苦虫行進曲

ボーディング秋山

第1話おれはむかしさあ

「おれはむかしさあ、貧乏だったんだよ」

「そうなの。苦労してそうだものね」

「苦労なんてそんな。まあとにかく腹が減って仕方なくて、パン屋で食いもん盗んでたんだよ」


「毎日びくびくしてたなあ」

「囮役のやつと一緒に飯食ってた」

「褒められたことじゃないけどさ…それから別の場所で捕まって、色々あって真っ当に生きようって今まで工場で働いてんだ」

「あいつ元気してるかなあ」


「あたしの家はパン屋だったんだけど、万引きがよく起きてね」

「一人の子供が万引きしたことがきっかけでね」

「あの店なら防犯が甘いからって」

「あたしもね?学校帰ってから、見張りとかしてたんだ」


「宿題嫌いだし、さっさと終わらせたいのに、店の手伝いで時間潰れてね?」

「母さんは収入が少なくなって毎日苛々してて、父さんも顔色どんどん悪くなって」

「パンの味が分からなくなったんだって」

「で、お金も無いし、土地代も払えないから首つって死んじゃった」


「父さん、悪くないのにどうして死ななきゃいけなかったんだろうね?」

「なんであたしは、宿題する暇もなくて、毎日監視してたんだろうね?」


「あんたは生きてるのに、なんでうちの家は滅茶苦茶なんだろうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

苦虫行進曲 ボーディング秋山 @misaosi_de

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