ネバーエンディングエスケープ

@ns_ky_20151225

ネバーエンディングエスケープ

 とうとうヒロシがやられた。次元加速重粒子砲によって体を構成する格子力場すら破壊され、もう復活の望みはない。だが、奴は勇敢だった。俺が逃げられるように自らをエネルギーと化し、十光年にわたって拡がった追跡艦隊を無力化した。

 おかげで数日は余裕ができた。それで充分だ。準備を整えるわたしの脳裏に一緒に戦ってきたほかの仲間の顔が浮かぶ。ノリオ、マサル、タカカズ、そしてサトミ。

 私とともに二乗米寿を迎えたサトミ。昨日のように思い出す。そっと抱き寄せると頬を赤らめた。その輝きを。


 俺たち五人組は銀河連邦でも名の知れたお尋ね者だった。ほぼ一万年の間銀河を逃げ回り、追跡艦隊を欺きつつ、しかし受給資格は失わなかった伝説の五人だ。

 だが、連邦の追跡艦隊も手ごわかった。ほんの少しの油断やミスによって仲間が減っていった。用心深さなら私以上のヒロシもやられた。いや、俺のミスだ。ヒロシはかばってくれたんだ。

 実はヒロシの気持には気づいていた。もうちょっとで十倍メトシェラに手が届く年齢なのに、なぜ俺のような若造が気に入ったのかわからない。だけど、俺にはサトミがいたんだ。だからヒロシを拒んでしまった。

 いや、もういい。かれら四人は完全にこの宇宙から消えた。今や私だけだ。連邦の年金受給資格を持ったまま、充分長生きして元を取っているのは。

 連邦政府は年金財政の負担に苦しんでいた。しかし、年金のルールは変えられなかった。そんなことをしたら連邦市民すべてが暴動を起こし、政府は一夜で倒れるだろう。

 そこで奴らは、掛け金の元を取ってなお長生きしている老人を暗殺することで財政の健全化を図った。だから俺たちは逃げ回った。もちろん、年金受給資格を失わないよう、銀河の外やほかの次元にはいかないし、時間移動もしない。銀河外は連邦法が及ばないため、わずかでも外に出たら市民権を放棄したと見なされ、受給資格は停止する。ほかの次元や時間を移動することは受給する主体の連続性を損なうので同様に市民権と資格を失う。なお、暗殺者が追跡中に無力化することがあるが、これについてはたまたまである、としておく。

 つまり、これは逃亡だけの鬼ごっこだ。捕まれば死。報酬は年金。幸いにして銀河連邦は高度な福祉で知られている。年金は年齢に応じてスライドし、充分な額が支払われる。そのせいで財政が危ういが、そこは俺のせいじゃない。


 ところで、あんた、かくまってくれてありがとうよ。それと俺の話を聞いてくれて。でももう行くよ。あんたもあと少しで元を取る年齢超えるんだろ? 受給資格を放棄するか、逃げ回る人生を選ぶか決めなきゃな。

 もちろん、俺なら元を取る人生をお勧めする。


 それに、この鬼ごっこ、本音をいうとものすごく楽しいんだぜ。


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