百合と一万円札

野口マッハ剛(ごう)

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 ここに少女、と言っても高校生なわけだが、二人は一万円札一枚をじっと見つめている。黒髪の少女は表情が表には出ていない。金髪の少女はニヤニヤしているわけで。これは二人の高校生少女が一万円札を目の前にして静かな心理戦をこれからするのである。

「ねえねえ? この一万円、二人で分けようよ」

 金髪の少女が相変わらずニヤニヤしながらそう言った。

 黒髪の少女は一万円札を無言で手に取り。

「ほら、こうしてほしいんでしょ?」

 と、一万円札一枚で金髪の少女のほほを撫でる。

「へえ、貴女がそういう人だとはね?」

「ほら、ほしいの?」

 黒髪の少女は金髪の少女を挑発する。

 一万円札一枚の二人の高校生少女によるやり取り。黒髪の少女は一万円札をその吸い付きたくなるような唇ではさむ。金髪の少女はそれを見て、黒髪の少女のほほを手で撫でる。二人の距離が近付くと共にお互いの心臓の音色が聞こえてくるようだ。

「その一万円と貴女がほしい」

「ふふ」

 黒髪の少女と金髪の少女がお互いを見つめあって、その甘そうな唇をお互いに近付けていった。

「私といったい、どうするつもり?」

 黒髪の少女のとろけた言葉。

「全てをこれから奪い去るつもり」

 金髪の少女は言葉に続けて黒髪の少女を押し倒した。二人は一万円札を撫でる。

 ああ、これは芸術である。

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百合と一万円札 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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