尼ヶ坂病院殺人事件

羽弦トリス

第1話予感

その日は、冬にしては暖かい日であった。

しかし、僕は昨夜から熱が下がらず、部下の川崎に電話した。

「もしもし、黒井川だけど今日は午前中病院へ行ってくる。そうそう、単なる風邪だから。たぶん。あのさ、小早川の取り調べ午後にしてくれる?うん、うん。お願いね」

僕の名は黒井川智弘。愛知県警の強行犯係。

47歳警部である。キャリアではなく、現場の叩き上げ。

タクシーで病院へ向かった。


尼ヶ坂病院


内科を受診した。

医師は平坂圭吾。白衣の胸のネームプレートで分かった。

「黒井川さん。一応、インフルエンザの検査もしますから」

「お願い致します」

僕は処置室で鼻の奥に綿棒みたいなモノを突っ込まれた。

そこに、若い医師が近付いて来た。

「もしかして、黒井川警部?」

僕は彼の顔を覚えている。

「やぁ、ワトソン君。何、君は内科なの?」

「まぁ~、そんなもんです」


この若い医師は戸川達也と言って、長野での事件の捜査協力してもらったのだ。だから、ホームズの相方のワトソンに似ている関係なので、戸川をワトソンと呼んでいるのだ。

この病院は4階建てであり、最近改装して清潔感漂う内装である。

「黒井川さん、どうぞ」

僕は再び診察室へ戻った。

「インフルエンザは陰性でした。解熱剤お渡しします。ボルタレンですが、錠剤がいいですか?それとも、座薬?」

僕はイボ痔なので、座薬は凶器だ。

「じゃ、錠剤で」

「はい、分かりました」

医師の平坂はにっこりと笑った。

「ワトソン君またな」

「はい、お大事に……」


夜の10時。平坂はレントゲンの写真を見ていた。今日来た患者の肺の写真だ。

間違いない、肺炎だ。だが、患者は高齢者。

非常に厳しい容体である。今夜は平坂は当直であった。

平坂は腕を組み、考え込んでいた。

その時だ!


ドゴッ!


「ギャッ!」

平坂は布で巻いたスパナで後頭部を殴られた!

平坂は犯人の顔を見た。

「お、お前!何故こんな事をす、するんだ!」


ゴツッ!バキッ!


平坂は頭部を幾度も殴られ絶命した。

犯人は死体を引きずり、非常ドアを開きそこから、死体を投げ捨てた。

そして、平坂が使用しているパソコンで遺書を作成した。スパナに布を巻いていたのは、血液が飛び散らないからだ。

犯人はその場を立ち去った。


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