を飛ばし、形代へとオーラを注ぎ込み始めた。
「オモイカネ、巫女であるあたしの呼び声に応えよ、『降神術・
術を唱え切ると同時に、まさにその場で神が顕現したかのごとき激しい光が形代を中心として
光が収まり、そこに姿が見える。ゴッドイズ……、神は存在するという言葉の通り、それは腕を組み仁王立ちで立っていた。
つまり、
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