第18話

「私は記録者なんだ」


 微笑む由良の口から、竜馬たちを戸惑わせる言葉がまた飛び出した。


「裏歴史に関する様々な記録を、記憶として代々受け継いできた家の人間だ」

「記憶として? 頭のなかにすべて入ってるんですか? 本や書類の形で残しているわけではなく?」


 驚いて確かめる一巳に、由良は頷く。


「ウチはご先祖様にも奇人変人と陰口を叩かれる人間が多くてね。趣味も兼ねて大昔から『アトランティス』みたいな怪しげな読み物を、面白がって出してきた。そういう家系だから、記録する役割を与えられたのかもしれないね」


 由良圭一は、雇われ編集長ではなかった。『やおよろず出版』のオーナー社長であり、この洋館は彼の自宅でもあるのだ。


「役割はもうひとつある。こうしてプレイヤーに選ばれた人間の質問に答えるのも、私の仕事だ。相手チームにも私と同じ務めを果たす者がいるはずだよ」


 姫野がハイと手を挙げた。

「由良さんには、何か特別な力はないんですか?」

 さっきとは違い、好奇心で目を輝かせている。

「記録者だからというのもあると思う。記憶力がとてもいいんだ」

 彼はまた、髪の上から隠れた左目に触れた。


「こっちの目で見たものなら、一瞬で記憶できる。どんなに分厚い本もパラパラ漫画のようにページをめくっただけで、全部頭に入る」


 竜馬はついさっき由良が考え込む時に見せた、何やら意味深な仕種を思い出していた。あれは能力を宿した片目に意識を集めて、頭につまった膨大な記録を掘り起こしていたのだろう。そうやって、疑問の答えを探していた。


「そんな物識りなあなたが、俺たちを駒に選んだ大いなる存在とやらが何なのか、知らないとは思えません」


 一巳は攻撃の手を緩めなかった。


「知らないのは本当だ。記録者であっても知る必要がないから、教えられていないんだろう。でも……」


 由良は奇妙な笑みを浮かべた。綺麗に引かれた一重まぶたの目に、陶酔の色が広がった。翳りを帯びた暗い雰囲気はあるものの、こうして見ると由良はよくできた彫刻のような顔だちをしていた。


「でも、私は自分の身体を通してその存在を感じているんだ。私のここが、彼と繋がっている」


 正体不明の存在を彼と呼んだ由良は、声にもどこかうっとりとした酔いを滲ませ、おもむろに顔の半分を覆っていた髪を掻き上げた。


(ひぇっ)


 竜馬が腰を浮かせた拍子に、椅子が音を立てて揺れた。

 一巳が小さく息を呑む気配がした。

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