後編:全ては白日の下に

 



「私は、隣国の魔導国家の第四王子だ」

 アルテュールが宣言する。

「そこにいる男とは、一切血の繋がりはない」


「な、何言ってんのよ!アンタなんか単なる下町の酒場の女が産んだ男でしょ!」

 マリアンヌが叫ぶ。彼女は、使用人からずっとそう教えられてきたのだ。

 だから、アルテュールに対しても、見下した態度をずっと取っていた。


 マリアンヌは、アルテュールが10才どころか、連れて来られた当初から、王と血縁関係にない事を知っていた。

 隣国ではアルテュールに会っていなかったために、王子だとは知らなかったようだが……。


 普段から見下していたから「アルテュール相応しくない」という言い方になったのだろう。

 本来なら「その女はアルテュール相応しくない」か「アルテュールは勿体ない」が正しい言い回しだ。


「好きなように思うが良い。もう関係ないからな。私とルイーズは隣国へと帰る」

 アルテュールとルイーズの横に、ルイーズの両親であるシモン伯爵家も並ぶ。

「私達も隣国へと参ります。元々領地も持たない宮廷貴族ですからな」

 シモン伯爵の言葉に、王が顔色を変えた。


「ま、まて、シモン伯爵。国を守る結界はどうするのだ」

「そんなもの、知りませんわ。アルテュールの父は、私の甥に当たりますの。私は親戚を蔑ろにする国に使う力など、持ち合わせていないのですわ」

「私も妻の意見に賛成ですな」



「待ちなさい。どうせ自国に帰ってもたかが第四王子でしょう。この国にいれば王太子ですよ」

 冠を持った宰相がアルテュールに声をかける。

「血の繋がりもないのに?」

 アルテュールは鼻で笑う。

「それでは、マリアンヌ様と御結婚されれば、王になれます。ルイーズ様は側室になされば良いではないですか」

 宰相が必死に説得しようとする。


「私でなくても、誰かマリアンヌと結婚させれば良い」

「それは……」

 アルテュールの提案に、宰相は言葉を濁した。


「出来ないですよね?マリアンヌの寝室には、小さい頃から夜な夜な陛下が訪れてたんですから。事情を知らない人間を婿になんて迎えられませんよね?」


 会場がどよめいた。近親相姦、幼女趣味、などと陛下を貶す囁きがあちこちであがる。

「ご安心を。近親相姦ではありません。マリアンヌは、王妃と宰相の子ですから」

 小さな悲鳴を王妃があげる。


「幼女趣味の王の為に、女の子を産んだんですよね。その為にもしたんでしょう?8才でセックス自体に抵抗ないなんておかしいですよ」

 うずくまるマリアンヌに、アルテュールは視線を向ける。

「痛いのが嫌だったんですよね、子供の頃」

 まぁすぐに慣れたみたいですけど、と呟いたのは、横のルイーズにしか聞こえない。


「良かったですね、宰相。貴方の作戦は成功です。子供の頃から抱き続ければ、子を成せる年齢の頃には情がわいているはずだから、幼女趣味の王でも後継ができるはずだと考えましたよね」


 宰相の顔色は、青を通り越して白い。

 会場からは、物音ひとつしなくなっていた。


「おめでとうございます。マリアンヌは妊娠してますよ」


 アルテュールが満面の笑みを浮かべる。

「もう一度言います。私達は、隣国へ帰ります。結界がなくなっても、これだけ色々画策できる頭があるんだから、何とかなりますよ」

 アルテュール、ルイーズ、シモン夫妻の体が光に包まれる。隣国への転移魔法だ。

 そして、光が消えると、4人の姿も消えていた。


 死んだように鎮まりかえっている空間に、アルテュールの最後の声がひびく。



「こんな国、滅べばいい」



 遥か遠くで、ドラゴンの咆哮が響いた。



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