欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される
@aitoria
第1話
高熱に苦しみながら1人ベッドでうずくまっていたある日。意識を手放すと同時に夢を見た。
ここではない別の世界、日本で俺は会社員だった。
毎日のように続く残業でぼんやりしていた俺は、帰宅中に赤信号に気づかず横断歩道を渡り、トラックにはねられた。
(俺・・・転生したのか?)
テイトと俺の記憶がごっちゃになって混乱する。しかも今は高熱で死にそうなくらい頭が痛い。
だというのに看病どころか見舞いにくる人間もいない。そもそも俺が高熱で苦しんでいるなんてことも誰も知らないのだろう。
俺はアーデン伯爵家の息子のうちの片方だ。何故そんな言い方をするかと言うと、俺が双子だから。
一卵性双生児で瓜二つのアーデン家の息子。それがカインと俺だ。
2人とも黒髪に水色の瞳で、両親の遺伝子のおかげで割と整っていると思う。
見た目はそっくりな俺たちだが、2人を見分けるのは難しくない。というより一目見れば遠くからでもわかる。
何故かって俺には右腕がないから。
俺には生まれた時から右腕がなかった。この国の国教であるルナリス教では体の障害は前世の行いが悪かったことによる罰だと言われている。
そんなわけで、俺が生まれたとき、お母様は卒倒し、お父様は頭を抱えたらしい。
2人はなるべく俺を外に出さずに育てたけど、人の口に戸は立てられなかった。
そうして、俺は、アーデン家の罪人とか、アーデン家の欠陥品と呼ばれるようになった。
そんな悪評に苦しむ2人を癒したのが他でもないカインだ。
カインはとにかく優秀で、勉強を教えればあっという間に吸収するし、運動神経もよくて剣技の才能もある。
一方で俺は、何をやらせても普通、それどころか腕が片方しかないから人並みにできないことの方が多かった。
そんなわけで、新たにアーデン家の出来損ない、とか、アーデン家の出涸らしという商号を獲得した。
両親はカインばかりを可愛がり、俺のことは辛うじて面倒は見るものの扱いに困っているようだった。
そして俺はというと・・・
それはもう見事なまでにひねくれた。カインに嫉妬して突っかかったり、癇癪を起こしたり、散々だ。
(まあ、こんな環境で育ったら無理もないけど。)
今となっては自分のことだが、他人事のようにそんな風に思う。
小さい頃から誰にも愛情を注がれず、同じ顔をしたカインだけが愛されて幸せそうにしているのをずっと横で見続けてきた。
いや、誰からにもは違うか。カインだけは俺のことを好いてくれているようだった。
まあ、それが余計に俺をひねくれさせたのだが・・・
小さい頃の嫌な記憶の一つが蘇る。
「ねぇ、カイン。一緒に遊ぼうよ。」
そう言ったのは、家族ぐるみで親しくしていたスコット伯爵家の令息レイだ。
「じゃあテイトも一緒に・・・」
「えー、テイトはやだ。騎士ごっこできないじゃん。」
「でも・・・」
「っ、僕はいいから、カインとレイで遊んできなよ」
(そう。この頃はまだそんなにやさぐれてなかったんだよな。)
ちなみに一人称が"俺"なのは日本人だった過去を思い出したからで、それまではずっと貴族令息らしく"僕"だった。
「そんなにテイトに気を遣わなくったっていいじゃん。お母様が言ってたよ。障害があるのはテイトが昔悪いことをしたからだって。」
「っ・・・・・・・・・」
「テイトが、じゃないよ。それにもしテイトの前世が悪い人でも、テイトは僕の大事な兄弟だし。」
そう言って俺の手を取ったカインにレイが拗ねた顔をした。
「もうカインは!甘やかしちゃダメだよ!きっとこれは罰なんだから。」
「でも・・・」
耐えられなくなった俺はカインの腕を振り解いて走り出した。
「あっ!テイト!」
後ろでレイが「フンっ」と鼻で笑ったのがわかった。
そうして俺は1人、物置に隠れて泣いた。
(僕は何にもしてないのに・・・いつだって僕が悪者だ。)
いつしか、明るくて俺にさえも優しい天才のカインと、捻くれ者で落ちこぼれのテイトという関係図が出来上がっていた。
そうして泣き疲れて眠ってしまい、夕食に現れなくても両親には気にも止められない。そんな存在が俺だった。
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