〜アンティオンライフ〜

アリエッティ

第1話 はまっちゃいました!

 油断した。ふと余所見をした隙にまさか、目を疑ったが現実だ。


 「..嘘でしょ?」


 私は、アリジゴクにはまったようだ。


「すっぽりだよ..どんどん吸い込まれてく。

どうしよ、このまま喰べられちゃうのかな?」

漏斗状の渦に呑まれ、中心には主がいる

このまま吸い込まれ続ければ確実に餌食だ。


「キシャー!」「うわ、こわっ!」

口をあんぐりと開けて待っている、容赦は無い。当たり前だ、捕食対象なのだから。


「あーあ、もうダメだ..もう終わりだー。」

諦め掛けたその時、渦の中から手が伸びて何かが身体を引っ張り上げる。


「え!? 何なにッ!?」

アリジゴクの元へ行く前に、渦の奥に誘われる。辿り着いた空間は小さな部屋のようになっており、幾つかの人々がそこに住んでいるようだった。


「危なかったね、名前は?」


「えっと...シズクです。」

名を名乗りぺこりと小さく頭を下げると、群れを率いた先頭に立つ男が笑顔を向ける。


「シズクか、俺はタツキだ!

よろしくな。」

掌を差し出して来た、握手をしろという合図だろう。少し戸惑いつつ手を出すと、迎え入れるように強く握り返した。


「ここはどこ?

あなた達は何をしているの」


「俺たちもお前と一緒だ、落ちたんだよ。」


「…え?」


「わかってんだろ、アリジゴクだよ。

ここにいる連中は皆そこへ落ちた奴らだよ」

集団の中の一人が大きな手振りで伝える。


「なんでこんな所に部屋が..外へ出ないの?」


「出れるならとっくにやってるさ、何をやってもダメだったんだ。だからここにいる」


「‥どういう事?」

まるで意味が分からない、何故部屋を作ってまでとどまっているのか。幾ら出る術が無いといえど、途中で考えるのを辞めてしまったか


「簡単な話だ。

〝どうせ外へ出れないならば中に棲む〟

そういう選択をしてみたんだ」


「.....嘘でしょ..?」

住めば都の言葉にならい、新居を整えてみた。

慣れてしまえばどこも故郷に生まれ変わる


「それほど悪くも無いぜ、食糧だってほら!」

小太りの中年が流れる砂の滝に手を突っ込む。

暫くそうして手を抜くと、腕には大きなアリが絡まっていた。


「ひぃっ!」


「若いな、オレたちも始めはそうだった。

だけど今ではな....ふんっ!」

アリの頭と胴体をへし折り分離させ、首の断面に歯を突き立てかぶり突く。


「がふっ..ばくっ...うん、うまいな!

こうして平気でかじるくらいに違和感がない」


「アリは貴重な栄養源だからねー!」


「皆で仲良く分けて食べましょうね。」

一匹の大きなアリを囲んで人々が団らんする

これがこの場所では普通の日常らしい。


「……うえっ。」


「はじめの頃は火を通そう、時間は掛かるが我慢してくれ。そっちの方が食べやすくなる」


「いや、まぁ....はい。」

普通にただ〝食べたくない〟のだが、強く気を遣われている為もう言い出せそうにない。


「ホントに食べるの?

..ていうか、なんでこんなに大きいの。」

砂の中に入ると捕食サイズになるのかアリがかなり壮大なスケールに変わる。多分こちら側が小さくなっているのだろう....何故だ?


「まぁ大丈夫だ、直ぐに慣れるよ!」


「はぁ..」

不安で不安で仕方ない。


(私、ここにいつか慣れさせられるの?)

自分の中の常識が大きく変えられてしまう、この小さな砂渦部屋の中できっと。



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