第14話 「ヤバイなー。とうもろこし食べられちゃうかなー……?」
それからあれやこれやと話は続くようだったが、長くなりそうなので先に失礼させてもらった。
ルルガとミミナも一緒だ。
「これからは、夜警も考えた方がいいかも知れんな。ロキ殿、身の危険を感じるようなら、いつでも私を呼んでくれ。多少なりとも役には立つと自負している」
「ヤバイなー。とうもろこし食べられちゃうかなー……?」
さっきからルルガは、とうもろこしの心配ばかりしている。
でもまあ確かに、害獣にも挙げられるぐらいだから、畑の被害もあったんだろうな。
元の世界でも、人間が最も悪質な害獣だという説もあるぐらいだ。
人がいない田舎で、悠々と農作物を盗っていく輩はどこにでもいるってことか……。
異世界農業も楽じゃないぜ……。
結局、次の日になっても方針は決まらず、とりあえず今までのように二人が見回りを強化することで落ち着いた。
一方で俺と言えば、あんなに間近でコボルドと遭遇したにもかかわらず、まだいまいちピンと来てはいなかった。
……それは何故かと言えばもちろん、あの見た目柴犬の風貌と、一言だけ発した言葉がそうさせたわけだが、何と言ってもここは異世界。
イノシシまで狩ってしまうぐらいだから、警戒するに越したことは無いだろう。
前は武器なんて要らないよ、とか言ったものの、やっぱり何か練習しておいた方がいいのかもしれない……。
とりあえず、見回りに来たいつもの二人に、コボルドの生態を詳しく聞くことにする。
……敵を知り、己を知れば百戦危うからずだ。
何か作物を育てる時も、とりあえずWikipedia先生に教わってから始めたりするタイプです俺は。
異世界Wikipediaが無いのは残念すぎるが、とりあえず話によると、
雑食性で、畑を荒らすこともある
人口が多い
火も使う
一通りの武器は使えるが、質は低い
でも中には強い奴もいる
それほど頭は良くない
洞窟に住む
普通に言葉は通じる
辺りの情報が聞けた。
……ふむ、なかなかいい情報が手に入ったような気がする。
後はこれらを考慮して作戦を立てないとな……。
まさか柵を作ったぐらいじゃ、防げんだろうし。
SECOMでも呼びたい所である。
まあそんなこと今更言ったって仕方ないので、万が一のためにと武器を調達してもらうことにした。
とりあえずは短剣と小さな弓だ。
……つまりはショートソードとショートボウか。
なんかそう呼ぶだけで、ファンタジーな感じになったな。
どうなるかはわからないが、まずはこの二つを練習してみることにする。
……自慢じゃないが、日々の定期タスクは、農家の得意分野である。
毎日、30分間の素振りと、50本の矢を的に向けてノルマとして撃つことにした。
……しかし、これを畑作業の合間にやるのは結構キツイな……。
体力が全然持たん。
一刻も早く、マトモな食事を作らねば……!
小腹が減った時に食べる、セブンイレブンのスイーツも無いし、ああ!なんて日本は恵まれた世界だったんだろう!
……この嘆きを力に変えて、素振りをする俺なのだった。
***
他にも思いついたことがあり、そちらの計画も進めることにしたが、とりあえずは剣と弓だ。
……だが、これは思った以上に大変だということが分かった。むしろ、使い慣れている鍬の方が武器としてはいいかもしれない……。
マジでそんなことを考えるぐらい、剣というものは扱いが難しかった。
この世界の鍛鉄のレベルというものがどれくらいなのかは分からないが、この村にある剣は全て鉄製だった。
この鉄というものは、思った以上に重い。
日本でも模造刀ぐらいなら持ってみたことはあるが、あれですら結構重かったので、切るために作られた刀とは違い、叩き斬るための西洋の直刀はさらに重さは倍増している。
……とてもチャンバラができるような感じではなかった。
……ん?そう言えばこの辺りは熱帯地域なのに、武器は熱帯地域にありがちな曲刀じゃないんだな?
……妙な所でヲタクっぷりを発揮してしまう俺だ。
シャムシールとかちょっと使ってみたかったのに……。
それはともかく。
ショートソードとは言え、まともに戦えるかといえば疑問だった。
空いた時間に、ルルガとミミナに協力してもらい、手合わせなどをしてみたのだが、さすが村で二本の指に入る実力者だけあって、全く太刀打ち出来なかった。
……一体どんな筋肉してるんだ……?
おそらく、肉食獣の遺伝子が混ざってるに違いない。
年頃の女の子にコテンパンにやられてしまったわけだが、最早そんなことぐらいで恥をかくような年齢でもない。
ここは大人しく頼りにすることにしよう。
代わりに俺は後方支援と戦略を立てる参謀役ということで……。
と思ったのも浅はかだった。
弓矢を試してみた所、これもやっぱりさっぱり失敗だった。
……全然思った所に当たりゃしねえ。
なんとなくうろ覚えとラノベで得た日本の弓道のことを思い出して、「残心が大切なんだよ残心が……」などと言い聞かせてみるが、ここでは日本のような和弓では無く、どちらかと言えばアーチェリーのような短弓がメインだった。
なので使い勝手も違う上に、ジャングルのような熱帯雨林では視界の開けた所も少ないため、サッと動けてシュッと撃てるような技術が求められた。
……狙いを定めて一撃必殺!という感じでは無いのだ。
ミミナにコツを聞いてみても、やはり猟をする場合には、追いかけながら何本か矢を当てて弱らせるのがセオリーらしい。
そう言えば、さすがに猟犬を飼っていたりはしないようで、まあそれも彼女たちの卓越した身体能力があれば納得なのだった……。
何にせよ、これでやはり異世界農家である所の俺のチート能力の無さはハッキリしたようで、結論としては結局、地道に練習するしかないな……ということだった。
幸い?……ここにはネトゲを始めとした何の娯楽も無いため、やることと言えばこんなことぐらいしか無いのだ。
後は暇を見て便利そうな道具を自作するぐらいか……。
なんか農家をやるよりも、この知識を活かして商売人をやった方がいい気がしてきた……。
だが、毎回呼ばれてご馳走してもらう食事の時間になると、やはりこの世界での食事を何とかしなければならん!どげんかせんといかん!……と強く思うのだった。
はぁ、マジで出汁が足りない……。
旨味成分が、この世界には圧倒的に足りていないのだった。
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