第16話(カインサイド)

その日、僕は2年近くも前からテイトに食事が出ていなかったことを知った。


(そんなことにも気づかなかったなんて・・・)


それでも兄弟かと自分を責める気持ちが押し寄せる。テイトが段々と痩せてきたことには気づいていたが、まさかそんな理由だとは思ってもみなかった。


テイトは僕にはよく癇癪を起こしたけれど、基本的に僕以外の人に何かを訴えるのは苦手な子だった。それは周りから拒絶されていたからに他ならないのだが、だからこそ#僕だけは__・__#テイトの状況を把握していなければならなかったのに。


(でも、テイトはこのことを僕にすら打ち明けてくれなかった・・・)



もう自分は心を開ける相手ではなくなっているということだろうか。そう思うと無性に悲しい。


本人は気づいていなさそうだが、テイトは顔を輝かせて食事を頬張っていて、口では"パンだけでいい"なんて言っているが、やはり美味しい食事が食べたかったのだろうことが伺えた。


「・・・一緒の部屋にしてよかった。」


僕はテイトに聞こえないよう呟いた。


このまま別の部屋で暮らしていたら、もっと先まで気づかなかっただろう。あるいは気づいた頃には手遅れになっていた可能性も・・・そう思うと背筋が凍る。



(本当にテイトは目が離せないんだから・・・)


この危なっかしい片割れをもう少しきちんと見ておかなくては。僕はそう思って食べ終わるまでテイトを眺めていた。






そして、食事の後。ベッドに潜って本を読み始めたテイトを部屋に残し、僕はお父様とお母様の寝室を訪ねた。



「失礼します。お二人ともまだ起きていますか・・・?」


軽めのノックと共に声をかける。


「カイン?どうしたの?」


すると、部屋の中からお母様が顔を覗かせた。どうやらお父様も起きているらしい。



「テイトのことでお話があります。」


「あいつがまた何かやらかしたか?」 


「いえ!違います。むしろやられていたと言いますか・・・」 


お父様がまたテイトが癇癪を起こしたのかと疑い始めたので、慌てて否定する。


「お父様。夕食の席でテイトに食事を出さなくていいと仰った日のことを覚えていますか?」 


「ん?ああ・・・確かお前たちが12の頃だったか。・・・あれからテイトは夕食の席に現れなくなったんだったな。」


「はい・・・それで今日、一緒に食事をしようとしたのですが・・・テイトにはその日から食事が出ていないようなのです。」


「・・・・・・は?」


「どういうことなのカイン?」


両親は驚いている。なんとなくわかっていたことだが、やはり2人が意図したことではないらしい。

僕は2人につい先程の出来事を説明した。



「何てこと・・・あなた・・・」


「まさか、あれからずっと食事が出ていなかったというのか・・・」


「テイトは・・・使用人たちから見くびられています。だから、お父様の言葉をこれ幸いと用意をしなくなったのでしょう。」


「テイト本人はなぜ何も言わない!?ちょっと前までなら癇癪を起こしていたはずだろう。」


お父様はいまだに信じられないと言った風に机を叩いた。



「きっと聞き入れてもらえないと思ったのではないでしょうか。それにテイトも意地っ張りなところがありますから・・・」


「そうか・・・確かにな。それに私も悪かったようだ。使用人たちには食事を準備させるよう言っておく。」


「クビにはしないのですか?」


「・・・一番悪いのは私のようだからな。」  


「そうですか・・・わかりました。」


とりあえずこれで食事問題は解消されるだろう。僕は礼をして部屋を後にしようとした。

すると、後ろからお母様に声をかけられる。


「カイン。テイトのこと、気づいてくれてありがとう。これからも気にかけてあげてね。あの子はあなただけには心を開いているようだから。」


「・・・わかりました。」


両親もテイトのことを愛していることは知っている。扱いに困りながらも自分の子として愛そうとはしているのだ。


(不器用だし全然至らないけど・・・)


小さい頃からもっと向き合っておくべきだったのだ。愛していると伝えてもっと触れ合っていれば、あるいは。

今ほど性格が捻くれることはなかったのかもしれない。


だけど、だからこそこれからは僕が気にかけてあげなければ。そう決意を固める。

   


"あの子はあなただけには心を開いているようだから"


先程お母様が言っていた言葉が頭の中で反芻する。


(そうだといいなあ。)



テイトはまだ自分にも心を開いてはいないと思う。それでも家族の中ではきっと一番警戒していないのは確かに僕だろう。


そう思うと、ちょっとした優越感に浸ることができた。

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