Shamrock/Alter Ego

水無 睡蓮

Prologue

 フロンティア合衆国メイン州アンドロスコッギン群の田舎街、シュルバンスのはずれ、長らく放置されていたドライブインの跡地の駐車場は、深夜にも関わらず騒然としていた。


 違法物品を扱うブローカー組織に対する連邦捜査局の摘発は、銃弾と魔術の飛び交う戦場の様相を呈した。さらには魔術事件専門の民間顧問権限を得た企業の介入もあり、解決はしたものの、建物を戦場跡よりも無残な有様に成り果てた。


 その駐車場に敷かれた前線本部では、押収された証拠品の見聞が行われていた。


 違法な魔術触媒に、レッドリストに記載された魔獣や動物、行方不明になっていた美術品や、さも本物のように偽装された魔導書のレプリカ、科学的魔術的様々な種類の麻薬――今回の押収品だけで、「ブラックマーケットの商品にどんなものがあるか?」というマニュアルが作れそうなほどであった。


 あまりの多さに鑑識部が文句を言い、先に撤収の準備を進める人質救出チームに半ば本気で悪態をつくほどだった。


 しかし、今はその作業は一時止められ、押収された証拠物件の一つ――厳重な封印の施された、業務用冷蔵庫程もある大型の石棺の開放作業が行われていた。


「中から生命反応はありますね。やべー魔導生命体とかですかね?」


「神話存在ではないだろう。この程度のプロテクトで封印はできん」


 撤収を取りやめた人質救出チームが銃や魔術触媒を構える中、鑑識部は分析のために会話を交わし、開錠のためにそれ以上に早く手を動かしながら封印の除去を進める。


「じゃあ、開けますよ・・・・・・」


「どんなやばいのが出てきても、俺らにを打たないでくれよ」


 やがてプロテクトが解除され、作業に当たっていた二人がゆっくりと扉に手を書けると、人質救出チームは銃や魔術触媒を構えなおす。


 扉が開ききる。中にいたモノはぐらりと倒れ、そのまま地面に伏した。


「これは・・・・・・。いや、この子は・・・・・・」


「神代の系譜か・・・・・? と、とにかく、救急車を!」


 現場が騒然とする。


 倒れ伏したモノ――捜査官が抱きかかえる簡素な衣服を身につけた少女の髪は、普通の毛髪ではなく、意識を失う主と同じく、微睡むように瞼を閉じた、無数の白銀の蛇であった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る