第24話 不安
最近街の皆の顔が明るくなった気がする。
裁判長を殺害した事は暗く、衝撃的な事件として報道されたが、そこに住む殆どの人々にとって吉報として捉えられたらしい。
実際に殺した私も報われるというものだ。
晴れ渡る青空の下、久々の心地良い休日に胸を弾ませているとふとこんな声が聞こえてきた。
否、聞こえてしまった。
「・・・するとかほんとアイツ最悪だよな」
「分かるわー。けど、お前も大概じゃん?」
「そりゃそうだわ」
悪が、いる。
人に最悪だと思われる程の悪が。
悪と同じような事をするという悪が。
裁かねば。
駆除しなければ。
猛火の様な衝動が私を襲った。
私は慌ててその場から走り去る。
息も絶え絶えになる程走るとあの青年達に対する殺意も収まった。
『何故逃げた?』
彼らに罪は無いからだ。
私の答えに内なる私が失笑する。
『いいや。彼らは悪であり、私達が裁くべき対象だ』
なに?
『何を不思議に思っている。我々は悪を断ずる者だろう?』
そうだが、彼らはまだ犯罪は犯してしなかった。
『・・・あぁ、なるほど。そしたら既に我々は司法を通さずに3人断罪しているが、それはその基準で言えば悪ではないか?』
それはそうだが・・・
『違う、だろう?我々は絶対の正義なのだ。我々が断ずるのは常に悪であり、我々が悪とした者は全て悪。我々は司法の力では追いつけない悪を断ずる救世主なのだよ』
その時、私の根底にある使命感の様なものが呼び覚まされている、そんな感じがした。
「・・・そうだ。私は悪を根絶しこの国を、世界を救済するのだ」
『目に見える悪だけでは駄目だ。周りを悪へと変える隠れた悪も裁かねば』
私は薄暗い路地で一人呟き、覚悟を決めた。
『「私達は正義。私達は絶対の法。その道拒む者あればそれもまた悪なり」』
私の体は黒のコートと仮面に包まれ、手には槌とも斧ともとれる不思議な形状の武器が握られていた。
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目覚めると自らの頬に涙が流れている事に気がつく。
「・・・今日もか」
最近見ることの多くなった"革命の夢"。
見る度により鮮明に、より現実味を帯びて訪れるその夢を見るとよく内容を覚えて無いにしても涙を流してしまう。
ふと窓の外を眺める。
眼下に広がる見慣れた王都の街並み。
大丈夫。この街には一騎当千とも言える霊契術師が沢山いる。
この家だってお父様とミヤが居れば大事は無いだろうし、何よりあのキャトルが契約者である自分を革命の様な絶対に覆せない状況に置く訳が無い。
「大丈夫、大丈夫・・・」
私は私を励ましながら朝支度を終わらせた。
今日もあの夢とは似ても似つかない日常が始まる。
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時折人を助け路銀を稼ぎながら街道を行く。
これは以前と変わらないのだが、俺の旅は仲間も出来て以前より賑やかになっていた。
彼女の名はリンダと言うらしい。
初対面がアレだったので意外だったのだが、こうして旅をしてみるととても良い子だと思う。
彼女の長い耳は普段は普通の人のものに変わっていて、見た人がどうこうというのは無かった。
ただリンダも里に籠もっていたからか常識知らずな部分もあるようで、常識知らず二人の旅となってしまったが、そこらへんはゼービスに助けて貰いながら俺達は順調に進む。
ニルヘムという国の国境を跨ぎ、最初の街に辿り着いた時ふと違和感がした。
「なんか元気がないですね」
「そうだな」
活気が無い訳では無く、市場も他の街同様に賑わっているのだが、皆どこか覇気の無い顔をしているのだ。
かと言って気になるというだけの事、俺達は今晩の宿を求めて歩いた。
外から夜の喧騒とはまた違う音が聞こえてくる。
俺は目を覚ますと外を観察した。
一人の大声とそれに呼応する雄叫び。
何かの決起集会でも起こっているのかと目を向けると老若男女様々な人達が群がっていた。
「霊契術師優遇反対!」
「「「「「「反対っ!」」」」」」
「俺達にももっと自由をっ!」
「「「「「「自由をっ!」」」」」」
「もう直ぐ俺達の仲間が来るっ!その時合流してくれるかっ!」
「「「「「「おぉぉっ!!!」」」」」」
この国では革命でも起こるのだろうか。
集まっている人々はどこか殺気立っていて危うさの様なものを感じる。
・・・この街からは早めに離れよう。
俺はそう胸に決め再び布団に潜り込んだ。
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霊契術基礎の講義中。
私は心地良い陽射しに思わず思わず眠りに落ちた。
どうにも理論的な事は苦手だ。
個人的に霊契術は使えてれば良いと思うのだが、他の人にとってはそうでも無いらしい。
「ミーフゥル!ミヤ=フォン=ミーフゥル!」
「あ痛」
先生に本の背で叩かれてしまった。
教室にどっと笑いが起きる。
「静粛に。それでここの説明の続きだが・・・もう時間になってしまうな。今回の内容の復習と次回の予習を忘れないように」
先生が教室を去ると同時に鐘が鳴った。
次の授業の準備をしようと席を立つと、第3王子が話かけてきた。
「やぁ、ミヤ。だいぶ気持ちよさそうに寝ていたようだが、大丈夫なのかい?」
「・・・第3王子殿下」
私の反応を見て第3王子は肩を竦める。
「ヒューズで良いと言っているのに。俺達は学友だろう?」
それはそれとしてと第3王子は仕切り直す。
「今回の範囲を教えて上げるから今日俺の別邸に来ないか?」
「お断りします。勉強は姉さんに教えて貰いますので」
「つれないな」
「えぇ。私はつまらない女ですとも」
これ以上は時間を無駄にすると思い、私は早々に次の授業のある実習場へ向かった。
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なんて女なのかしらと私は歯を食いしばった。
少し先を歩くミヤ=フォン=ミーフゥルを睨む。
女性にしては長身な背丈に、引き締まったシルエット、短く切り揃えた髪が妙に似合う女だ。
ミーフゥルの才女と呼ばれる程の霊契術のセンスと霊力総量はAクラスでもピカイチで、授業中に寝るという悪癖がある癖に第3王子であるヒューズ様に目をかけられている、なんともけしからん奴。
私なんてどんなにアピールしてもヒューズ様に気にかけてもらえないと言うのに。
実習場からの帰り道彼女を呼び止めると彼女は面倒くさそうにしながらも立ち止まった。
「何?」
小柄な私と比べるとまるで人と木だが、そこで萎縮する私では無い。
「あなた、ヒューズ様のお誘いを断るなんて失礼では無くって?」
「・・・うーん、そうは思わないけど気を悪くしたなら謝るよ。それじゃ、少し急ぐ用があるから」
「ちょ、ちょっとお待ちなさいなっ!」
スタスタと去って行ってしまう彼女。
ヒューズ様はあの女のどこが良いのかつくづく分からなくなった。
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お昼はユル君に誘われて一緒に食べる事になった。
やっぱり彼はどこまでも真っ直ぐだ。
父親のような騎士爵になる事を本気で夢見て愚直に走っている。
権力と血筋を笠に着て迫ってくるどっかの王子とは大違いだ。
「ミヤさん、また次の実習で相手になってくれませんか?」
「いいよ。ユル君との模擬戦はこっちにとっても力になる」
私はこの学院で始めて友と呼べる存在に出会えたようなそんな感じがした。
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