ただし、”人間で言えば”、だ。

破死竜

一人と一匹の話

 人間の子供は、私の前に座っていた。

 「あの、こんにちは・・・・・・」

 どうやら、男の子らしい。

 「はじめまして、小母さん」

 はじめまして。私は、今年、88歳になるのだよ。

 「じゃあ、小母さんは、お婆さんだね?」

 いいや、人間の子よ、そうではない。

 「でも、ボクのお祖母ちゃんも同じくらいの齢だよ?」

 それはな、人間の坊や、お前の祖母は、人間だからだ。

 「小母さんは、人間じゃないの?」

 ああ、その通りだよ、坊や。

 「でも、だいたい、普通の人間に見えるよ?」

 ”だいたい”は、余計だ。

 「ごめんなさい」

 今の私は、人間の姿に化けているのだ。

 ・・・・・・少しばかり”普通”ではないのかもしれんがな。

 「えっと、人間には見えるよ。

 ただ、あんまり、普通じゃないってだけで」

 ふん、子供にしては、なかなか、難しい言い回しを使いおる。

 「小母さんも、人間じゃないにしては、人間の言葉を話すの、上手いと思うよ」

 あのなぁ、坊や。そもそも、人間に言葉を教えたのは、私たちの種族なのだぞ?

 「ええ、そうなんだ?」

 うむ。であるから、人間が使っている言葉を、上手く話せることは当然なのだよ。

 「へー、全然知らなかったや」

 まあ、まだ子供なのだから、仕方あるまい。

 「でも、大人になる前に、色々、知りたいよ、小母さんたちのことも」

 よい心がけだ。ならば、他のことも、教えてやらねばなるまい。

 「よろしくお願いします、小母さん」

 いい返事だ。では、まず、この家から案内してやるとするか。


 そうして、私は、立ち上がった。

 「どっこいしょ、っと」

 「・・・・・・やっぱり、小母さんもお婆さんだよ」



 おしまい

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ただし、”人間で言えば”、だ。 破死竜 @hashiryu

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