⟨⟨珍⟩⟩魔法生物カメラマン ~生き物好き魔女の異世界アドベンチャー~
野上チヌ
ハティ流星群
魔女のカメラマン
パシャパシャ。パシャパシャ。
広場に鳴り響くのは馬の蹄の音でもなくカメラのシャッター音だった。
広場は円形になっており、その外側を馬車が行きかっている。中でも目を引く馬車は貴族が乗っている。馬車を引っ張っているのは馬ではなくペガサスだ。純白で美しいペガサスに広場にいる全員の視線を集めている。翼を広げる姿などとても優雅だ。
広場にいる魔女も例外ではない。夢中で写真を取り続けている。お客をほったらかしで......。
「あのー」
「もう少し待ってください。今いいところなんで」
白い長い髪の魔女に呼びかけるのはお客と馬車のマスケット銃をもった護衛の一人だ。お客は写真を撮ってもらおうと、護衛は馬車を動かしても良いかと聞くが、お客と護衛に同一の答えが返ってくる。魔女の返事に困っていると、狐が魔女に駆け寄った。
「エウアドネ様。皆困ってますのでおやめください」
どうやら狐は魔女の使い魔らしい。
魔女は使い魔の言葉を聞くと辺りを確認した。数回、頭をキョロキョロ辺りを見回すと顔を赤らめてお客の元へ行った。
「すいませーん。ちょっと熱くなりました」
「ちょっと?」
あれのどこが……と思いつつお客は写真を撮ってもらうために噴水の前に立つ。
「写真は三枚ということでよろしいでしょうか?」
「さっきも言いましたよ。三枚です」
そうだったっけ?と頭を傾けながら魔女はカメラをセットする。カメラは木製のスプリングカメラだ。三脚の高さを合わせたりピントを合わせたりしている。
「では、取りますよー」
パシャという音がなる。魔女はフィルムを取り出し「後はお願い」と使い魔の狐に渡す。すると、かってにフィルムと道具が暗い箱に吸い込まれていった。しばらく経って狐が写真を取り出し魔女に渡す。
「三枚なので…えっとー? 銀貨三枚ですね」
お客が銀貨を渡すと魔女は写真を四枚渡した。お客が「一枚多いがこれはなんだ?」と聞く。
「それはサービスです」
魔女がサービスと言った写真にはグリフォンが写っていた。
「このグリフォンはあなたが撮ったものですか?」
「そうです! 私は珍しい魔法生物を探して旅をしています。もちろん。写真を撮るためですよ。何か知ってたりしません?」
お客はいいえと答えた。「そうですか。ありがとうございます」と言うと使い魔を連れてどこかへ行ってしまった。
ガヤガヤとうるさい夜の酒場の中、一見場違いな魔女が酒を飲んでいる。見た目は若くやっとお酒が飲めるかどうかの歳くらい。その魔女の隣には狐が座っている。何やら酒の飲みすぎを忠告しているようだ。
「いいじゃない。これくらい飲んだって。金なら今日仕事で入ったんだし」
私は使い魔のフェンを鬱陶しく思いながら飲んでいる。
いいじゃない。グリフォンを見つけた時以来まだ珍しい魔法動物の情報がないんだから......。
私にとって魔法動物を探す冒険は生きがいだ。それができないんじゃ酒を飲むしかないでしょ。
「あー。何でもいいから何か。面白い話ないかなー」
「ほう。面白い話しか。それならハティ流星群の話は知っているか?」
私は突然、絡まれてあからさまに嫌な顔したのでしょう。話しかけてきたおじいさんは「そんな顔せんでもええじゃろ」と言った。まあ、私が聞いたみたいなものだしいっか。
「それでハティ流星群とはなんですか?」
おじいさんは語りだした。冒険家だった父親から聞いた話らしい。
「ハティとは何か知っているじゃろな?」
「知っていますよ」そんなことも知らない馬鹿だとお思いで?と私。それからおじいさんはハティについて説明しだした。知ってるって言ってるのに。
「ハティとはオオカミじゃ。とても巨大で月を追いかけとる。たまに起こる月食はこのハティが捕まえるのに成功するからじゃ」
ハティは常識だ。太陽を追いかけるのがスコルと言うオオカミで月を追いかけるのがハティと名付けられている。
「はー。それで、流星群とどんな関係が?」
「ハティ流星群はここからさらに西にシラエ山という二股山がある。その山を上ると川が見える。さらにその川の上流に滝がある。その滝ではこの時期になると流星群が見られるのじゃ。その流星群はハティと共に現れるのでハティ流星群と名付けたそうじゃ」
それからおじいさんは親父の冗談かもしれんがなと言った。
「足腰が弱った今では確かめようがないがな」
「私が行ってみましょうか?」
私の提案におじいさんは驚いた顔をする。噓かもしれない話を信じてもらえると思わなかったのだろう。私のモットーは聞くより見て見ろ。どうせほんとかウソかなんてここではわからないのだから私は行って確かめてやる。
「もし、流星群が見れたら、写真持ってきますから。覚えておきなさい」
私はそう言ってから酒場の出口に向かう。
「今から行くのか?」
おじいさんが驚いた顔で聞く。今は夜だ。今からほうきで飛んでもただ危険なだけだ。
「善は急げ。今からでもいきます!」
私はローブをカッコよく翻して店を出ようとしたら後ろに何か重量を感じた。後ろを振り向くと使い魔のフェンが私のローブをつかんでいた。
「お待ちください。さすがのエウアドネ様でも夜の飛行は危険かと」
使い魔の提言に私は熟考する。このまま危険を省みず行くかそれとも明日行くか。グルグル私の頭の中は竜巻のように回転する。
「よし、決めた。フェン、しっぽモフモフさせてー」
何で?とでも言いたげな顔をフェンはしているがこれは決定事項だ。今すぐにでも行きたい気持ちを押さえて譲歩できる最低の条件だ。私はフェンをたっぷりモフモフして明日の
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