第13話「わ、わわなんだこの世界!犬も喋るのかよ!」

「わ、わわなんだこの世界!犬も喋るのかよ!」


「おいロキ!そいつは犬じゃない、コボルドだ!」


いきなり少し離れた所から声が飛んでくる。

ルルガの声だった。


と同時に、目の前の柴犬の顔に皺が集まり、視線が鋭くなる。

……一目で分かる、激おこという奴だ。


慌てて俺は、掴んでいた手を放し、一目散にルルガのいる岸へ向かって全力で泳ぎ始めた。

こんなので逃げ切れるかどうかは分からないが、噛みつかれてしまえばアウトだろう。


とにかく後ろも振り向かずに、必死で手足を動かした。


バシャーンッ!


後ろで急に水しぶきの上がる音がした。


「コラーッ!こんなとこまで来やがって!」


「ギャウッ!巫女か!撤収撤収!」


どうやらルルガが、一気に岸から飛び込んで来てくれたらしい。

……さすがけもみみの部族。10mぐらいはありそうなのに、ひとっ飛びでここまで飛んでくるのはさすがだ。


おかげでコボルドは急に退却を始めた。


一度ザブンと水中に沈んだ後、反対側の岸から陸に上がる。

ルルガは俺が居たからか、それ以上深追いしようとはせず、その場からガルルルル……!と睨みを利かせていた。


おかげでコボルドは、そそくさと森の奥へと逃げて行ったのだが、その際にチラッと見た限りでは、岸の上には他にも数匹の仲間が居たようだった……。


「ロキ、大丈夫だったか?」


「あ、ああ……。ありがとう、助かった……よ……!?」


「ん?」


「おわわっ!また裸かよ!」


「だって、慌ててたんだから仕方ないだろー?」


「ま、まあそうだけど……」


急いで俺は後ろを向くと、肩越しにルルガに話し掛ける。

……一体なぜこの場に居たのか?ということについてはこの際、不問にしておくことにしよう……。


「でも、危ない所だったよ、助かった……。向こうに何匹かいたみたいだな」


「あいつらは、大体集団で行動してるからな。一匹なら大したことないんだけど、数が多いから厄介なんだ……」


「あのさ、コボルドってみんなあんな顔なのか?」


「ん?そうだぞ?種族によって違いはあるみたいだけどな」


「そうか……」


「おーい!ロキ殿!ルルガ!大丈夫かー!?」


向こうから、弓矢を持ったミミナが叫んでくる……ってあいつも裸かよ……!

目のやり場に困りながらも、俺はさっきのコボルドのことについて考えるのだった……。




***




何度か話には聞いていたものの、あの水浴び場にまでコボルドたちが現れたのは初めてのことだったらしい。

おかげでその日の夜、急に村の会合が行われることになったらしく、村長のテントに俺も呼ばれることになった。


川から上がって着替えた後、俺はミミナと合流して村長とルルガのいる大きいテントへと向かう。


……ちなみに、さすがにツナギとTシャツだけでは服が足りないので、村にあったアジアの民族衣装っぽい服を借りていた。


どうやら普段着はこのような服をみんな着ているようなのだが、ルルガたちのような動きやすい格好を好む人たちは、革を嘗めした服を着ているようだった。


確かに、狩りをするミミナなども、そちらの方が防御力も5ぐらい高そうな気がするので、革の服を着るのにも納得だ。

……ちなみに、防御力の数値はただの勘で、当社比である。


そんなことを改めて考えているうちに、テントの中へと入る。


中には既に長老を始め、数人の代表者とルルガが揃っていた。

そこへ俺とミミナも加わり、円形になって座る。


さすがアマゾネスのような村だけあって、皆あぐらだったので、俺も習ってあぐらをかく。


程なくして、例のあまり美味しくない料理が運ばれてくるのと同時に、話し合いが始まった。


「……して、コボルドを発見した時の様子を聞かせてもらおうか」


長老が口を開くと、周りの視線が俺の方へ集まる。

……若干のプレッシャーを感じる俺。


それを見かねてか、ルルガが助け船を出してくれた。


「うちらがいつものように水浴びをしてたらだな、コボルドたちがそこにいたらしく、いきなりロキの前に現れたんだ。それをたまたま見たうちが脅かしたら、すぐ逃げて行ったんだがな……」


「ああ、岸の反対側には他にも数匹いたようだった」


そこへミミナも付け加える。


……それにしても、たまたま見かけたってのがちょっと怪しいなぁ……とは思いながらも、そこを今指摘しても仕方ないので、大人しく頷いてることにする。

というか、本当にただそれだけだったので、他に証言しようも無い。


「そうか……ついに川にまで現れたか。いよいよ対策を考えねばならんな」


「ああ、これまではルルガとミミナの腕でなんとかなっておったが、もはや二人にのみ任せておくわけにはいかんかものぅ……」


なにやら深刻そうな顔で話し合っている長老たち。

後で聞いてみた所、なんでもコボルドたちは、これまで森の奥にしか姿を見せなかったようなのだが、それが次第に集落の近くまで出現するようになってきたらしい。


これまでは、ルルガとミミナの二人でなんとかなっていたようなのだが、普段水浴びをするような所にまで近づいてきたとなると、村としても何らかの対策をしなければならないようだ。


……確かに、子供達が水浴びをしている川に奴らが現れたとなると、かなりの問題だろう。


深刻な表情になるのも仕方ないというものだ。


「異世界の御仁。奴はどんな顔をしておった?」


「どんなって言われても……柴犬?まあ……茶色の短い毛をして……」


「ということはやはり、土の部族のようだの。それなら比較的気性は穏やかだ。何とかなるかもしれんの」


専門用語が出てきたようなので、ルルガに聞いてみると、コボルドたちにも種族があるらしく、あの柴犬みたいな奴らは土の部族というらしい。


他にも、獰猛な火の部族、頭のいい闇の部族なんかがいるらしい。

……てことは、他にも色んな顔のコボルドがいるってことか……?


不謹慎ながら、ちょっと楽しみにしてしまった。


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