ウチのじいちゃん88歳、アイドルでーす!

荒音 ジャック

ウチのじいちゃん88歳、アイドルでーす!

 僕の名前は乾 巧! 高校2年生、今は教室の席で休み時間をボーっと過ごしていたんだけど、急に廊下が騒がしくなった。


 聞こえてくるのは女子生徒の黄色い声、何事だと思って廊下の方へ視線を向けると、サングラスをかけた白髪ショートヘアの20代ほどのクールなイケメンの男性が「巧! 弁当忘れていたぞ!」と僕に声をかけてきた。


 僕は慌ててその人の下へ向かってお弁当を受け取りに行った。


「メールで届けにこなくていいって言ったのに!」


 僕は男の人にそう言うと「そうは言ってもまたコンビニとかで売ってる菓子パンだろ? 育ち盛りなんだ。ちゃんとした物を食べるようにしろ」と説教して帰っていき、僕は席に戻ると、クラスメイトの女子たちが「ねえ、巧君、あの人って巧君のお兄さんなの?」「いったいどんな関係なの?」「今度紹介して!」「おい抜け駆けしようとするな!」「そもそも巧君ってお兄さんいたっけ?」と、僕に詰め寄ってきた。


 飴玉に群がる蟻のように僕の席に集まる女子生徒たちに、僕は困った顔で先程の男性のことを話した。


「あの人は兄じゃないよ……ウチのじいちゃんだ」


 それを聞いた女子生徒たちは「え?」と目を丸くして硬直し、僕はまあ、そうなるわなと思いながら説明した。


「信じられないとは思うけど、8年ぐらい前に突然、20代ぐらいの姿に若返って、あんな見た目をしているけど、実年齢88歳なんだよね」


 そんな説明を終えて、昼休み……僕は幼馴染の女子生徒、岸波 ミカと屋上でお弁当をつついていると、ミカが「そういえば休み時間に巧のおじいちゃんを廊下で見かけたんだけど忘れ物でもしたの?」と尋ねてきたため、教室での一件を話した。


「お弁当を忘れただけ、じいちゃんはすごく目立つからメールで届けなくていいって言ったのに、届けに来たもんだからクラスの女子たちに質問責めを受けた」


 ちなみに、ミカはウチのじいちゃんのことを知っているため「まあ、知らない人からしてみれば普通のイケメンでしかないからね」と言ってから、若返りが起きてすぐの時に起こった事件を話し始めた。


「小学6年の授業参観の時だっけ? 巧のおじいちゃんが代理で来た時はすごかったよね。他の生徒のお母さんたちがキャーキャー黄色い声上げてたもん」


 僕もその時のことは鮮明に覚えており「担任の先生も「今日来たのは巧君のお兄さんかな?」とか聞いてきたからね。アレを間違えないにようにするにはどうしろと? ってレベルだよ」と当時のことを懐かしむ。


 学校が終わって家に帰って家族で夕飯を食べていた時のこと、お母さんがテレビをつけて歌番組のチャンネルに変えた。


 ちょうど、トップバッターの歌手が歌うところで、なんとそこに映っていたのはグラサンを外してマイクを右手に握ったじいちゃんと、バンドマンの人たちだった。


 そう、じいちゃんはルックスの良さからスカウトを受けて、現役アイドルとして活躍しているのだ!


 しかも、今歌っている曲は最近流行りの曲をカバーしていて、実年齢と同じ人にとっては縁もゆかりもないような曲をハスキーなイケボを歌っている。


「おじいちゃんが歌うこの曲いいな……本家よりこっちの方がいいや」


 食卓でご飯を食べながら僕の妹はそう言って、社会人である僕の姉も「私もおじいちゃんみたいなイケメンのアイドルと結婚したいなぁ」と願望を口に出す。


「そもそも、じいちゃんってどうして流行についていけるんだろうね?」


 僕はそんな疑問を口に出すと、お父さんが「それはお父さんがスマホとSNSを教えたからだよ。おじいちゃんが「お前たちのために流行に遅れないようにしたいから」って頑張って覚えていたからな。言っておくがおじいちゃんのアカウントのフォロワー数凄いことになってるぞ? ここ数年で10万を超えていたからな?」と、とんでもないことを僕たちに教えた。


 翌日の学校にて……放課後、僕は音楽室を借りてボイストレーニングをしていた。そこへ、サブバックを左肩にかけたミカが来て「今日もやってるね!」と声をかけてきた。


僕はミカに「もう少ししたら切り上げるよ!」と言うと、ミカは「次の歌ってみた動画上げるのっていつ?」と尋ねてきた。


 そう、実を言うと僕はおじいちゃんの影響を受けて、動画サイトで歌い手として活動をしている。


 僕はミカに「来月末かな」と答えると、ミカはこんなことを言ってきた。


「にしても中学1年の時は無気力系男子だった巧が歌い手目指したのを知った時はビックリしたけどね。それが今じゃ登録者数1000人のチャンネルを持つ歌い手だもん」


 ミカの言う通り、僕はまだあまり名は知れていない底辺の歌い手だ。きっかけはじいちゃんがアイドルとして活動し始めたからというもので、今じゃじいちゃんを超えることが、僕の目標だ!



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