【KAC20225】長寿戦隊 ベイジュマン

タカナシ

第1話「最終回」

 地球の危機が予言され、生まれたときから戦うことを宿命付けられた者たちが居た。

彼らは、幼い頃より戦いの訓練を受け……、そして88年後、とうとう地球に危機がやってきたのだった。


                ※


「ははははっ! 貴様ら人間の活力を、このフセッ星人のニドーネ様が奪ってやる~~」


 亀の甲羅のように布団を被ったビジュアルの怪人が街を闊歩し、手から出るミニ布団に当たった市民はその場に無気力に倒れ込む。


「ふぅ、この辺りの人間の活力は奪いつくしたかな」


 普段は人で溢れかえる街並みから喧噪が消えた頃。


「ま、まてぇ~~い」


 弱々しいほど震えた声が怪人を呼び止めた。


 怪人ニドーネが振り向くと、そこには、よろよろと歩く老爺ろうやが一人。

 

「なんだ? 爺が一人で何ができる?」


 ニドーネはあざ笑うように呟くと、


「フォッフォッフォ。いつ、一人だと言ったかのぉ?」


 その声と共に、杖を持った老爺と歩行器を持った老爺、さらに車いすに乗った老爺。最後にスタスタと歩く老婆が、颯爽とは言い難い、ゆっくりした速度で四方から現れた。


「皆の者、変身じゃっ!!」


 それぞれが、どうみても手首に巻くタイプの血圧計にしか見えない機器のスイッチを入れる。


 目に優しい、裸電球の明かりが周囲を包み、足を上げなくても装着できる浴衣タイプの変身スーツに身を包んだ。


「喀血は生きてる証っ! ベイジュマンくれないっ!」


 最初に現れた老爺が不穏な言葉と共に名前を告げる。


「いや、洒落にならんぞ!」


 ニドーネは思わず変身最中にも関わらず声を上げる。


「ゼェゼェ……、酸素濃度は生命線! ベイジュマンあいっ!!」


 杖の老爺が息も絶え絶えに告げる。


「ゆっくり、ゆっくりでいいから!」


 ニドーネは全力なその姿に同情を表す。


「栄養剤で高カロリー! ベイジュマンだいだいっ!!」


 歩行器の老爺がぴちぴちの肉体をひけらかす。


「健康に見えるけど、たぶん違うんだな! 影ながらの頑張りでその体なんだよな。うん。誇っていいわ」


 一番健康そうだが、影の努力を思うと、ニドーネは若干泣けてきた。


「点滴、服薬、我が糧に! ベイジュマン漆黒しっこくっ!!」


 車いすの老爺が両腕を見せるように上げる。


「色々危なそうに聞こえるから止めろよっ!!」


 むしろ、自分の存在さえ脅かすかもしれない漆黒に恐怖する。


「紅一点。わんちゃんとの散歩が生きがい! ベイジュマンベージュ!!」


 唯一の老婆だけがなぜかぶりっ子ポーズを決め、本当に戦隊ヒーローのようであった。


「普通っ!! いや、この中で普通が一番異常なんだが。そんで、一人だけ名前がカタカナだし。ベージュって、ただのあんたの服の趣味だろ!」


 ツッコミに余念がなくなりニドーネ。


「我ら、長寿戦隊 ベイジュマン!!」


 爆発の代わりに後ろから喉を潤す湯気が立ち上り、紅が拳を握る。


「我らが命をかけて、世界を救うっ!!」


「いやいや、おかしいだろ! 本当にガチに命掛けてるしさ! そういうのはもっと未来ある若者に託すべきだろう。むしろ、全員司令官とかオヤっさんポジじゃないかっ!」


 あまりに想定外の事態にニドーネはおろおろとし、


「えっと、そこまで人材とかいないなら、逆に私たちフセッ星人に支配された方が幸せなんじゃないかな。ほら、布団敷いてあげるから皆休んで。体冷やすと体に悪いぞ」


 ニドーネは丁寧に布団を敷き、リーダーと思しき紅に手を差し伸べると、急に視界が反転した。

 気づいたときには自分が床に寝かされていた。


「こう見えて合気道の達人なんじゃよ。あんた、怪人にしてはお優しいようだが、たかだかわし等の三分の一にも生きておらんもんに労わってもらうほどやわな人生は歩んでおらんよ」


「く、くそっ。油断した。だが、もう今のようなことは起きないぞっ!」


 ニドーネは起き上がると、やたらめったらにミニ布団を飛ばす。


 バチバチバチッ。


 しかし、その全てが藍の杖によって叩き落された。


「ゼェゼェ……」


「まさか全部叩き落されるとはっ! だが、やはり高齢、体力がないようだな。いつまで持つかな?」


 さらにミニ布団を飛ばそうとすると、


 プスッ。


 首にチクリとした痛みが走ると同時に力が抜けて、その場に倒れ込む。


「な、なにが……」


 ニドーネの視界に注射器を持った漆黒の姿が。


「薬は止めろよ! 色々危険なんだからっ!」


 体にぴくりとも力が入らないことを確認すると、ニドーネは自身の敗北を悟った。


「これは、もうどうしようもない。負けを認めよう。だが、タダでは死なんっ! 我らがフセッ星人の誇る科学力によって理性を失う代わりに巨大化できるビームを宇宙船から発射させてもらうっ! これで貴様らも道ずれだっ!!」


 宇宙船と交信しようとした瞬間。ボンッという微かな音と宙に僅かに光が灯る。


 ――ザァーー、プツッ。


「ば、バカな。まさか、宇宙船までやられたのか?」


 ニドーネは眼球を動かすと、橙が誇らしげに胸を張っていた。手にはあからさまな起爆スイッチが握られている。


「か、影で頑張るなよっ!! いや、しかし、宇宙船の位置はどうやって」


「わんちゃんのお散歩中に犬友とかから聞いて。井戸端会議ってなんでも知れちゃうのよ!」


 ベージュの答えに、


「そんな、バカなぁ!!」


 断末魔の叫びをあげながら、ニドーネは爆発した。


「我らが長寿戦隊 ベイジュマンに来週があると思うなよ! 一話完結が必須なのだ!」


 こうしてたった一回の戦闘で世界の平和は守られた。

 ありがとうベイジュマンっ!!

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【KAC20225】長寿戦隊 ベイジュマン タカナシ @takanashi30

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