第150話 天下分け目の大舞台、首級欲しくば名乗りを上げよ
▼セオリー
カザキとパットが手を組んだことで逆嶋バイオウェアと甲刃重工の二社によるコーポタッグが完成した。でも、どうしてこの二社が手を組むことになったのだろう?
俺の抱いた疑問は、続くパットの説明により解消された。
「我々も被害者なのですよ。甲刃重工が襲撃を受けたのと同時刻パトリオット・シンジケートからの襲撃を受けました。ここはアリス君がいたので撃退できましたが、逃げ込んできたカザキさんの報告から他のコーポも同様に襲われていることを知ったのです」
同時多発的に起きた襲撃だったわけだ。これはどう考えても計画性を感じられる。
「だから逆嶋バイオウェアのフロントに忍者が配備されていたのか」
「えぇ、そうです。それから他のコーポへ救援を送るべきか考えていたところ、アリス君がセオリーさんの窮地を察知したようだったので急遽そちらへ向かわせました」
そういう
もし、全てがパトリオット・シンジケートの思惑通りに進んでいれば、桃源コーポ都市は敵の手中に落ちてしまっていただろう。逆嶋バイオウェアが持ちこたえてくれていて助かった。
ところでアリスはどうやって俺の窮地を察知したのか非常に気になる。何か腹心の特殊能力でもあるのだろうか。
「それで、エイプリルはどこでアリスと合流したんだ?」
「私もセオリーが危ないって直感して一直線で向かってたんだけど、その途中でアリスとばったり出くわしたんだよね」
嘘かホントか分からないけれど、どうやら腹心には俺の危険を察知する能力がデフォで備わってるっぽい。なるほどな、だから二人とも良いタイミングで俺の下へ駆け付けられたのか。
「そうだったのか。おかげ様で助かったよ。それにしても甲刃重工を襲ったのは同じ甲刃連合からの刺客だったらしいけど、逆嶋バイオウェアは襲撃してきたのがパトリオット・シンジケートだってよく分かったな」
「えぇ、それはですね……」
「それについては私から説明いたします」
説明しようとするパットを遮るように女性の声が部屋の外から飛び込んでくる。社長室の扉が開かれ、入って来たのはアリスだった。
「アリス、無事だったか。さっきは危ない所を助かったよ、ありがとうな!」
「なっ! ……そんな勿体ないお言葉。ただ私は腹心としての務めを果たしたまでです」
アリスは両頬を手で押さえながらもじもじと体をくねらせる。
おかしいな、俺とリリカが手も足も出ず、ボコボコにされた襲撃者たちを相手に時間稼ぎを請け負って戦場に残ったはずなんだけど、アリスの身体には傷一つなく綺麗なままだ。むしろピンピンしている。
「俺たちを襲った奴らはどうしたんだ?」
アリスの様子からして戦闘に敗北したという線はほぼ消えたと見ていい。もしかして、逆にボコボコにし返したのだろうか。だとしたら流石頭領と称賛する他ない。
しかし、そんな予想とは裏腹にシュンとした表情を見せたアリスは申し訳なさそうにおずおずと説明し始めた。
「
「いやいや、そんな謝るほどのことじゃない。そもそもの役目は俺が逃げおおせるまでの時間稼ぎだったろう。その観点で見れば満点以上の成果だよ」
アリスは能力が高すぎるあまり自己採点が厳しい。俺からすれば、むしろ正確無比な射撃支援と近接戦闘巧者のコンビという非常に厄介な二人組を傷一つなく戦闘不能にまで追い込んだという事実の方が驚きである。
「話を戻そうか。襲撃者がパトリオット・シンジケートだと確信した理由だけど、何か情報を得ていたのか?」
「はい、逆嶋バイオウェアを襲撃してきた者たちの内、一人を捕縛尋問して情報を得ています。主様を襲撃した者たちも恐らく同じパトリオット・シンジケートの兵隊でしょう」
そう言うとアリスは青白く発光する電子巻物をテーブルに広げた。パットとカザキはすでに確認済みのようだったので、俺とエイプリル、それからリリカが中心となり、電子巻物を覗き込む。
「彼らはパトリオット・シンジケート内の荒事を専門とした部隊に所属する者たちのようです。部隊の総称は『
「
なんともファンシーな部隊名だ。だが、実際に戦った感想としては中忍頭である俺からすればかなりの強敵だった。
あのレベルの敵が複数人待ち構えていると考えると、パトリオット・シンジケートが根を下ろす三神貿易港へ攻勢と打って出るには、こちらの持ち駒が足りない。確実に一勝をもぎ取れる大駒は現状アリスだけだ。
「パット、逆嶋バイオウェアが動員できるのはどれくらいの規模なんだ?」
「なかなか難しいですね……。逆嶋と桃源コーポ都市の自社ビルを無防備に晒したままにするわけにもいきません。それに最近見つかった世界の
