仕送り

最早無白

仕送り

 インターホンが鳴る。


「朝からなんだよ……?」


 青年は扉を開けると、そこには宅配便の男性と、大きな段ボールが出迎えていた。


「こちらにサインをお願いします」


「は、はい」


 彼は渡されたペンで自身の苗字を記入し、段ボールを受け取る。横幅が四十センチメートルほどもあるそれには、一体何が詰まっているのか。


「仕送り……じいちゃんからか? 珍しいな」


 はさみの刃を使い、ガムテープ製のバリケードを確実に剥がしていく。こじ開けた先には五キログラムの米と、その他もろもろ。配置からしてメインはこの米だろう。


「ありがてぇ……ありがてぇ……」


 青年は感謝の意をつぶやきながら、荷物の中で最も体積の大きい米を台所に移動させる。ずっしりとした感覚が腕の筋肉を襲う。大学に入って思うように運動をしていなかったツケか。

 核を失った荷物の壁が段ボール内で崩れていく。中には半玉のキャベツ、にんじん、にんにく、そしてほうれん草。それと一通の……


「封筒?」


 のり付けはされていない。僅かに厚みのあるそれには、一体何が入っているのだろうか。どんなに予想をこねたって、結局は開けてみるしか内容物を知る術はないのだ。


「どれどれ……おっ!」


 印刷された偉人と目が合う……しかも三人も。


「あぁ……ありがてぇ~……」


 この偉人がいてくれれば、しばらく生活には困らない。青年は天を仰いで祖父に感謝した。


「ん? まだ入ってるのか。あれ、取れねぇ……」


 青年は封筒をぶんぶんと振ると、三つ折りにされた紙がゆっくりと宙を舞った。


「おっ出た出た~。ん、手紙?」


 祖父から青年に宛てられた手紙。こんなことは初めてだ。


「どれどれ……?」


 高陽たかはるへ。

 爺ちゃんは今日で八十八歳になりました。また一段と爺ちゃんらしくなったよ。

 ところで高陽は『米寿』って知ってるか? なんでも『米』という字は『八、十、八』を合わせたから米寿、らしい。爺ちゃんも高陽の母さんに聞いたからよく分かってないんだけど。だからお米を送っておいたよ。ちょっと多いかな?


 それと、夜深よみちゃんとはどうだ? まだ続いてるか? 爺ちゃんも婆ちゃんも夜深ちゃんが大好きでね。今は大学が忙しいと思うから、焦らなくても大丈夫。ゆっくりと夜深ちゃんとの仲を深めていってね。ひ孫、楽しみにしてるよ~。


「……なんてこと書いてるんだよ、じいちゃん!」


 最後の一文は、か。恐らく青年の顔はりんごより赤くなっているだろう。八十八歳となった祖父の冗談に振り回される青年の図がそこにあった。

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仕送り 最早無白 @MohayaMushiro

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