俺たちのファイナル・ゲーム

美鶏あお

信じるか? 信じないか?

第1話

「ええっ? 日本史の裏バージョンですか? ホントにそんなのあるんですか?」


 のほほんと楽しげに賑わう都心の夜。今日も昨日と変わらぬ軽い足どりで行き交う人々を見下ろす巨大スクリーンに、最近人気のオカルト番組が映し出されている。


「光と影、陽と陰、ポジとネガ。物事には何でも表があれば裏があるもんでしょう? もっとも私の言う日本史の裏は、実はそっちの方が真実。みんなが知らない正しい歴史なんです」

「それを我らオカルト界が誇る月刊『アトランティス』の編集長、由良さんだけが知っているというわけですね。いやあ、さすがですねぇ。聞きたいなあ」

「説明は簡単ですよ。教科書に載ってる歴史は、所詮は日本という小さな器のなかで起こったさざ波すぎません。ところが裏側では、この国の命運を賭けた男たちのゲームが繰り広げられてきた」

「ゲーム、ですか?」

「そう。日本の国を盤上に見立て、両者が戦うんです。互いの手駒は、二人によって特別な力を与えられた能力者たちだ」

「いいですねぇ。これぞ漫画大国日本の秘史って感じで。で? その両者というのは?」

「さあ? それは私にもわかりません。人の目には見えない大いなる意志のようなものとしか」

「はあ?」

「残念ながら我々の世界に存在するのは、このちっぽけな脳味噌で理解できるものだけです。人間はそれ以外の、いったい何なのか正体がつかめないものに対しては様々な名前を付けては拝み奉り、時に恐れおののく。見えないふりをして、日常から追い出す者もいるでしょう。たとえば、妖怪や幽霊がそうだ。神様もそう。宇宙人もね」

「宇宙人!? そりゃまたスケールがでかい!」

「でかいですよ。だから、日本なんぞこの世からなくなってもいいと思ってるチームが勝利した時は、私たちの国は地球上から消滅する」

「責任重大ですね」

「大いなる意志の正体が何かなんてのは、正直、どうだっていいんです。いったん始まってしまえば、手駒の彼らは終わるまで戦うしかない。表の世界で私たちがのほほんと暮らしている裏で、彼らは決着が着くまで命の保証のないバトルに身を投じるしかない。━━問題はですね」


 シャツもパンツも靴も黒一色で固めた由良の、斜めに長い前髪から片方だけ覗いた右目がカメラに向いた。由良はひと呼吸置いて、言った。


「問題は、ほぼ百年に一度の周期で訪れる開戦の時が迫っているということです。新しい駒に、ファイナル・ゲームの次なるプレーヤーに白羽の矢が立つ時です」


[信じる? 信じない? あなたはどっち?]


 番組の合い言葉が殴り書きふうの大文字で、由良の頭上にドドーンと映し出される。

 由良はビシッと、画面の向こうの視聴者を指差すポーズをとった。


「次に戦うのあなたかもしれない!」


 大げさな振りといい、煽り文句といい、芝居がかっていかにも胡散臭い。だが、迷いもなく真っ直ぐに伸ばされたその指先は、まるで決まった誰かを指名しているかのように見えた。

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