第3話 チートじゃなくてニートな農家?
「もうすぐだ。頑張れ」
ルルガに連れられて集落へと向かう道中。所々、獣道のような場所を通る中で、俺は幾つかのことを試してみた。
農業をやるようになってから、ゲームはほとんどやらなくなったが、万が一の可能性を考え、なんとなくそれっぽい動作でコマンドウィンドウを出そうとしてみる。
最近流行っていたラノベでは、ゲームの中に入り込んでしまうパターンが流行しているらしい。
サブカル系ニュース配信アプリにて、そうした情報を俺は仕入れていた。
なので、もしかしたら俺もそのパターンに入ってしまったのかと思い、僅かな記憶を手繰り寄せて、それらの物語の中で出てきた、ウィンドウを出す仕草を真似してみたのだ。
……我ながら自分でも何をしているか分からなかったが、目の前を先導して歩く彼女にはもっと分からなかっただろう。
「ヤマダヒロキ。何をしてるんだ?」
そう問いかけられ、俺は慌てて取り繕うように答えた。
「ああ、これは道に迷わないためのおまじないのようなものでな。こうして地形とか木とかを記憶してるんだ」
「ほぉ〜……キミも魔法が使えるんだな。すごいぞヤマダヒロキ」
魔法って言った?
魔法って言った?
この子魔法ってサラッと言った……?
やっぱり異世界説に一票入ってしまったようだ。
俺の脳内株主総会の方針は、7:3で異世界よりになっている。
だが、少数派の現代ジャングル説派が頑としてその意見を曲げようとはしない。
しかし魔法という言葉が出てきたということは、やっぱりあるのか……魔法……。
「ま、魔法って……君は使えるのか?」
「いや、うちは無理だ。限られた条件で、ああやって異世界に行く魔法陣を使うことぐらいしかできんのだ」
「そ、そうか……」
巷で人気だったラノベなどでは、大体こうして異世界に来た主人公は、何でもできるチート状態で俺TUEEEEE!!!みたいな感じになるのがデフォルトっぽいはずなのだが、とりあえず現状の俺はチートどころかニートなんじゃないかぐらいに何もできそうにない。
視界にウィンドウやパラメータが出てくることもなければ、体の動きも普通だし、魔法っぽいものが使える様子もない。
持ってるものと言えば、蒔く予定だった幾つかの種とスマホぐらいか……。
財布は置いてきちゃったけど、日本円が使えるはずもないし、それはとりあえずいいか。
色々考えてるうちに、ルルガが住んでるという集落に着いたようだ。
ジャングルが突然開け、TVなどでよく見た南米の奥地みたいな家屋が幾つか見えてくる。
多分、日本の限界集落のような雰囲気が近いかもしれない。
「おーい、帰ったぞー」
お気楽にそう叫ぶルルガは、どんどん集落の奥へと歩いて行く。
すると、その声が聞こえたのか辺りからワラワラと住民たちが集まってきた。
つい謙虚な日本人の習性か、目が合った人に会釈をしてしまう弱気な俺。
村人たちは、やっぱりルルガと同じようにキツネに似た耳を頭に付けて……って、ん?
「ルルガー!無事に帰ったかー!」
「どうだったどうだった?」
「あれ、男だ!男だよみんなー!」
「ウソ!?ホントだ異世界の男だー!」
急に辺りが騒がしくなってくる。
そして村の広場みたいな所で取り囲まれる俺。
集まってきた人々を見て、猛烈な違和感に襲われる。
それは何故かと言うと……?
「へへへ、みんな。正真正銘の男だぞ!ヤマダヒロキだ、よろしくな!」
何故か誇らしげに告げるルルガ。
それもそのはず。周囲を取り囲んでいる村人たちは、皆『女ばかり』だったのだ!
……あ、いや正確には子供の中には男の子もいた。
皆ルルガと同じように、革をなめして作ったような露出度の高い服装をして、草を編んだサンダルを履いている。
まさしく文化レベルはジャングルの中の部族のような感じだった。
俺は必死で記憶を手繰る。
……あれか。
某海賊マンガで言う女だけの国って奴か?アマゾネスの部落ってことか。
確かに女系家族で作る村は実際にあったらしいし、今でもブラジルにはそんな感じの村があるとかなんとか……。
混乱しそうになる頭を何とか沈めながら、辺りの状況を把握しようと務める。
……ってか無理だ!
なんかドサクサに紛れて体を触ってこようとする子とかいるし、完全に客寄せパンダ状態だ。
中にはもちろん、おばさんとか婆さんみたいなのもいるが、こちとら農村に移住してから、若い女性となんてロクに接点もなかったんだぞ……!
改めて自分の非モテっぷりを思い出し、若干のパニック状態に陥る。
ルルガはそんな俺を見て、シッシッ!と尚も触ろうとする女の子を追い払っていた。
と、そこへ集団の奥から人混みを分けて、杖をついた一人の婆さんが歩み寄ってくる。
「ルルガ、戻ったのか。で、結果はどうだったのじゃ?……その御仁は?」
「あ〜、婆ちゃん。それがその……」
「まさか、お主また……。大体分かった。御仁を連れてうちへ来なさい」
「……」
ポリポリと頭を掻くルルガと、一瞬目つきが鋭くなる婆さん。
そして彼女にそう言い残した後、振り向いてまた戻っていってしまったのだった……。
「あ、あの……?」
「うちの婆ちゃんだ。この村の長老をしてる。ヤマダヒロキ。ちょっと一緒着いてきてくれ」
何だかよく分からないままに、ルルガは婆さんの後をついて行く。
その後を追うように、周囲から好奇の視線を浴びながら、俺もついて行くのだった……。
大丈夫だよな?……火あぶりにされて食われたりしないよな?
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