第五章 世界の軛と関東サーバー統一
第140話 変わりゆく世界、進みゆく者たち
これより第五章が始まります。
そして、関東サーバー編の最終章でもあります。
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▼セオリー
『ワールドクエストシーケンスが次の段階へ移行します』
突如として目の前に出現した電子巻物には今までに見たことのない文面が踊っていた。
ワールドクエストシーケンス? 一体、何だそれは。
隣にいるコヨミやタカノメを見る。彼女たちも不可解そうな顔をして電子巻物の文面を眺めていた。頭領であるコヨミが知らないとなるとお手上げだ。
ぴょんぴょんと近付いてきたエイプリルが俺の電子巻物を覗き込む。
「同じ画面かー。これって何なんだろうね」
「分からない。文面だけを見るなら世界に影響を与える何かが始まろうとしているのかもしれないけど……」
エイプリルへと返事をしている間にも電子巻物へと文章が追記されていく。
『各地方サーバーの統合を開始』
『統合完了まで残り10,368,000秒』
秒数のカウントが始まった。即座に周囲のプレイヤーたちが騒然としだす。ある者はフレンドチャットを忙しく打ち始め、ある者は現実世界へ情報収集をしにログアウトしていった。
例に漏れず、俺のフレンドチャットにもコタローやハイトといった面々から連絡が送られて来ていた。
コタロー:セオリー、運営からのメッセージは見たかい? とうとうサーバー統合のアップデートが入るんじゃないかな。楽しみだね!
ハイト:クエスト欄を見てみろ。ワールドクエストってのが追加されてるぞ!
コタローの反応を見るに、地方毎のサーバーで分断されていたものが一つに纏まるのではないか、という予想らしい。言葉の節々から待ちに待ったアップデートという感じが伝わってくる。
たしかにゲームの世界が広がるのだから、長く遊んでいたプレイヤーほど新鮮で嬉しいことなのだろう。
次にハイトのメッセージだ。クエスト欄にワールドクエストが追加されている、とのことだ。どれどれ、どんなクエストが追加されているのやら。
『ワールドクエスト:世界の
目的:各地方同士を隔てる境界の役目を果たす
報酬:サーバー統合後の地方間移動の無償化およびワールドモンスター解放
ふむふむ、目的は分かった。
サーバーが統合されたとしても、クエストに書かれている
この感じだと報酬は全プレイヤーが等しく得られるという形になるかもしれない。各地方の忍者全員が一丸となって
ワールドモンスターの解放、ね。
何だか嫌な予感がしてならない。ユニークモンスター以上の災厄が解き放たれる絵面が思い浮かぶんだよなぁ。まあ、実際のところがどうなるのかは分からない。ただ、何が起きても良いように備えておく必要はあるだろうな。
「セオリーくん、何か新情報でも得たのかなー?」
コタローやハイトたちから送られてきた情報を元に今後のゲーム内世界の動向を考察していると、スルスルとコヨミが近寄ってきた。
「今のところはまだ何も分からないってことが分かっただけかな」
「良いなー、情報交換し合えるフレンドが居るの良いなー」
どうやらこの巫女様、フレンドとチャットで会話しているのが羨ましいらしい。
「何言ってるんだよ、俺たちだってフレンドだろう。いつでも情報交換できるじゃないか」
「ッ~~! そうだよね、あたしたちフレンドだもんね、いつでも連絡取り合って良いよねー!」
「あぁ、むしろ俺の方からも頼むよ。今後も関東地方の北側を知るには八百万カンパニーの協力が不可欠だろうからな」
実際問題として関東地方の北側一帯で強い影響力を持つ八百万カンパニーと仲良くなっておくことは重要だ。
例えば中央なら桃源コーポ都市・暗黒アンダー都市ともに協力者が多くいるから情報がすぐに集まる。南の甲刃工場地帯も甲刃連合の
つまり、現状で俺が関東地方の情報を知りたいとなった場合、東の三神貿易港以外は連絡を取り合える仲間が存在することになる。
古来より情報を制する者は戦いを制するという。
ここ、八百万カンパニーでもツールボックスとパトリオット・シンジケートの悪だくみを驚くほどスムーズに打破できたのは、ひとえに情報戦で優位に立っていたからに他ならない。
過去の武将や大名たちは自らの地位を脅かす存在の情報をいち早く得るため、忍者を雇ったという。今回の一件を経て、俺は本来の『忍者』が持っていた「忍び暗躍する者」という本質的な価値を正しく認識したのだ。
