第198話 パーティー組むときゃ挨拶から

▼セオリー


 世界のくびきと呼ばれる石板の前に集結した8人。中には初対面のプレイヤーもいるわけで、ひとまずは自己紹介や挨拶をすることになった。


「最初にシャドウハウンドのメンバーから紹介しよう」


 今回の作戦でメンバー集めからずっと音頭を取ってくれているハイトが口火を切る。そして、シャドウハウンドの他プレイヤーたちを紹介し始めた。


「まずはメインアタッカーのタイド。上忍頭でシャドウハウンド逆嶋支部の副隊長でもある。アヤメの抜けた穴を埋めるために奮闘するそうだから期待してくれ」


「おい、勝手にハードルを上げるな!」


 ハイトの紹介に納得いかない様子のタイドは食って掛かるが、それを華麗にスルーしたハイトはさらにその横に立つ女の子を手で指し示す。


「隣の犬を抱えた女の子が索敵役のアルフィ。忍犬の方はヘルマン君だ。中忍ではあるが、索敵能力だけで見ればこのパーティーで一番だろう。実はボスに辿り着くまでのダンジョン攻略における屋台骨だな」


「が、頑張りますっ」


「そんで俺はハイト、上忍だ。役割としては妨害だな。蝶を飛ばして目くらましとかができる。シャドウハウンドからはこの三人だ」


 ハイトの説明を受けて他のメンバーも挨拶や首肯を返す。アルフィに関しては俺も初対面だ。プレイヤー同士のコミュニケーションは努めて明るくするのが大事になる。そんなわけで俺は気さくな調子で「よろしく」と言葉を返した。


「それじゃあ、次は逆嶋バイオウェアの参加者を紹介しようか」


 次にコタローがハイトにならいアマミへ手を向ける。


「彼女はアマミ。逆嶋バイオウェアの中忍頭だね。役割としては特殊バッファーってところかな」


 コタローの説明を受けて何人かは頭にハテナを浮かべる。とはいえ、確かに固有忍術を知っている俺でもアマミの忍術を簡単に説明することはできない。特殊な補助役バッファーという他ない。

 そのため、アマミ自身が固有忍術『結縁術・月下氷人』を実演して初対面のメンバーに教えるという一幕が挟まれた。


「対象者二人のステータスの中で一番高い数値をお互いに共有する忍術。弱点を補完し合うこともできて面白い忍術じゃないか」


 主にアマミの固有忍術が初見なのは俺が連れてきたルペルとゲンだ。二人とも実演されることで効果を理解できたようだ。ルペルは補助忍術としての完成度の高さに感心したようでしきりに効果を確認していた。

 忍者は成長するにしたがって、レベルアップ時のステータスの伸びに差が生まれてくる。エイプリルを例に出すと、彼女はレベルが上がった時に「耐久」のステータスが良く伸びる。しかし、筋力や俊敏はあまり伸びない。

 この成長度合いの差が積もっていくにつれてステータスの穴、弱点が生まれてくるわけだ。俺なんかは分かりやすいな。筋力が1から変動していないからどんどん差が生まれている。弱点が分かりやすい。

 ルペルの言うように、こういった明確な弱点を大幅に埋め合わせることができる点は『月下氷人』の強みだ。それこそ忍者ランクが上がるにつれて埋め合わせられるステータス差も大きくなるからパーティーに一人いると助かる忍術だ。


 アマミの忍術説明が一通り終わったのを見て、コタローが次に自分自身を指差す。


「それからボクだね。アマミと同じく逆嶋バイオウェアの上忍で名前はコタローだ。固有忍術は『付加術』と言って単純に筋力や耐久、俊敏のステータスを上げることができる」


「なるほど、分かりやすいバッファーなわけですね」


 ゲンが掌を拳でポンと叩いて感想を述べる。それに対してコタローも頷き返した。よく考えると、アマミとコタローの逆嶋バイオウェア陣営は二人とも補助役なんだな。たまたまだと思うけど面白い被りだ。


「ちなみに『月下氷人』はボクの『付加術』で上がったステータスも参照してくれる。だから基本的には一番高い能力値にボクがバフを掛けて、そのプレイヤーを絡めて『月下氷人』を使うのが強いコンボだね」


 コタローは補足として全体にお手軽コンボの説明も付け加えた。

 懐かしいな、逆嶋での組織抗争イベントの際にも使ったコンボだ。あの時は俊敏の能力値にバフが掛かったハイトと俺が繋げられて、当時の俺は下忍にもかかわらず破格のスピードを得ることができた。


