第20話

それから数日、また教会へ行く日がやってきた。


カインはザックについて周りを探ってくれたらしいが、そんな名前の少年を知っている人間はいなかった。公にされていない存在かもしれないので仕方ないと言えば仕方ないか・・・

そう思って俺は俺にできる範囲であの子を支えようと決意した。



・・・それはさて置き、今日はカインがあの服を着てくれと言って聞かなくて、渋々リボンだらけの服に袖を通している。どうせローブで隠れるというのになぜこんな服を・・・とむくれつつも断り続けるのも面倒になってされるがままになっている。

首の後ろや手首など至るところにリボンがあって非常に邪魔だ。 



「はい!完成!」


「そ、ありがとな。」


そう言ってさっさとローブをかぶった俺に今度はテイトがむくれる。


「教会に着くギリギリまでそのままでいてよ。」


「嫌だ。」


尚も言い募るカインを無視して俺は馬車へと乗り込む。中では両親が既に待っていた。





「あー・・・テイト。最近はどうだ?何か困ってることはないか?」


馬車が動き出すと、突然声をかけたお父様に驚きで目を見開いた。カインと呼び間違えたのか?そう思ってお父様を見ればしっかり俺のことを見ている。自分に話しかけられているのだと理解するのに数秒かかってしまった。


「俺、ですか?・・・ええ、特に困っていることはありませんが・・・」


「そうか、それならいい・・・」


「?」


珍しいこともあるものだ。そう思っていると、お母様とカインが苦笑しているようだった。気にしないと決めたものの、自分だけ事情を知らないようで少し寂しくなる。


微妙な空気が流れるまま教会に到着し、俺はいつも通り家族と別れて中庭へ向かった。





中庭には既にザックが来ていた。あの子の家族は来るのが早いようだ。


「よお、2週間ぶりだな。」



そう声をかければザックかパァッと顔を綻ばせた。だが心なしか顔色が悪い。


「お兄さん!」


そう言って立ち上がろうとしたザックがふらつく。


「おい!大丈夫か?」


「ご、ごめんなさ・・・大丈夫・・・」


「また何かやられたのか?どこを怪我してる?」


「足を・・・」


ザックの足を見れば目立たない膝裏に鞭で打たれたような傷があった。俺はその仕打ちに顔を顰めながら、魔法で傷口を綺麗にした。


包帯もハンカチも持っていないが今日はちょうど良いものがある。俺は右腕についている不要なリボンを解いた。

ザックを座らせ、俺は左手と口を使って膝裏にリボンを巻きつけてやる。



「とりあえずはこれでいい。もし治療してくれそうな奴がいたら見せるんだぞ。」


「うん、ありがとう!」


そう言ったザックはなぜか顔を赤らめている。



「よし、じゃあ今日も何か食べに行くか?」


いつもの提案をすると、ザックは珍しいことに首を横に振った。


「ううん、今日はお兄さんとおしゃべりしたい。」


「俺と・・・?もしかして金がないことを気にしてんのか?」


「ち、違うよ!食べるより、お兄さんと話がしたいの。」


「そうか・・・?まあ別にいいけど。」


腹は空いてないのだろうか。相変わらず痩せ細ってるザックを見ればそんなに満足に食べているようには見えないが。




「よかった!じゃあ質問!お兄さんは貴族なんですか?」


それでも元気に訪ねてくるザックを見れば、まあ大丈夫なのだろうと思えた。


「一応貴族の家の生まれだよ。そうは見えないだろうけどな。」


「なんでローブを被ってるんですか?」


「うーん・・・俺の姿は皆に忌避されるからな。」


「そんな・・・僕は絶対にそんな風に思いません!」


「はは、どうだかな。」


「本当ですよ!」


そうむくれたザックの頭を撫でる。実際にこの腕を見せたらどんな反応をするかはわからないが、そう言ってくれることは純粋に嬉しかった。



「じゃあ俺からも質問だ。ザックの好きな食べ物は?」


「この間一緒に食べたパン!」


「他には?」


「うーん、いつもはカビだパンとかあまりもののスープしか食べてないから、よく分からない・・・」


「そうか・・・」 


その答えに胸が締め付けられた。やっぱり次は何か他のものを食べさせてやろう。できればもっと美味しくて栄養のあるものを・・・そう思っていると再びザックが口を開いた。



「じゃあまた僕からね。お兄さんの好きなタイプは?」


その質問に何も飲んで無いのに思わず咽せてしまう。


「ゴホッゴホッ、なんでそんな事を聞く?」


「ただ、気になって・・・」


少し照れ臭そうにするザックに、もしかして好きな人でもできたのだろうかと考える。俺の意見など参考にならないだろうが、この子が誰かを好きになる余裕が生まれたことにホッとする。



「好きなタイプか・・・俺は考えたこともないな。そもそも恋愛には縁がないだろうし・・・参考にならなくて悪かったな。」


「あっ、ごめんなさい・・・。その、容姿のせいで・・・?」


「ああ。・・・まあ、性格も良くないけどさ。」


「そんなことないです!」


なぜか勢いよくザックに否定される。そして、ザックは一瞬俯いたかと思ったら、次の瞬間ガバッと俺に抱きついてきた。


「ザック!?」


「少しだけ、こうさせてください。」


「あ、ああ。いいけど・・・」


俺は戸惑いながらも、何か悲しませてしまっただろうかと思って、ザックの背中をさすり続けた。そうしているうちにスヤスヤとした寝息が聞こえてきた。


「ザック・・・?」


俺は小声でザックに呼びかけるが返事はない。・・・時間になるまで寝かせておいてやるか。

そう思って俺はギリギリまでザックをそのままにした。

起こした後ザックは「もっと早く起こしてくれたらよかったのに」とむくれていたが「寝たお前が悪い」とデコピンで跳ね除けた。


加減したつもりなのだが、顔を赤くして額を抑えているザックを心配して覗き込めば、「ま、また再来週を楽しみにしてます!」と走り去ってしまった。

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