第14話

あれから数日。あっという間に第4日曜日がやってきた。


教会に行くのは非常に億劫だが、ザックがまた会いにくるかもしれない。そう思うと、サボりたいと言う気持ちは自然と消えた。まあ、お祈りはどちらにしてもサボるのだが。


まだ両親とは気まずい雰囲気のまま、教会へと到着する。2人は俺と会話をするのを諦めたらしく、特に何も言ってこなかった。


「それでは、また後で。」


俺はそう言ってさっさと3人の元を去った。





人気のない庭に出ると、ザックが既にそこにいた。


「あっ!お兄さん!」


「ザック。もう来てたのか。」


「はい、お兄さんに会えるのを楽しみにしてました!」


ザックは相変わらず痩せ細ってはいるが、前回よりずいぶん明るい雰囲気だ。


「ずいぶん元気になったみたいだな。家では大丈夫だったか?」


「はい・・・まあ、嫌がらせはありますけど・・・大丈夫です。」


「そうか、頑張ってるんだな・・・」


俺は左手でザックの頭を撫でる。


「えへへ。」


ザックかひどく嬉しそうに喜ぶのでこちらまで嬉しくなってしまう。


(何だか良いな・・・こんな風に慕われて、頼られて・・・)


ふと、昨日のカインの言葉を思い出す。


"昔は僕の後をついて来てくれてたのに、いつの間にか避けられるようになって・・・凄く寂しかったんだ。"


(・・・あいつも俺に頼られて、こんな気持ちだったのかな・・・)


もしかすると、俺がひねくれすぎてカインの好意を嫌味のように受け取っていたのかもしれない。そう思うと、カインには少し冷たく当たりすぎた気がした。





「あの、お兄さん?」


「ん?なんだ?」


少し意識をよそへやっていると、ザックが俺のローブを引っ張りながら呼びかけてきた。


「お兄さんは、なんていう名前なんですか?この間、聞きそびれて・・・」


「あー、悪い。それは秘密だ。俺のことはそのままお兄さんとでも呼んでくれ。」


ザックが俺のことを言いふらすとは思えないが、なるべくテイト・アーデンという存在は隠したい。適当な偽名でも名乗れば良かったのだが、咄嗟には思いつかなかった。



「そう、ですか・・・」


がっかりした様子のザックに申し訳ない気持ちになる。


「悪いな、あんまり俺の存在は知られたくないんだ。このローブだってそうだし。」


「いつか、いつか教えてくれますか?」


「うーん、そうだな。いつか俺が自立したら教えてやるよ。」


「やった!」




機嫌が治ったらしいザックにホッとして、考えていた提案をする。


「よし、今日は少しお金を作って来たからなんでも食べたいものをご馳走するぞ?何が食べたい?」


「いいんですか!?」


「ああ。まあ12時までに戻れる程度のものな。」 



そうして俺たちは再び街に繰り出した。ザックが食べたがったのはクレープだ。・・・なかなか高いものを頼みやがると内心冷や汗をかいたのは秘密だ。


「わぁ!こんな甘いもの初めて!」


そう喜んでいるザックを見れば値段など忘れられた。柄にもなく微笑ましく思ってザックを見守る。


(俺なんかでも誰かを喜ばすことができるんだな・・・)


それが無性に嬉しかった。



まあ所詮は家の金を使ってるに過ぎないのだが。それに、ふとよぎる考えがある。


(ザックと知り合ったのが俺じゃなくてカインだったら・・・)


もっと根本的にザックが抱える問題を解決できたのではないだろうか。そう思うと少し悲しくなる。でも虐待を受けているらしいザックを放置しておくことの方が問題だ。



「ザック。お前、家の名前はわかるか?」


「それは、言うなって皆が・・・」


「ああ、何もお前の姓を名乗れって言うんじゃない。住んでる場所とかでもいい。」


「・・・やっぱり、ごめんなさい。」


「そうか・・・」



相当厳しく言われているのだろう。相手はこんな小さな子を鞭で打つような人間なのだし、それもそうかと納得する。



(一応、カインに相談してみるか・・・)


不本意だがそれが良い気がする。




そういえば、小さい子供だと思っていたけれど、ザックは何歳なのだろう。


「ザック、お前歳はいくつなんだ?」


「僕?12歳だよ。」


「じゃあ俺の2歳下か。」


思ったより近いんだな。小さいからもっと離れているかと思ったが・・・きっとあんまり食べてないせいだろう。


「そうか。もっと食べて大きくなれよ。」


「うん!」



そうして12の鐘が鳴る頃に合わせて俺たちは教会へと戻った。

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