 アマミとコタローのコンボを聞いて懐かしい思い出に浸っていると、ふと周りの視線が俺へと集まっていることに気付いた。


「おっと、それじゃあ残りは俺が呼んだメンバーだな。俺が説明しちゃう感じで良いか?」


 ルペルとゲンへ視線を向けて尋ねる。二人とも肯定するように頷き返した。了承を取れたのでちゃちゃっと説明を開始する。


「一人目はルペル。正式名称はルンペルシュテルツヒェン」


「ルペルで良い」


「あ、そう? じゃあ、ルペルで良いそうだ」


 たしかに戦闘中とか長すぎると舌を噛みそうになるからな。短い方が情報を伝達する時にも便利だ。


「ルペルは上忍頭で、固有忍術『忌名術』は名前を呼んだ相手に命令して従わせる。一応、妨害系の忍術になるか。NPC相手なら無双だって聞いたけど、今回のモンスター相手はどのくらい効くんだ?」


 俺が説明するって言っといてなんだけど、今回のダンジョンボスである不死夜叉丸に対しては、どれくらい有効なのか全然知らなかった。というわけで、本人に聞いてみる。


「基本的にモンスターや野生生物に関しては名前が分からないから術は効かないよ。だが、今回はユニークモンスターで名前がハッキリしてるからね。多少は効果が有ると思う。とはいえ、実際に試してみないことには分からないな」


 ふむ、ぶっつけ本番で試してみることになりそうだ。となるとルペルの忍術が効果なしだった場合、妨害役がほぼ居ないことになってしまうな。

 ハイトも同じ考えに至ったらしく、説明の合間だったが口を開いた。


「それなら、ルペルの忍術が不死夜叉丸に通じるかどうかを戦闘継続の判断材料としよう。俺も何度か戦ってみたが、やはり攻略するには本職の妨害役が必須だ」


「そうだな、通用しなかった場合、私をパーティーから抜いてくれて構わない」


 ハイトの言葉を聞き、ルペルは静かに頷く。人数制限を考えると、全員が何かしらの役割を受け持つ必要が出てくる。遊びのスロットが無いため、もし忍術が効かなかった場合、ルペルには抜けてもらわないといけないだろう。


「呼んでおいて抜けてもらうのは悪いな……」


「ふん、そもそも忍術が通用しなければの話だ。名前もハッキリしている相手に効かない訳が無いだろう。むしろ、効かせてみせよう。そして、私もどこかの誰かのようにユニークテイマーにでもなってやろうかね」


「……そ、そうだな。その意気だ」


 ルペルは悪戯っぽく笑って俺を見た。周りは『ユニークテイマー?』と疑問顔である。

 おい、あんまり広めるようなこと言うなよ。まあ、ここにいるパーティーメンバーなら伝えちゃっても大丈夫だと思うけど、どこから八重組に伝わるか分かったもんじゃない。


 序列決め以降、カザキから伝え聞いた話によると、八重組の組長が急に代替わりしたとかキナ臭い話はあったけれど、だからと言って積極的に流布したい話でもない。甲刃連合の中で亀裂を入れるのは御免だしな。


「えっと、次はゲンだな」


 俺は話題を変えるようにゲンの紹介を開始した。


「ゲンは甲刃連合の城山組っていうヤクザクランで若頭をしている中忍頭だ。固有忍術『金剛術』は筋力と耐久を大きく上げる。めっちゃ硬い。ザ・タンクって感じだな」


「硬さにだけは自信が有ります。どうぞ、よろしくお願いします」


 俺の紹介を受けて、礼儀正しくお辞儀をするゲンに周囲の反応は様々だ。おそらく、その原因はビシッと決めたパンチパーマのせいだろう。顔も結構な強面である。ザ・タンク役という前にザ・ヤクザクランといった風体だ。そんな見た目にそぐわぬ礼儀正しい物腰からは社会人らしさが見え隠れする。もしかしたら、リアルでは一番年上かもしれない。


「そんで俺はセオリー。この中だとアルフィと初対面かな。固有忍術は『不殺術』で攻撃した相手を仮死状態にできる。手足とかを攻撃した場合はその部分を麻痺みたいに動かなくさせたりもできるな。役割を振るなら特殊アタッカーってとこか」


