虚の輪 1 二人の間

 温かい深皿をベッド脇の机の上に置いてから、ぐったりとベッドに横たわる異母弟、アールの白い髪に手を伸ばす。


 怪我からの熱は、まだ、下がっていない。大丈夫だろうか。しかしライが顔を顰めるより先に、アールの、ライと同じ瞳が鋭くライに噛みついた。


「弟扱いするなっ!」


 鋭い声が、小さな空間に響く。


「『七つ輪』だとは認めているが、俺はおまえを兄だとは認めていないっ!」


 普段通りの、アールの拒絶。その言葉に寂しさを覚え、ライはアールに背を向けた。


 そのライの耳に、深皿に匙が当たる音が響く。食べることができるのなら、大丈夫。柔らかく煮込まれた肉が咀嚼される音を聞きながら、ライはアールに見えないように微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る