第1話 忘れられていた皇女

「サリ様、お時間ですよ」

早朝から侍女長にたたき起こされ、何時間もかけて入念に晴れ舞台のための準備をしている。普段は適当に梳かしている鏡のような色のない変わった毛髪をこれでもかと芸術的に侍女長がまとめている。すでに終えた爪のお手入れとメイクの担当をしていた侍女たちと衣装担当だったであろう侍女たちが私の後ろでパタパタと動きながら何やら争いを起こしている。

「サリ様にはこちらの淡い赤がお似合いです!」

「何を言ってるの?こちらのタイトな青のドレスです!」

元気すぎる侍女たちを横目にこれからの祭典に億劫さを隠し切れない。

今まで全く自身の娘に興味を示さなかった陛下が急に私の12歳の誕生日を祝うと言い出したからだ。

この12年何の苦労もなく呆けて過ごしてきた私の姿を呆れ諦めながらも世話をしてくれていた侍女長が、そんな陛下の言葉に痛く感激し張り切りだし、それに感化された侍女たちも気合を入れだしたのだ。

また、これまで離宮で完全放置だったのが、これまた急に王宮本殿での生活を命じてきた。

「気でも狂ったか、あの爺」

声に出さず愚痴をこぼす。

なんて言ったって、私、サリの存在は王宮内でもほとんど知る者がいない。生まれたことすら国民には知らされていない。

そこまでまるで頑なに隠した私の存在をなぜ今になって公に晒すのか。謎だらけだ。

「お嬢様準備が整いました」

結局無難に白のドレスにした。私の反射する髪色で国民にドレスは映らないと思う。

城外から歓声が響く。その歓声を聴きながら、一段一段舞台への階段を上がる。呼吸がしにくいくらい、ドレスの裾を少し上げる指が震える程には緊張が高まっていた。

のと同時に、国王陛下の思惑が私にはわからなかった。



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