 だいたい全員と顔見知りなので俺の固有忍術の説明をして、うんうんと頷いてくれたのはアルフィだけだった。俺が説明を終えたと見ると、ハイトが質問を投げてくる。


「さすがのセオリー人脈でも純粋なアタッカーは用意できなかったか。まあ、火力に寄与できる忍術持ちは希少だからな」


「一人は当てがあったんだけどな、残念ながら断られた」


 実はアタッカー役もきちんと誘いは掛けていた。候補としては八百万カンパニーのタカノメだ。フェイを倒した火力を持ちつつ、忍者ランクは低い状態を維持している。理想的なパーティーメンバー候補だった。しかし、さらりと断られてしまった。なんでも他のゲームの方で今は忙しいのだという。現状の彼女は「‐NINJA‐になろうVR」はメインで遊んでいるゲームではない。そのため、今回はごめんなさいだったわけである。


 ちなみに、誘いをかけた段階でコヨミも参加すると言ってくれたけれど、残念ながら彼女は頭領だ。頭領はパーティー編成時の人数換算で枠をほぼ3人分近く取ってしまうらしい。

 少数精鋭が良いとしてもできればメンバーは上限まで含めたい。そうなるとリミットギリギリの8人パーティーを組みたいわけだ。いくら頭領が強いとはいえ、他の忍者を三人抜いて頭領を入れるかというと難しいところだ。

 というわけで、今回はコヨミにも見送ってもらった。


「とはいえ、問題ない。サブ火力も俺が用意する」


 そう言って『支配術・黄泉戻し任侠ハーデスドール』を使用する。召喚するのは当然、ライギュウだ。火力といえば彼以外に適任はいない。


「ゲンは一緒に戦ったから覚えがあるだろう、ライギュウだ」


「呼び出して早々なんだぁ?」


「これからダンジョンボスと戦う。強い敵と戦えるぞ」


「ほお、そいつぁ楽しみだ」


「つうわけで、俺の式神がサブアタッカーを担う」


 強い相手と戦える、その餌はライギュウを途端に大人しくさせた。どんだけ戦闘狂なんだ。

 それはさておき、ライギュウを見た面々の反応も様々だった。主にゲンが一番驚いている。


「え、本当にその男の子がライギュウなんですか? ずいぶんと可愛らしくなっちゃいましたね」


「なんだぁ、てめぇ、俺をバカにしてんのかぁ?」


 ライギュウは凄んで見せるが、ゲンは頬を掻きつつ苦笑いするだけだ。

 それもそのはず、現在のライギュウは俺の忍者ランクに合わせてステータスに制限が掛かっている。そして、見た目もステータス相応に若返っているのだ。年齢を推定すると十一、二歳くらいだろうか、身長も140センチ程度と小柄だ。声だって声変わり前なので小さな男の子が頑張って凄んでいるようにしか見えない。

 アマミやアルフィといった女性陣は「可愛い~」という黄色い声を送っている。まあ、元の筋肉ダルマだったライギュウを知らなければそうもなるか。



 上忍頭 タイド(主火力)、ルペル(妨害)

 上忍  ハイト(妨害)、コタロー(補助)

 中忍頭 セオリー&ライギュウ(副火力)、アマミ(補助)、ゲン(防御)

 中忍  アルフィ(索敵)



 あらためて自己紹介を終えた後、それぞれの忍者ランクで分けてみると思いがけず忍者ランクのバランスが取れていることも分かった。

 もし、上忍や上忍頭がもっと多ければ不死夜叉丸が分身行動を取る可能性があったし、逆に中忍や中忍頭など下のランクが多くなれば単純に能力が不足してしまう恐れがあった。中忍頭が少し多いけれどハイトの試算によるとギリギリ問題ないらしい。


 そんなわけで、軽い挨拶も交えたおかげでお互いを知ることができた。後はダンジョンを進んでいく中で戦闘の呼吸を合わせて不死夜叉丸に挑むとしよう。







********************


 過去に登場したプレイヤーたちですが「誰がどんな固有忍術を持ってたんだっけ?」と思い出せないことがあると思います。連載途中のネット小説を読んでいた時、私もよくありました。なので今回は一話かけてパーティーメンバーを振り返ってみました。

 ちなみに別の世界線ではタカノメがパーティーメンバーに入っていたんですが、コヨミが拗ねたのでボツとなりました。


 さあ、いよいよ次回は不死夜叉丸リベンジマッチ。どうなることやら。

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