第17話(父コーネリウスサイド)
今日、カインから驚きの事実を聞かされた。テイトに長い間食事が出ていなかったと言うのだ。しかもそれが概ね私のせいだと知って目の前が一瞬真っ暗になった。
テイトは気に入らないことがあればすぐ癇癪を起こす子だと思っていたのに、こんな時は大人しく罰を受け入れていた。そのせいで気づくのがずいぶん遅くなってしまった。
確かにテイトには厳しく接してきた自覚がある。そのせいで今、私たちとテイトの間には大きな溝ができてしまった。
そのことが悲しくて、ふとテイトたちが生まれた時のことを思い出す。
「奥様、旦那様・・・」
使用人が蒼白な顔で赤子を取り上げた。
「どうした!?」
まさか死産だろうか。そう不安に思った私は使用人に駆け寄った。すると、使用人の腕の中には2人の赤ん坊がいた。双子だったらしい。
「なんだ、双子か。双子の男の子だ。アイリス、よくやったな!」
「まあ・・・よかった!じゃあ男の子が生まれた時に考えていた名前から2つ選びましょう。」
そうして、私たちは2人にカインとテイトという名前をつけた。
これでアーデン家の跡継ぎはほぼ心配なくなった。まあ、双子となるとどちらを後継者にするかで多少揉めるかもしれないが、一応兄という位置づけになるカインを後継とすれば問題ないだろう。
「あ、あのお二人とも、喜ばれているところ大変申し訳ございません。テイト様の腕を見てください・・・」
「腕?」
そう言って私はテイトの腕を見た。
・・・・・・右腕がない。
私はフラフラと椅子にへたり込んだ。
「あなた!?コーネリウス?どうしたの・・・」
そう言ったアイリスもテイトの体を確認した。
「あ、ああ・・・なんてこと・・・私・・・」
「アイリス、落ち着くんだ。体に障る。」
私はアイリスの肩を抱いて彼女を落ち着かせた。そして腕の中で気持ち良さそうに眠るカインとテイトを見やる。
「あなた、ごめんなさい。健康な子を産めなかったわ・・・」
「何を言う。カインは5体満足じゃないか。それで十分だ。」
「そうね・・・カインは完璧だわ。本当に良かった・・・」
「それで、テイトをどうするか・・・・・・いっそ死産だったことにして・・・」
「そう、ね・・・可哀想だけど、このまま成長してもきっと辛い思いをするわ。」
「ああ・・・それじゃあ・・・」
そう言って私はテイトを連れて行こうとした。殺すために。
だが、テイトを持ち上げようとすると、何かに引っ掛かった。テイトとカインがギュッと小さな手を結んでいたのだ。
「・・・この子達もう仲良しなのかしら。手を繋いでいるわ。」
「ああ、双子は特別な絆を持っていることも多いと聞く。もしかしたらこの2人も・・・」
「あなた・・・やっぱりテイトも育てましょう。なるべくこの子が傷つかないように、周りに知られないように。」
「まあ、できなくはないが・・・はぁ、そうだな。この2人を引き離すのは可哀想だ。」
そうして私たちは2人とも育てることにした。
小さい頃は何の問題もなかった。2人とも家の中で遊ばせて、誰に会わせるでもなく、幸せな日々が続いた。
テイトとカインは大変仲良しで、あの時引き離さなくて良かったとホッとしたのを覚えている。カインは少しお兄さん気質で、テイトの面倒を見るのも苦にならないらしい。それどころか、頼られるのが嬉しいようだ。
カインは優秀で、この家の後継として申し分なかった。テイトは出来ないことは多い上、あまり秀でた部分はなかったが、もともと働くこともできない子だ。問題にはならないだろう。
カインが伯爵となったら、カインの補佐を勤めて家な置いて貰えばいい。今の仲睦まじい様子なら自然とそうなるだろう。
そう思っていた。
ある日、親しい間柄だったスコット伯爵が前触れもなく訪ねてきた。息子のレイを連れて。
「同じ年頃の息子がいるんだろう?今のうちから交流を持たせておこう。」
と言うことだったが、あまりに突然の訪問に、私たちはテイトを隠し損ねた。
そしてカインを探しに行ったレイがテイトを見て大騒ぎし、スコット伯爵と私で宥めたのだ。
カインとテイトは不思議そうな顔をしていた。なぜレイが騒ぐのかがわからなかったのだ。
「コーネリウス、すまん・・・」
「・・・このことはくれぐれも内密に頼む。」
「ああ、レイにも言って聞かせるよ。」
スコット伯爵はそう言っていたが、この頃から"アーデン家の欠陥品"の噂が流れるようになった。
スコット伯爵家のせいかはわからない。もしかしたら使用人の誰がが漏らしたのかもしれない。
だがこの日を境に、家の中の楽園が崩壊してしまったのだ。
テイトは、自分が他の人と違うのだと言うことを自覚し始めた。
カインは、なぜテイトが蔑まれるかの理由を知った。
それでも、カインはテイトを愛しているようだったが。
貴族の家に障害のある子が生まれてくるのは不名誉で不吉なことだ。そのため、アーデン家の醜聞を掴もうと、テイトにまつわる噂の真偽を確かめようと探ってくる者が増えた。
私達は必死にテイトを隠し、対外的にはカインを表に出すことで、その騒ぎを鎮めようとした。
その甲斐あって、"アーデン家の欠陥品"は、貴族界に流れる数ある噂の一つとなった。
もちろん、スコット伯爵を含めバレてしまった相手も何人かはいるのだが。幸いというべきか、私達を害そうと悪意を持っている者はいなかった。
だがやっと落ち着いた騒ぎにホッとしていたのも束の間、今度はテイト自身が問題を起こすようななったのだ。
反抗期なのか知らないが、やたらとカインを拒絶するようになったのだ。
(お前はカインに面倒を見てもらわなければ生きていけないというのに・・・!)
私はテイトに憤りを感じた。甲斐甲斐しく面倒を見るカインを拒絶する理由が分からなかったのだ。
そのため、必然的にカインを褒め、テイトを叱ることが増えた。
テイトが悲しそうな顔をする度に少し胸が痛んだが、理解できないこの子が悪いのだ。そう思っていた。
そして、テイトの癇癪があまりに酷く、カインも手を焼くようになったので、家族全員にテイトから距離を取らせるようにした。
(しばらくそっとしておけばそのうち落ち着くだろう・・・)
それにテイトは立場が弱い人間なのだ。そんな我儘では困る。多少は#身の程__・__#というものを分からせないと。
そう考えてのことだった。
テイトの部屋を屋敷の奥まった場所に移し、来客があっても出くわさないようにした。本だけを与え、家庭教師はあえて付けなかった。教師に蔑まれることが目に見えていたからだ。
そして私たち2人はテイトをあまり構わず、テイトがカインを頼るよう仕向けた。・・・私たち2人はいずれ先に死ぬ人間だ。カインと仲良くなってもらわねばテイトの未来はない。
またカインには、テイトのことを嫌いにならないよう優遇して扱いの差を示した。カインがテイトを可哀想だと思って、将来面倒を見てくれるように・・・
全ては2人のことを思っての行為だったが、今はそれが正しいことだったのかわからない。
カインは何をしなくともテイトのことが大好きだったし、テイトは放っておきすぎたことで、自分は誰からも愛されていないのだと自暴自棄になってしまった。
(これからは、2人への向き合い方を変えなければならないかもしれないな・・・)
そう考えながら、私は使用人を集め、テイトにも食事を出すよう指示を出しに行った。
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