頼むから、この王太子の座から退かせてくれ。

江戸川ばた散歩

第1話

「私、王太子テディウス・スレントスはここで告げたい。アレーリヤ・リスタス侯爵令嬢との婚約破棄を!」


 何を、とばかりにまず父上、国王陛下が俺の方を見た。

 母上の王妃陛下も同様だ。

 一体何をここで、と。

 そして何より目の前のアレーリヤ。

 唖然とした顔で俺を見据えている。

 俺は控えさせていた女を呼び寄せた。


「そしてミカエユ男爵令嬢ルタンナとの婚約を」

「認められるか!」


 父の声が飛ぶ。

 そうだな。それはよく判っている。

 俺だってそこまで馬鹿じゃない。


「アレーリヤの、リスタス侯爵令嬢の何処が不満だというのか?! 廃嫡を覚悟してのことだな?」

「はい父上。無論覚悟はできております。アレーリヤは素晴らしい女性です。俺などには勿体無い。そう、そもそも俺は王太子として不適格です」

「兄上! そんな…… そんなぶ、不細工な、何処から見ても…… アレーリヤ嬢に失礼ではないですか!」

「それに兄上は勉学も剣術も優秀で…… 僕等は絶対に敵わないというのに、それで不適格というんじゃ、一体僕等はどうすればいいんですか?」


 弟達は口々に言う。

 ああそうだな、俺はがんばって学業も剣術も、その他王となるための勉強はがんばって入れてきた。


「お兄様、アレーリヤ嬢が可哀想です! いくら何でも、その…… その女と引き比べられて自分が女として下だと思われるのでは……」

「いえ、もし心根の良い方というなら、でも男爵令嬢など……」


 妹達も。

 彼女達はアレーリヤと仲が良い。

 だからこそ、俺にとって一番の女は「その様に」しか見えないのだろう。

 おそらく彼女達から見ると、俺の連れてきたルクレナは不器量で、身体つきも決して豊かではなく、本当の歳を聞いたら驚かれるくらいだろう。

 それはたぶん、客観的に見ればそうだろう。

 だがそれが、俺にしたら大切なことだったのだ。

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