ふくふく
福守りん
ふくふく
昨日、ばーばが八十八才になった。
あたしは十五才。七十三才差だ。
うちのおばあちゃんは、ママのママ。
パパのほうのおばあちゃんは、もう亡くなってる。
「ばーば。なんか、ほしいものある?」
「ないね」
そっけなかった。
「あたしのおこづかいで買えるものなら、買ってくるよ?」
「無駄づかいはしない」
「……はーい」
ばーばは、昔話の中にでてくるおばあさんみたいな話しかたはしない。
ぼそぼそっと、短い言葉で話す。
やせていて、体がちいさい。
まっ白な髪は、きれいなおかっぱになってる。
「ホットケーキは? 作ってあげようか」
「いいね」
それは、うれしいらしい。
白いくまがホットケーキを作る絵本が好きで、ちいさいころから、なんどもなんども読んでもらった。
あたしのママは働いてる。あたしを、赤ちゃんからここまで育てたのは、ばーばだった。
「ふくふく。ぺったん。しゅっ」
「いいにおいだ」
「やけたかな? まーだまだ……」
少しいびつな丸になったけど、ホットケーキができた。
冷蔵庫から、バターを持ってきた。ひとかけらずつ、ホットケーキの上にのせて、とかした。
「みっつできたよ」
「いただきます」
「いただきまーす」
ホットケーキは、あまかった。それに、ほかほかだった。
「八十八才になった気分は、どうですか」
「なにもかわらない。ホットケーキの味も」
「そっか」
「おいしいね」
「うん」
みっつめをどっちが食べるかで、ちょっともめた。
はんぶんこにすることにした。
「奈々子は、遅くにできた子で、五番目」
歌うように、ママのことを話しはじめた。
「ばーばが、いくつの時?」
「四十五」
「それって、遅いの?」
「遅いよ。おろせと言われたけど、生んだ」
「よかった」
ママが生まれてなかったら、あたしは生まれてない。
「まったくだ。最後の子に、こうして、世話になってるからね」
しみじみと言って、みっつめのホットケーキの最後のかけらを、大きくあけた口にほうりこんだ。
「ごちそうさまでした」
「はーい」
ふくふく 福守りん @fuku_rin
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