第5話 青の騎士

「もうこんな時間か」

講義が終わった頃には夕陽が消えかけていた。

思っていた以上に充実した講義だった。

魔術について色々調べようと考えていたところ、エリザベスに呼び止められた。何か話したいことがあるようだ。

エリザベスと共にバレないように四季の庭に忍び込む。昼間には気づかなかったが日が傾くと、すべての庭園がライトアップされるらしい。これはこれで神秘度が生まれてキレイだ。

噴水の淵にハンカチを敷き腰を下ろす。今日はエリザベスもハンカチを持参していたようだ。

「で、はなしとは?」

エリザベスを見る。緊張しているのか、上目遣いにチラリと私を見て、すぐに手元へ目を下ろした。

「・・・皇女様は、その、青の騎士様を、ご存知ですか?」

絞り出すように次第に声が消えていく。

「青の騎士?」

聞いたことがない。そもそも離宮では大戦での英雄のうわさも戦歴も全く入ってこなかった。大戦が大陸統一として終戦を迎えてからも私の耳に入ったのはその半年後だった。それも又聞きだった。

「・・・青の騎士様は、小柄な騎士様で、しかし、すごいお強いとのうわさがありました」

徐々に声が明るくなる。表情も明るく緊張が晴れていくのが見てわかった。

「大戦がはじまって何人もの大将を討ち取ったらしいのです」

と、いうよりかこの顔は、憧れかな?

「4ある国を2年で統一できたのは、青の騎士様の功績が大きいのです」

2年で統一は確かに異常だ。そんなこと、いくら英雄がいたとしても国軍全体が優秀でなければ成しえないはずだ。この国はそこまで強いのか、凄いな。

ただただ感心している間も、エリザベスの青の騎士様語りは止まらない。

「エリザベスは、青の騎士様を想い慕っているのですね」

彼女の顔が徐々に赤くなるのが暗がりでもわかった。

「い、いえっわたしは、ただ・・・労いたいのです」

エリザベスは再び視線を手元に戻す。

「私は大戦中あろうことか国民のことよりも自分のことばかりで・・・日に日に不安が募るばかりでした」

もし敗戦国になればこの宮殿も焼き払われるかもしれない、王族は晒し首にされるのが歴史上、弱者の常だ。

「そんな中、わたしの希望だったのが青の騎士様でした」

視線は下げたまま、優しい眼差しをしていた。

「ですから、その・・・」

何となくわかった。エリザベスが私に聞かせたかった本当の気持ちと願いを。

私はエリザベスの視線の先にある手を包むように両手でかぶせる。

その彼女の瞳が私を見上げる。

「会いに行こうか、青の騎士に」

微笑んだエリザベスの碧眼が涙で光った。













































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