「私は
パットは難しい表情で答え、それを跳ね除けるようにアリスが力強く宣言した。パットとしてもアリスを送り込むことに関して反対する様子は無かった。もしくは言っても付いて行くと諦めているのかもしれないけど。
それに世界の
「アリスが同行してくれるのは心強い。だけど、攻勢を仕掛けるには大駒が一つでは心許ないな……」
「甲刃連合はそもそも内部同士の潰し合いで兵隊を送る余裕はありません。甲刃重工も最低限の防衛兵力しか持ち合わせておりませんよ」
横目でカザキに戦力はないかと目線を送ったけれど、ぴしゃりと跳ね除けられてしまった。そりゃあ、そうだよな。内ゲバやってる最中に他へ割ける戦力などありはしない。
「……ですが、これから起きる
「カザキ、お前本気か」
思いもよらない言葉だった。前線に出るようなタイプではないと思っていたけれど、大丈夫なのだろうか。甲刃重工の取締役というのも忍具作成の技能を買われての抜擢だったはずだ。明らかに戦闘向けではない。
しかし、カザキは普段のニヤニヤとした笑みを浮かべたままコクリと頷いた。
「もちろん、私は根っからの戦闘タイプではありません。けれど、支援タイプもチームに居ると何かと便利ですよ」
「そりゃあ、そうだろうけどよ」
「では決まりですね」
決まってしまった。これで参加するメンバーはアリスとカザキの二名まで決まった。
俺の隣でソファに座るエイプリルは当然参加するものという表情をしているので割愛するとして、あとはリリカにも意志を確認するか。あわよくばシャドウハウンドも参戦してくれないだろうかという思惑もある。
「リリカはどうする。シャドウハウンドのしがらみがあるだろうから無理にとは言えないけど」
「何を言ってるんですの? ワタクシはパトカーを爆破された件を請求する義務がありますわ。当然、乗り込んでいってやりますわよ」
俺の質問を聞いてリリカは即答した。まだ、そのこと引きずってたのか。シャドウハウンドを舐めてるとか憤っていたものなぁ。
「なら、どこかの場面でリベンジできるといいな」
「そうですわね、次に会ったらコテンパンにしてぎゃふんと言わせてやりますわ」
ハンカチを噛んでキーっと怒って見せる様子に感心する。なんて解像度の高いお嬢様ロールプレイなんだ……。いや、物語やアニメーションでしか見ないお嬢様像かもしれんけど。
それはさておき、この場にいる者たちの中で三神貿易港へ攻勢に出るメンバーは概ね決まった。あとは俺の方で心当たりのある協力してくれそうな人へ声を掛けてみよう。
あとはいつ出発するかだ。もちろん、早ければ早いほど良いのは分かっているけれど、プレイヤーたちには現実での予定もある。
「カザキ、冴島組のキョウマって人はどれくらい持ちこたえられる?」
甲刃連合の上位幹部の中でもパトリオット・シンジケートに対し徹底抗戦を掲げるキョウマが潰れてしまえば、瞬く間の内に甲刃連合が飲み込まれてしまうだろう。彼が潰れてしまう前には行動を起こす必要がある。
「そうですねぇ……。なかなか難しいところですが冴島組は甲刃連合の序列一位クランでもあります。頭領も擁していますし、二対一でもそれなりに善戦することでしょう。パトリオット・シンジケートが本腰を入れて介入しない限り、相当の間は持ちこたえると思いますよ」
この場面でカザキに限って甘い見積もりなどはしないだろう。そんな彼をして善戦すると言わしめるのなら冴島組は頼りになる。こちらもきちんと準備を整えてから向かうとしよう。
「攻め込む日程は四日後に正式に決定しよう。俺の方ではもう少し
次の作戦会議の日取りを決定し、この場はひとまず解散となった。とは言っても、甲刃重工のビルはほぼ占拠されてしまったらしいので、カザキは逆嶋バイオウェアに居候状態となるそうだ。
なんかこの状態でログアウトするの滅茶苦茶怖いな。次にログインしたら逆嶋バイオウェアの中央支部もパトリオット・シンジケートに占拠されてるなんてことがないといいけど。
ゲーム的に考えてそれはないだろうとは思う。しかし、いかんせん「‐NINJA‐になろうVR」ではどうなるか予想がつかない。もう少し心労を与えないゲームであってくれ。
さて、カザキも言っていたけれど、この戦いが関東サーバーの行く末を決めるものとなる可能性だって大いに考えられる。俺としても万全を期すためにできる限りの仲間を集めるとしようか。
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