色々と目まぐるしい変化はあったものの、ツールボックスの一件も無事に終わったため、コヨミやタカノメたちとは別れた。
残りの始末は八百万カンパニー側で受け持ってくれるということなので、企業連合会の会長セオリーとしての任務はこれにて終了だ。
まだまだ、カザキが話していた通り、三神貿易港に根を下ろしたパトリオット・シンジケートの動向が気になる部分ではある。
しかし、俺はどうしても先にこなしたい要件が入ってしまった。
「なあ、エイプリル。レベル、どうなった?」
「それを聞くってことはセオリーも上がったんだね」
「あぁ、ついに59レベルまで上がった。これで中忍頭へのランク昇格試験が受けられる」
そうなのである。とうとう俺とエイプリルはともに忍者ランクにおける中忍の最大レベル59へと到達したのだ。
ここから先は中忍頭へとランクアップしないとレベルが上がらない。経験値自体は蓄積していくので無駄にはならないけれど、それにしたって早く中忍頭になってレベルを上げたいものである。
「よし、これよりエイプリルには自由行動を認める。お互いに中忍頭へとランクアップして再会しよう!」
「了解! それじゃあ、行ってくるねー」
言うが早いか、エイプリルは身体を明滅させながら連続『影跳び』を駆使して目的地へと消えていった。おそらくシャドウハウンドの基地に向かったのだろう。日輪光天宮のお膝元である都市「日光」にもシャドウハウンド日光支部があったはずだ。
さてさて、そうしたら俺の方もランクアップするための試験内容を確認しますか。
前回は試練の滝と呼ばれる滝壺に浮かぶ岩の上で瞑想して、瞑想空間の中で巨大熊と戦って倒すというシンプルな内容だった。果たして、今回はどのような内容だろうか。
『ランクアップクエスト:中忍頭(ヤクザクラン)』
目的:クラン内序列上位75%以内に入る〔達成済〕
ヤクザクランとの敵対クエストを5件以上クリアする〔3/5〕
報酬:中忍頭へのランクアップ
……あぁ、そうか! 俺はもう無所属じゃないんだった。未だに自分がヤクザクランの所属なのだということを忘れてしまう。
それにしても、クラン内の序列で上位75%以内に入る、か。一応、達成しているから問題無いんだけど、不知見組のような三人しか居ないクランだと上位75%って結構難しい試験じゃないか?
電子巻物を表示させ、クランのタブを開く。
クラン名:不知見組
組長:セオリー‐若頭:ホタル
種別:ヤクザクラン
上位組織:甲刃連合
傘下:芝村組‐組長:ホタル
同盟:城山組‐組長:トウゴウ
甲刃重工‐取締役:カザキ
つらつらと現在のクラン内情報が表示されていく。その中で目当てのものを見つけた。クラン内序列である。クランメンバーの表示される順番がそのまま序列となっているようだ。
一番上は俺だ。堂々の序列一位である。多分、組長バフが大幅に掛かっているのだと思われる。
そう思う理由として、序列二位がホタルだからというのがある。彼には若頭を任命しているとはいえ、不知見組への加入は最後だ。にもかかわらず、俺に次いで二位ということは若頭などの役職バフがクラン内の序列に置いては大きな意味を持つのではないかと推測できる。
それから三位がエイプリルで、四位がシュガーミッドナイトだ。思いの外、意外な結果となった。
まさかの頭領シュガーが序列最下位なのである。
まあ、エイプリルが最下位だとシャドウハウンドのランクアップでクラン内の序列75%以上に入っている必要があった時に困るから、むしろ良かったのかもしれないけれど。
いや、待てよ?
エイプリルはシャドウハウンドと不知見組を兼任している。その場合は序列75%以内ってどちらで判定するんだろう。シャドウハウンドでランクアップの試験を受けているということはシャドウハウンド内での序列なのかな。それならどちらにしろ一安心だ。
さて、もう一つがヤクザクランとの敵対クエストを5件以上クリアする、というもの。
現状、3件はクリアしているらしい。これまでの経験を踏まえると、逆嶋でのパトリオット・シンジケートの一件、暗黒アンダー都市の蔵馬組との一件、今回のツールボックスの一件の三つだろうか。詳細は書かれていないので分からないけれど、思い当るのはそれくらいだ。
残りはあと二件、ちゃちゃっと済ませるとしよう。何か良いクエストは無いかな。
ランクアップへの期待に胸を膨らませながら、俺は八百万神社群を後にしたのだった。
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