今日、俺はライオンとして死んでいく
緑のキツネ
第1話 儀式の始まり
――トランス村――
僕が住んでいる小さな村だ。人口は50人、
僕の同い年は僕を含めて5人しかいない。
この村では、10歳から成人という扱いを受ける。しかし、本当の成人になるためにはある儀式を行わなければならない。
それが
これをクリアしたものだけが、
成人としてこの村で過ごすことができる。
明後日、僕は10歳になる。
いよいよ動物変化の儀式が始まるのだ。
兄はこの動物変化の儀式を5年で終わらせたようだが、近所のおばあさんは20年かかったと
聞いたことがある。何年かかるかわからない。
もしかしたら50年かかるかもしれないし……。
そもそも僕はこの儀式についてあまり
調べたことがなかった。
つい最近までどの村でも行われているものだと思っていた。お母さんに
「この儀式はこの村だけよ」
と言われたとき目玉が飛び出るくらい驚いた。
もっとこの儀式について調べないといけない。
そう思い、図書館へ向かった。
この村には図書館は1つしかない。
さらに不便なことにこの図書館には2種類の本しかない。動物の図鑑とこの村の歴史が書かれた本だ。動物の図鑑はこの儀式で何になってもいいように500回ぐらいは読んだ。
そのおかげでほとんど暗唱することができた。
いよいよ明後日。暗唱できているか不安になり、最期にもう1回読もうと図鑑を開いた。
ペンギンのページだけボロボロになっていた。
「またここに来たのか」
聞きなれた声が入り口から聞こえてきた。
この図書館の管理人兼今の村長だ。
「最後にもう1度読みたくなって」
「明後日からだろ?がんばれよ」
「はい」
村長と僕はこの図書館で毎日会っていた。
その度にくだらない話で盛り上がっていた。
もうできないと思うと……。
「なんで泣いてるの?」
そう言われて初めて気が付いた。
僕の目に涙が出ていたことに。
「もう村長と会えない……」
「何言ってるんだよ!!君の儀式が何年かかろうとも私は君ともう一度会えるまで
死なないよ」
「本当?」
「約束しよう。私は君が帰ってくるまで生き続けると」
「うん」
僕の小さな手を村長の大きな手が包んでくれた。
「じゃあ、君の家で待ってるよ。早く戻ってくるんだよ」
村長はドアを開けて帰っていった。
絶対に早くこの儀式を終わらせないと。
でも自分は何になるのかな。
きっとランダムで決まると思うけど……。
自分はいったい何になるのか。どんな生活を送るのか。妄想を膨らましながら図鑑を読み進めた。図鑑をすべて読み終わり時計を見ると17時30分となっていた。
ここに来たのが13時なのに……。
時の速さを改めて感じた。
プルルル
ポケットの中にあった携帯電話が鳴り響いた。
お母さんからだった。
「もしもし、」
「もしもし、
あと30分で始まるよ」
「わかった。すぐに戻るよ」
お母さんから今日は18時には帰ってこいと言われていたのを今、思い出した。
でも何をするかは聞かされていない。
図鑑を閉じようとしたとき、1枚の紙が地面に落ちているのに気が付いた。
きっと村長が落としていったのかな。
見てもいいのか。迷いながらもその紙を開いてみた。そこにはトランス村の掟が書かれていた。
1.この村では10歳を成人とみなす。
2.成人になるために動物変化の儀式を行う
3.動物変化は5年おきに変わり、目の前に神様が現れた時、この儀式は終了する。
4.この儀式はある目的を達成することで終わることができる。
5.なりたい動物は自分で選ぶことができる。
6.動物変化の2日前に食事会を行い、なりたい動物の肉を食べること。
7.動物変化の1日前に前夜祭を行うこと。
なりたい動物は自分で決める……。
ランダムじゃないんだ。
でも急に言われてもなりたいものなんて……。
今日は動物変化の2日前ということは……もう決まっているのか。
その紙をポケットに入れて家に向かって走り出した。空はまだ少し明るい中、自分の家は眩しいくらいに光っていた。
中に入ると20人くらいの大人が楽しく騒いでいた。
「遅ぇよ!!」
兄が険しい表情で僕をにらんできた。
時計は18時20分となっていた。
兄も動物変化の儀式を行った。
長い人で50年間、この儀式が続く人もいる中、5年で帰ってきたため、
村長は感銘を受けて、次期村長の座に就くことが決まっている。
僕はそんな兄に憧れを抱いていた。
僕も5年で終わらせてやる!!
「おい、早く座れよ!!」
兄に言われて席に座った。
そこに大きな肉が置いてあった。
その肉を見た瞬間、僕はあの掟を思い出した。
5.動物変化の2日前に食事会を行い、なりたい動物の肉を食べること。
これが……僕のなりたい動物の肉。
でも自分は何になりたいんだろう。
そんなこと言ったことあるかな?
僕は声を震わせながら、お母さんに聞いた。
「この肉、何?」
「やっぱりあの掟を見たのね……。
昔からずっと好きだったでしょ。あなたのなりたい動物は私が1番知っているわ。
これはあなたがなりたい動物よ。当ててみなさい」
僕がなりたい動物……。
携帯電話のキーホルダーはペンギンだった。
そうだ。僕は昔、ペンギンが好きだったんだ。
何回も水族館に行って……。
「ペンギン?」
「そうよ。あなたは明後日、ペンギンになるのよ。私と同じように……」
この肉を食べるのが少し怖くなった。
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